勤勉性

 チョコレートの実験は、いわゆる低IQの子どもについて行ったのですが、最初、知能検査でスコアの低かった子どもたちは、チョコレートという見返りのあった二度目の検査では、ずっといい数値を出しました。そこで、疑問が出てきました。「IQの低い生徒の本当の知能指数はいくつだったのか?」最初のスコアの方か、後のスコアの方かということです。普通は、知能検査と言えば、真剣に取り組むはずですが、IQの低かった子どもたちはチョコレートがもらえるという動機づけがあって初めて真剣に取り組んだのです。チョコレートが魔法のように知能を授けたわけではありません。彼らは答えを出すための知能をもともと持っていたのです。だから、ほんとうのところはIQが低いわけではなかったのです。彼らの知能指数は平均値に近かったのです。

 しかし、シーガルの実験によれば、実際には最初の低いスコアの方が将来と関係があったのです。かかっているものや見返りの少ない読替えスピード・テストが受験者の将来を見通す材料になったのと同じことだったのです。IQは低くなかったかもしれませんが、目に見えるインセンティブがなくとも知能検査に真剣に取り組めるという資質に欠けていたのです。シーガルの調査によれば、それこそがきわめて価値のある、持つべき資質なのです。

 私は、臥竜塾生と一緒にいろいろなことに取り組んでいます。そのメンバーは、もしかしたら、IQはそれほど高くないかもしれません。もしかしたら、認知的能力は高くないかもしれません。しかし、彼らは、私のウィークポイントを知っています。それは、一生懸命な人に弱いのです。真剣さ、懸命、それは、きっと何かを生み出すと思っています。それは、目に見える見返りを求めたものではないのです。しかし、私は、彼らに見返りを示します。それは、楽しさと、長期的な夢です。そして、仲間の存在です。それは、彼らにだけでなく、職場における職員に対しても同様です。仕事の見返りは、楽しさであり、仲間であり、将来の夢に向かう心意気だと思っています。

 シーガルの研究に見られた、見返りの有無にかかわらず努力できる気質を、パーソナリティ心理学で使われる専門用語では「勤勉性」と呼ぶそうです。ここ数十年のあいだにパーソナリティ心理学の研究者のあいだでの共通認識では、気質の分析に最も有効な方法は、気質を五つの要素に沿って考えることであるそうです。五つとは、「協調性」「外向性」「情緒不安定性」「未知のものごとに対する開放性」「勤勉性」です。その中で、チョコレートのあるなしにかかわらず良い結果を出した生徒たちは、「勤勉性」の数値が特に高かったのです。

 しかし、この「勤勉」という言葉は、なんだか古めかしい気がします。ですから、勤勉について研究したがる人はほとんどいませんでした。心理学者の多くは、「未知のものごとに対する開放性」の研究を好むのだそうです。その中で、ヘックマンとも共同研究したことのあるイリノイ大学の教授であるブレンド・ロバーツは勤勉性の研究では第1人者になります。それまで、勤勉性といえば、産業組織の中でのニーズでした。生産力が高く、信頼のおける、仕事熱心な働き手を雇うときの指標でした。しかし、ロバーツは、職場の枠にとどまらない点を見出します。