親の役割

 さまざまな早期教育が巷にはあふれ、それを行わないと手遅れになるかのように保護者を煽っています。わが子に、孫に幼児期に何をしてあげたらよいか迷ってしまいます。そして、「望ましい親の役割」とは何か考えてしまいます。それは、自分の生き方を決めるよりもはるかに迷うことです。ポールも同じでした。しかし、幸いにポールは、さまざまな取材から「確かに、最初の数年は子どもの脳の発達にとって決定的に重要ではある。しかしその間に子どもが獲得する肝要なスキルは教育カードで教えられるものでない」という科学者の見解を知ります。

 しかし、ポールは、息子が読み書き計算をできるようになるかどうか、突如として何の心配もしなくなったわけではなかったのです。しかし、そうした特定のスキルは自分が何をしようと遅かれ早かれ身につくだろうと思うようになります。それは、息子の環境が、本に囲まれ、読書が好きで計算も容易にこなせる両親と暮らしているのだからと思います。しかし、「性格」については少し自信が持てませんでした。まだ、よちよち歩きの幼児について話すときに「性格」という語を使うのは少しばかり滑稽にも思われたからです。もちろん個人の性格は、文化や家族、遺伝子、自由意思、運などの間で起こり、はっきりとは特定できないあらゆる種類の相互作用によって発達します。

 しかし、新世代の神経科学者たちが成し遂げた最も深遠な発見は、子どもの脳の化学作用と成人の心理の間に強力なつながりがあることなのです。私たちが性格と呼ぶ崇高で複雑な人間の性質の奥底にあるものは、科学者たちの発見によれば、発達段階にある幼児の脳内、体内の特定の化学物質による平凡で機械的な相互作用なのです。もちろん、化学作用は運命ではありません。しかし、勇敢で好奇心が強く親切で賢明な成人を生みだす一番確かな方法は、幼児のころにHPA軸をうまく機能させることであると実証されているのです。

 では、どうしたらよいかというと、ポールはこう取材の結果、こう結論しています。「魔法でも何でもない。まず、深刻な心的外傷と慢性的なストレスから可能な限り子どもを守ること。次に、これがさらに重要だが、少なくとも一人の親と(理想的には二人の親と)安定した、愛情深い関係を築くこと。これが成功の秘訣のすべてではないが、大きな、とても大きな一部である」

 こうした考えからポールは、幼い息子と遊んでいるとき、ラットのことを考えます。多くの時間を使って、高LGの母ラットは人間でいったらどういうものだろうと考え込みます。ヘリコプターペアレンツとは違って、心配そうにそばをうろうろはしません。絶えずなめたり毛づくろいをするわけでもありません。母ラットがそうするのは、ある状況、それは子ラットがストレスを受けた時です。まるで大事なスキルを教え込もうとしているかのようです。刺激を受けたストレス対応システムをうまく管理して休止状態に戻す方法です。

 人間の幼児でこのスキルに当たるのは、癇癪を起したあとやひどくおびえた後に落ち着きを取り戻すことだとポールは考えます。それを息子に覚えさせようと集中します。だからといって、なめまわすわけでもなく、毛づくろいをするわけでもありません。人間で高LGに相当する行為があるとすれば、慰めたり、ハグをしたり、話しかけたりして安心させることです。この行為が、きっと、何をするよりも最終的な幸福と成功につながるとポールは信じています。

 しかし、子どもがもう少し大きくなると、愛情やハグ以上のものが必要になります。