ステレオタイプ

 以前、せいがの森保育園で見学者が、自分で遊んだおもちゃを片付けている子に向かって、「えらいわねえ、ちゃんとお片付けができて!」と言ったところ、園児の一人が、「だって、ここはせいがの森保育園だよ!」と答えたという話を聞きました。

 KIPPでは、いたるところでメッセージを送っているのは、レヴィンが、強力は校風をつくろうとする意図からでした。「自分たちは違うんだ」「自分たちはKIPPの生徒なんだ」という感覚を浸透させるためにポスターや標語や掲示やTシャツを使ってきたのです。ダックワースも、帰属意識を持たせるというKIPPのアプローチは効果的な学校教育を行うための要だと思っているようです。「KIPPがやっているのは、子どもが完全に気持ちを切り替えられるようにするための社会的役割の転換です。」と説明をしています。「イングループとアウトグループの心理を利用しているんです。“よその人たちはSLANTがなんなのかを知らない、私たちは知っている。わたしたちはKIPPの生徒だから”というわけ」

 集団の一員であるという認識は、業績に、よくも悪くも大きな影響を及ぼすことがわかっています。スタンフォード大学教育学大学院の学長で心理学者のクロード・スティールは、「ステレオタイプの脅威」という現象をつきとめました。それは、知的な、あるいは身体的な能力を試すテストの前に帰属する集団に関係する事柄をほのめかされると、テストの結果に大きく影響するということです。このような効果を、研究者たちはいくつもの異なった状況で立証してきたのです。

 その研究の中で、面白いものがあります。それは、60代、70代、80代の人々が年齢とともに記憶力は低下すると書かれた記事を読むように指示され、その後に記憶力のテストを受けた時には、テストに出てきた単語のうち44%しか覚えていませんでした。しかし、テストの前にその記事を読まなかった同様の構成グループでは、58%の単語を覚えていたそうです。それは、数学の難題を解く大学のテストでは、女子学生たちは自分が女子であることを指摘されただけで、なんのほのめかしも受けなかった女子学生よりも成績が悪かったということと同様な「ステレオタイプの脅威」の事例だそうです。

 これらの事例は、KIPPの実践とは逆に、ほのめかされた認識が逆の作用に動いたということです。しかし、このステレオタイプの脅威に関するいいニュースは、かすかなほのめかしが引き金になりはしますが、それと同程度のほんの小さな対策で脅威を無効にできるという点です。もちろん、その研究は現在もあらゆる状況で調査が行われていますが、最も効果的なテクニックの一つは、ステレオタイプの脅威にさらされている生徒たちに、「知能は様々な影響を受けやすいものである」と種明かしをすることだとあります。そのこと自体を理解した生徒は自信を持ち、テストの得点やGPAがあがることもたびたびあるそうです。

 この研究が、心理学者や神経科学者の間で議論も的になっているようです。それは、学力テストのスコアは、様々な訓練によって左右されますが、知能そのものはそんなに変わるものではないと思われたことに対して、知能が影響を受けやすいということだからです。その議論の中で、同じスタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエックが目覚ましい発見しました。ここでは、「しなやかな心」というキーワードが出てきます。