キッチン

 歯の役割を整理すると、「切歯」(動物では「門歯」とも呼ばれる)は、食べ物をかみ切ります。その中で、「中切歯」は、平べったくて、根は円形です。「側切歯」は、中切歯とよく似た平べったい歯です。その隣が「犬歯」で、食べ物を切り裂きます。その歯は、先が尖っていて、顎の動きの基本になります。その隣から臼歯が並んでいて、食べ物をすりつぶします。その1番目が第一小臼歯と呼ばれ、上の第1小臼歯は特に重要で、下顎固定の役割をします。第2小臼歯は、かみ合わせの安定を保つ歯と言われています。第1大臼歯は、食べ物を噛むために最も重要な歯です。第2大臼歯は、上下とも12歳前後に生えてくる歯です。第3大臼歯は、「親不知」とも呼ばれ、生える時期や生え方に個人差がある歯です。

 この中で、第1大臼歯(奥歯)は、永久歯の中で一番大きく、噛む力も一番強い、噛み合わせの基本になる大切な歯です。しかし、むし歯になりやすい歯でもあるため、生えてきたら積極的なむし歯予防が必要です。人間は、これらの歯をもって様々な食べ物を飲み込みやすく、消化しやすくしてきました。

 「キッチンの歴史」(ビー・ウィルソン著)の中で、人間の歯のうち、下の門歯と上の切歯との噛みあわせは、古代人と現代人では、大きく異なると書かれてあります。この本に書かれてある学説によれば、畜肉などの硬い食品を咀嚼するとき、テーブルナイフを巧みに使って細分する習慣ができて、はじめて上歯が下歯に被さるという、いまの構造ができあがったというのです。人間の歯の変化は、何の肉を食べてきたのかというのではなく、何を使って食べてきたかという問題だというのです。

 道具の発明とその使用によって、人間の体は変化してきたようです。西洋史家である樺山紘一氏が日経新聞に批評を書いています。この部分について、彼は、「これが本書の真骨頂。世上、溢れるほどのグルメ本は、食事の内容に注力している。だが、ここは料理や食事の方法だ。どんな道具や器具を使うか。そのために、どんな改良や工夫がこらされるか。頻繁にあてられる言葉によれば、料理のテクノロジー。」と批評しています。

 樺山氏は、この観点から、食行為を考えてみています。「調理に利用される焼き石と焼鍋、金属釜と陶器鍋。あるいはすりこぎとミキサー、そしてパン焼き窯と電子レンジ。ことなるテクノロジーの適用による変化・改革は、たしかに食事の情景を決めてきた。食事に援用される器具・道具の如何もその応用問題だ。テーブルナイフにくわえて、スプーンやフォークの登場と改良が、変化をうながしたことは、周知のとおり。さらにはフォークか箸か、または素手かによっても、食事の全様相がちがってくるだろう。」どうも、私が目次から考えたことが書かれてありそうです。

 樺山氏は、さらに「こうして料理文化に、ことなった系統や流派がうまれた。もうすこし現実味のあるところならば、食事をスローフード運動でしっとりやるか、モダニスト料理でスマートにやるか、ということでキッチンの違いも歴然。人類の料理史をとおして、食べるほうからではなく、作るほうから観察してみよう。テクノロジー全史としてみると、じつに斬新である。古代技術と現代の高度技術とが、意外にもおなじ平面で比較できることも、驚きである。というわけで、この本はかなり難解な問題への挑戦とみなしたい。とはいえ、洒脱(しゃだつ)なユーモアと料理を作る側の経験知によって、よくも読みやすい一書にしあげたものだ。訳文が、こころよいリズム感をかもしだしているのもなかなか。」と評しています。

なかなか面白そうな本です。