挫折

 ポールは、大学を中退した時の心境を当時こう綴っていました。「これまで大勢の反逆児がそうだったように、教室で習うことになんか本当は何の意味もないんだと確信していた。ついにあの11月の日のコロンビアで、もうたくさんだと思った。“14年と3カ月の間教育を受けてきた。これは自分の人生の84%にあたる”と、いかにも性格の出た几帳面さで書いてある。(念のために書いておくと、これは幼稚園の初日から数えた数字だ)“私は学校しか知らない。教育はゲームだ。はっきり言って自分はそのゲームがうまい。ルールを熟知している。必要な作業をどうこなしたらいいか分かっている。どうやったら勝てるかすら分かっている。だけどもうゲームにはうんざりだ。そろそろチップを換金したい。」

 この文章は、ポールが18歳で大学を中退するときに書いたものだそうです。やめることについて、ずいぶんと自信があるように思えますが、実は大きな賭けでもあったのです。「完全な不首尾に終わるかもしれない。大失態、ガルガンチェア級の大失敗に終わるかもしれない」と書いています。「人生最大の無責任な行動かもしれない。しかしいちばん責任ある行動でもあるかもしれない。」

 彼が、KIPPとリバーディールに関する記事がニューヨーク・タイムズ・マガジンに掲載された数日後、読者から電子メールでメッセージが届いたそうです。そこには、「2005年にスタンフォード大学の卒業式のスティーブ・ジョブズがしたスピーチを見た方がいい、失敗と性格に関するジョブズの考えと、あなたの記事でとらえようとしていた議論には似たところが多くある。」と書かれてありました。ジョブスが亡くなってから、この彼のスピーチは話題になりましたが、このメールをもらったときは、ジョブズがなくなる数週間前でしたので、ポールは、そのスピーチを見たことも読んだこともありませんでした。そこで、YouTubeでジョブズの話すのを見たのです。

 すると、ジョブズもオレゴン州のリード大学1年生のときに大学を中退していたのです。それを知ったポールは、大学を中退した決断を正当化しようともがいている自分に対して、現代において最も成功した。最も創造力のあるビジネスマンが同じことをしていたとわかるのは、この上なく心強く感じます。その上、彼は後悔をしていないのです。ジョブズは、スピーチの中で、退学は、「人生で最善の決断の一つだった」と説明しています。それはジョブズにも、アップルにも、特別なかたちで利益をもたらしているのです。必修科目から解放されて、ジョブズは割り当てられた授業よりも興味をひかれた授業に出るようになったのだが、その中の一つにカリグラフィーとタイポグラフィーに関する講座があったのです。

 「セリフやサンセリフといった活字書体について学び、文字の組み合わせによって字間のスペースを変えることを学び、素晴らしいデザインはなぜ素晴らしいのかを学びました」さらに、「どれも私の人生で実際に使う予定のない知識でした」と話しています。これは、10年後に彼がマッキントッシュを作るまでの話です。

 しかし、ポールにとって、ジョブズのスピーチで一番印象に残ったのは、彼の最大の挫折の話だったのです。