フォーク2

 フォークを使うことに関して、イタリアはヨーロッパの他の国に先駆けて例外的に採用したのは、もちろん、パスタがあったからです。長めの麺タイプのパスタは、先のとがった長い木製のプンテルオーロという道具で食べていましたが、ひも状のつるつる滑るパスタを1本で絡めるのであるならば、2本、3本の方がもっといいということになり、フォークが使われたようです。そして、フォークがこんなに便利なものだということで、その有用性に目覚めたイタリア人は、他のメニューにもフォークを使い始めたようです。

 19世紀初頭までは、その売れ行きは、ナイフやスプーンの方がフォークよりも勝っていましたが、陶磁器のディナープレートが使われだしたことと連動して、ナイフとフォークの組み合わせが勝利します。

 ディナープレートとは、従来の深皿や木皿よりも浅くて平らな皿です。すべての食事にボウルが使われていた時は、ひしゃくの形をしたスプーンが深くすくえて好都合でした。ナイフやフォークを使って深めのシリアルボウルで食べてみたら、肘が曲がって、カトラリーの使える範囲が極端に狭まってしまいます。ナイフととフォークの複雑なテーブルマナーテーブルマナーをこなすには、器は平板でなければ困るのです。

 19世紀になると、ナイフとフォークを扱う作法が二通り生まれます。ひとつは、礼儀作法の権威エミリー・ポストが「ジグザグ」と命名したもので、右手でナイフを、左手でフォークを握り、さらに載った食物を全部小さく切っていきます。それからナイフを置いて、皿の上で「ジグザグ」を描くようにフォークに持ち替えて、右手で一口サイズになった食物をフォークで食べます。私は、ほぼ、洋食はこの方法で食べることが多いですが、この方法は、最初ヨーロッパで広まりますが、のちにアメリカ流とみなされるようになります。なぜかというと、ヨーロッパでは、もっと洗練された作法が考案されたからのようです。

 イギリスのテーブルマナーでは、ナイフはフルコースが終わるまでテーブルに置くことはありません。ナイフとフォークが皿の上でリズミカルに八の字を描きます。ボートのオールをこぐように、フォークが押さえて、ナイフが切ります。ナイフが押して、フォークが運びます。この威厳のある流れるような所作は、咀嚼という見苦しい生理的行為をゆっくり行うためだと言います。

 このように、フォークの存在は、すっかり食の世界に大きな影響を与えているようです。マルクスの「経済学批判要綱」には、「飢えを満たすのに、調理された肉をナイフとフォークで食べるのと、生肉を素手と爪と歯で飲み込んだのでは、飢えの満たされ方が違う。」と書かれてあるように、フォークは、食事の方法を変えるだけでなく、食事の質も変えてしまったと「キッチンの歴史」には書かれてあります。

 しかし、必ずしもフォークが万能であるということではないようです。例えばナイフとフォークは、一人前のローストビーフを切るには便利ですが、豆やコメを食べるには役立つどころか不便このうえありません。ナイフやフォークで食べる所作には、必ずしも根拠のない自己満足が伴うといいます。わずらわしくて凝った食べ方です。欧米の人からすると、効率的だと思い込みがちですが、実は違っているかもしれないと言います。

 例えば、テーブルマナーに従って両手を使って食事をしますが、箸を使えば、もっと器用に片方の手だけで食事ができるのです。