本当の知能

 人間とは、そう簡単に解明できる生き物ではありません。また、ある環境が子どもに影響しているとしたときに、その環境の中のどの部分が影響しているかを判断するのは非常に難しいものがあります。それは、どんなことでも言えます。例えば、みんなで景色を見ていて、多くの人が「いい景色ですね。」と言ったとしても、その景色のどの部分がいいのかは、人によって違います。ひとつの曲を聞いても、いい曲というのは、人によって違ってしまいます。しかし、そのようなことを言ったら、研究はできませんし、ましては対策を練ることはできません。そこで、様々な観点から調べる必要があり、また、その結果から対策を練ることでその閣下からまた判断するなど、繰り返しの研究が大切になります。その意味で、マシュマロ実験は、様々な研究を進めるうえで、非常に意味がありました。

 この自制心の実験は、内発的動機付け、外発的動機付けの研究に進みました。エドランドという研究者は、5歳から7歳までの低中流階級から低所得層の家庭の子どもを無作為に実験グループと対象グループに分けます。どちらも標準版の知能検査を受け、実験グループの子どもたちは1問正答するごとにチョコレートを一つもらえるようにしたところ、対象グループの子どもたちよりもIQが平均12ポイントも上がったのです。これは、外発的動機付けと呼ばれるものでしょう。

 サウスフロリダ大学の二人の研究者は、それをさらに進めます。子どもたちを知能検査の得点に応じて3つのグループに分けます。平均119くらいを高グループ、101くらいを中間グループ、79くらいを低グループに分けました。そして、それぞれのグループの半数の子どもたちには1問正答するごとにチョコレートをあげます。すると、高得点のグループと、中間グループの子どもたちは、その後のテストでもスコアがまったく変わらなかったのです。それに対して、低得点グループの子どもたちは、チョコレートをもらった子どもたちの方が中間グループと同じ97まで得点を取るようになったのです。

 この二つの研究は、知能に関する従来の認識への大打撃を与えることになりました。それは、知能検査では、偽りのない、変わることにないものを測定するものだと思っていたからです。それが、たかが何粒かのチョコレートで結果が大きく変わってしまったからです。また、IQが低いとされる子どもたちの知能は、本当に低いのだろうかという重大な疑問が持ち上がったのです。彼らの知能指数は、79なのか、97なのかという疑問です。というのは、この疑問は貧困地区の学校の教員が毎日のように直面する疑問だからです。生徒たちが見かけより優秀であることは確信があり、彼らがやる気を出すだけではるかにいい結果が出ることは目に見えているからです。しかし、どうやって彼らのやる気を引き出すかが問題です。チョコレートをやり続けるわけにはいかないからです。

 しかし、実際には低所得層の生徒には良い成績を上げれば、チョコレートではおよびにもつかないとてつもなく大きな褒美がすでにあるのです。それは、高い点を取れば、その生徒は高校を卒業して大学に進み、その後よりよい仕事に就ける可能性はずっと高くなり、すると、チョコレートを袋ごとでも買えるようにでもなるのです。それは、長い目で見ることが必要だからだけではなく、実際にそのようなことを生徒に納得させるのは見かけよりはるかに難しいのです。研究からの実践は難しいものです。