トング

トングは食品をピンセットのようにはさみ込むことによって、箸よりも簡単に、また、軽い力ではさみあげられる道具です。それは、末端が支点となった構造で、ばねの力で緩く開く状態になるように作られており、先端部は物品をはさんで落とさないようにするために広く、へら状になっているものがあったり、凹凸がついていてはさむ対象に食い込むようになっているものもあります。私の園では、トングは箸のようにものを挟むことでつまむために、箸の練習の初めとして、箸を使い始める2歳児から3歳児にかけて、トングを遊びに使うようにしています。

トングは、昔からつかむものによって、異なった形状のものがあり、使い分けることができるようになっています。熱い石炭をつかむためにはファイヤートング、鍋の肉を裏返すのにはミートトング、傷みやすい緑の穂を扱うにはアスパラガストング、ガーリックバターで滑りやすいカタツムリの殻をつかむにはスプリングの付いたエスカルゴトングなどです。その後の変化について、「キッチンの歴史」の中でこう書かれてあります。「1990年代以降、人々は何にでも使える万能機具のキッチントングを好むようになった。持ち上げる、突く、取り分ける、何でもできる。ここで話題にしているのは単純な作りの安価なトングのことである。ステンレス製で、従来のハサミのようなシザートングでなく、エッジがホタテガイのようになっているものだ。シザートングだと、うっかり食物を切って崩してしまう。」

トングの機能を使うと、コンロ台での調理が敏捷になると言います。それは、あたかも手の先が耐熱のカニのハサミになったようなものであると言っています。それは、表面が焦げた熱いローストチキンのもも肉を持ち上げたり、ピラフからカルダモンポットを一粒一粒取り出したり出来るからです。ピンセットのように正確につかめるし、へらのように音がしません。とくに、トングは短いものが最適だと言います。

本格フランス料理の修業を積んだシェフは、これまで、柄の長い骨でできた先が二股の長いフォークをトングのように使っていたそうです。しかし、フォークだと機能が限られてしまっていました。ゆであがった瞬間に熱湯からリングイネを取り出せないので、ささっと巧みにハム、エンドウ豆、クリームであえることができませんでした。ところが、自在に操れるトングがあれば、コランダーがなくても、パスタサーバーがなくても困りません。手に取って扱う料理道具の中で、トングはナイフ、木製のスプーンに次いでもっとも役に立つ道具であると「キッチンの歴史」の中でビーさんは書いています。

「キッチンの歴史」の本の中で、最初に第6章「食べる」という章を読み進めながら、食事道具を見てきました。それがどうのような意味を持つか、訳者である真田由美子さん(彼女は、特に食に関する専門家ではありませんが)のあとがきに書かれてあります。「キッチンのない住宅など考えられない。キッチンにある包丁、鍋釜類、コンロも普段何気なく使っている。冷蔵庫や電子レンジもあって当然だと私たちは思っている。食卓で使う箸、スプーン、フォーク、ナイフ、皿にしても。ところが、こうした料理道具は先人たちの叡智の結晶だったのだ。そして、人知れず数奇な来歴を宿していたりする。」

この本の著者であるビー・ウィルソンさんは、2009年に「食品偽装の歴史」でアンドレ・シモン賞の最終候補に選ばれています。昨年、日本で大騒ぎになった食品偽装、それに対して警鐘を鳴らしていたのです。