江戸時代の大根

大根は、「貴賤、老若を問わず好まれてきた食べ物」と言われてきました。煮たり焼いたりと調理法もさまざまですし、大きく切ったり、飾り切りにしたり、おろしたりとその形状もいろいろです。また生の大根の調理法だけではなく、干したり漬けたりの保存法を考えてもいます。

テレビドラマ「おしん」のなかで「大根飯」が有名になりました。この料理の大根は米の増量材でしたが、江戸時代の料理書にも同様に使われていたことが記されています。『江戸料理百選』著者、島崎とみ子さん(女子栄養大学調理第一研究室助教授・料理書原典研究会同人)の連載のなかで、江戸時代の大根料理が紹介されています。ドラマ「おしん」では、貧しい食事の一つとして大根飯が登場しましたが、最近では、ダイエット食として注目されています。それは、大根は水分が約九十五%だからです。ですから、大根飯は普通のごはんに比べるとずっとローエネルギーです。また、根の部分は、ビタミンCや消化を助けるジアスターゼなどの酵素が豊富で、捨ててしまいがちな葉の部分も、ビタミンCやビタミンAなどがたっぷり含まれています。辛みはアリルイソチオシアネートというからし油の成分で、胃液の分泌を促し、腸の働きを整え、痰をきる効果があります。

こんな大根ですから、江戸時代に食べていた料理を再現してみませんか?

島崎さんによると、「都鄙安逸伝」天保四年(1833)刊のなかに「大根飯」が紹介されているようです。ここには、大根をなますのときのように細く切って米に加えて炊き、しょうゆ味の汁をかけて食しますが、「米値(こめのね)高き時は米すくなくいるや(よ)うする事なれば大根を多く入(いれ) 塩も喰(くい)かげんに入(塩でちょうどよく味つけして)かけ汁なしに食すべし」とあるそうです。他に同書には「越前国大根飯」という、今の福井県地方の大根飯もあるそうです。米にごく細かいさいの目の大根を入れて炊き込んだものです。大根の量は米1カップに百グラムくらいで、調味は醤油より塩味のほうがいいようです。色の点からも障りがありません。

「料理伊呂波包丁」安永二年(1773)刊には、お客さまに出す大根飯があるそうです。さいの目に切った大根をくちなしの汁で煮しめ、白飯に混ぜ合わせたものです。採ってすぐの実の汁で染めたものは鮮やかな黄色に染まり、食卓を華やいだ雰囲気にしてくれます。

また、干し大根の炊き込み飯もあります。「諸国名産 大根料理秘伝抄」にある「濃州名物干大根飯」は、「みの厚見郡(今の岐阜市南部一帯)のめいぶつにて このところより干大こん多くいづるなり」とあり、「ひなた薫きが一だんの賞翫也(珍重される)」と、干し大根の香りを愛でているようです。作り方は、まるのまま干しておいた大根を小口から切り、煮え湯に入れてもどし、絞って、吹き上がった飯に入れて炊き上げ、茶わんによそい、みそ味のかけ汁をかけ、おぼろこんぶを上置きにするというものだそうです。

島崎さんが実際に作ってみたところ、宮崎県産の“日向の割干し”という、細大根を縦に割って干したものを使うと、ひなびた甘い香りが漂い、うすいみそ味のかけ汁とおぼろこんぶが、その味をいっそう引き立て、干し大根の適度の歯ざわりも心地よいものだったそうです。

この他にも、江戸時代に作られていた冬むきの温かい大根料理を紹介しています。