道具の形

 「キッチンの歴史」には、さまざまなキッチン道具や、キチンの進化における料理への影響が書かれてあります。それは容易に推測できるものだけではなく、意表を突くもの、聞くと納得がいくものなどが整理されています。例えば、第6章「食べる」では、スプーンが取り上げられています。私たちは、「スプーンの役割を思いつくだけ挙げてみてください」と言われて、何を思いつくでしょうか?

 この本の6章の最初に書かれてあるのは、「よそう、量る、食物を皿から口に運ぶ」のほか、料理用となると、「かき回す、こそげ取る、すくい取る、取り出す、すくい上げる」という機能が並べられます。しかし、本来スプーンとは、ナイフなどと違い、もっと温和な存在であると著者は言っています。「スプーンは赤ん坊に渡すものであり、洗礼式のお祝いに銀のスプーンを贈ることもあれば、浅いプラスチックのスプーンに離乳食のベビーライスを一口二口すくって食べさせたりもする。赤ちゃんが手でスプーンを握れるようになることは、人生の成長過程で大きな出来事といえる。スプーンは家庭的で温かみのある料理道具だ。だが、その構造は強い感情を反映することもあれば、激しい偏見の表れであったりもした。」

 興味をそそる導入です。園で、子どもに与えるのは、スプーンが先か、フォークが先かで話し合いを持つことがあります。スプーンは食べ物をすくって、その上に乗せて口まで落とさないように水平を保ちながら運ぶうものであり、それは、手首の返しが上手にできないといけないし、フォークは食べ物にさして、口まで運ぶ道具であるとしたら、食べもに上手にさすことができる力と、目標に向かって転がらないようにさす技術が必要になり、どちらが難しいのかという議論になるのです。

 なんと、1660年イギリスでチャールズ2世が王政復古を果たします。そして、分化の様相を一変させた中で、「一夜にして銀製スプーンがまったく新しい形、柄の先端が三つに裂けたトライフィドになったのである。」と書かれてあります。
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しかし、残念ながら、これはスプーンとフォークの両刀使いではなく、柄の部分の装飾のようです。その前の時代の共和政体の金属食器は、図柄のない、ただの銀の塊だったところ、すくう部分は浅いイチジク形ではなく深い楕円形になり、先端に向かって幅広となり、先端部分は独特の形に裂けています。三つに裂けたという意味でトライフィドといったそうです。そして、デザインはフランス製で、今のスプーンの原型を作ります。

 この変化が、文化にどのように影響していくのでしょうか?ここで生まれた新型スプーンは、裏返すと圧延した柄の部分はすくう部分の裏側へとつながり、「ネズミの尻尾」と呼ばれるすっと先細りする隆起部分を形作ります。その形が持ち方を変えていったというのです。中世のスプーンは先端に握りがあったので、親指の下にスプーンの細長い絵が来るようにして、親指と柄が直角になるように握るのが一番持ちやすくなります。しかし、トライフィドの場合、絵を手のひらに預け、それに並行して親指を添えます。それが、礼儀正しいイギリス式の持ち方になるのです。

この経緯を見ると、何が礼儀正しいのか、何がしつけなのかは、その道具の形状によって左右されますし、時代、国によって何をするためのものかによって違ってくるようです。