教師の質

 アメリカでは、貧困対策は大きな課題です。そのために貧しい母親たちへの生活保護を試し、住宅の助成金を試し、「ヘッド・スタート」を試し、地域警備を試してきました。しかし、それらの取り組みでは、貧しい子どもたちはほとんど変わりませんでした。しかし、もし公立学校でもっと有効的な教育ができれば、学校こそがいままで試してきた何よりも強力な貧困追放のツールになるかもしれないとポールは思います。

 もちろん、教育改革運動の初期のころには、提案者たちにもはっきりした方向性がありませんでした。しかし、KIPPの学校が低所得層の子どもたちにしたのと同じことを国中の学校でするというビジョンだけは共通していました。ひとつの学校の取り組みを、国のスタンダードにしようとする思いです。ところが、ビジョンは共通であってもそのビジョンを実現するために最善の政策は何かという点では意見は一致しませんでした。ポールは、こう言っています。「それは、保証人だろうか?国家規模のカリキュラムだろうか?チャーター・スクールをふやすことだろうか?一クラスの規模を小さくすることだろうか?10年が経ったいま、改革者たちの関心はある特定の問題に寄せられている。」

 教育改革運動においての問題は、「教師の質」です。ほとんどの改革提案者が共通して言うのは、期待通りの仕事のできる教員が、あまりに少なすぎるということです。特に、貧困率の高い学校では、教師の質は重要なのです。それは、そうした学校で生徒の出す結果を改善するには、教員の採用、研修、給与、解雇の仕組みを変えるしかないと考えます。これは、1990年代の後半から2000年代の前半までの間に経済学者や統計学者によって発表された一握りの研究論文の中でもいわれたことだったのです。

 論文の主張によれば、付加価値分析として知られる統計的な手法によって、二つのタイプに分けることが可能であるといいます。それは、生徒の学力を徐々に上げていける教員と、ずっと生徒が遅れるままにしておく教員です。この考え方から、どう変えればよいかが導き出されます。もし、成績の悪い低所得層の生徒が続けて何年かにわたり能力の高い教員に担当してもらえれば、その生徒のテストの得点は継続して上がっていくはずです。そうやって3年、4年、5年と経った後には、裕福な同年齢の生徒との学力差はなくなっているかもしれないのです。これをもう一歩先に進めると、もし学校のシステムや教員との契約を徹底的に見直してすべての低所得層の生徒が能力の高い教員にあたれば、学力差を完全になくすことができると考えます。

 ここ数年、この考え方は政府の高官の間でも受け入れられているといいます。実際、オバマ政権の教育行政では、教員仕事にかかわる法律を書き換えています。もしくは、修正することについて州に対しインセンティブを提供し始めたそうです。多くの州が連邦政府の申し出を受け入れ、結果として教員の給与、評価、在職資格に関する様々な実験的思考が国中の学校システムにおいてあらゆる形で試されているそうです。また、財団や慈善団体は、ほかのどの分野よりも教育について資金提供するようです。それにより、「効果的な教育法」と呼ばれる3億ドルの研究プロジェクトにも乗り出したそうです。そのプロジェクトでは、良質な教え方とはどういったものか、よりよい教員集団を生み出すにはどうしたらいいのかという疑問に確実な答えを出そうとしているのです。