夢と学力

 キャリア教育が最近重視され、小学生から行われている理由として、教育学博士の高橋誠さんは、「キャリア教育は総合的な教育の原点であり、なぜ勉強をするのかという問いに答えるものであり、あらゆる教科学習への意欲を高めるものです。のどの渇いていない馬を水場に連れて行っても水を飲まないのと同じように、教育には『動機付けと意欲』が重要とはよく言われることです。キャリア教育は将来設計から始まります。自分の将来が見えてくれば、『よし目標に向かって頑張ろう』と意欲が出ますし、やるべきことも明確になります。また、意欲が出てくれば夢の実現のための努力を惜しまないようになります。実際になりたい職業を持っている子どもの学力は高い傾向にあるという調査結果も出ているほどです。」というような結果が出ているそうです。

 かつて、ある小学校の道徳の研究授業に助言者として呼ばれたことがありました。その時の6年生の教材は、イチローの話でした。イチローは、大きな夢を持ち、そのために努力に努力を重ね、とうとう夢をかなえたというものでした。その時の授業で、先生は、この逸話から何をみんなは学んだかという問いに対して、「努力を重ねることによって、夢がかなうのだ」ということを教えているということになりました。しかし、私は、あとの講評で、この逸話は、そうではなく、「明確な夢を持つことが、その夢を達成しようとする意欲が生まれ、それに向かって努力するようになるということを教えているのではないか。ですから、みんなも夢を持ちなさいということを訴えている話ではないか。」と言いました。

 この教材について、教師用指導書の中にどう書かれてあるかわかりませんが、私は、そう考えています。「第2回子ども生活実態基本調査」(2009年、ベネッセ教育総合研究所調べ)によると、偏差値50以上の子どもの2004年には70.6%、2009年では66.6%が、なりたい職業がある子で、それが、偏差値40以上50未満になると2004年には61.8%、200年では56.4%がなりたい職業がある子、偏差値40以下になると、2004年には59.9%、2009年には50.7%まで下がってきます。この調査から見ると、「なりたい職業」を持っている子どもの方が、学力が高い傾向があるということが分かりますが、同時に、この5年間で、「なりたい職業」を持つ子は減少傾向にあるようです。

 教育学者の高橋さんは、学校の先生たちが一番苦心するのが、いかにその教科に興味を持たせられるかだと言います。それは、子どもの勉強への意欲は、興味を持つかどうかで大きく変わるからです。その時に、キャリア教育は、非常に効果があるというのです。それは、「キャリア教育では自分の夢を思い描いたら、それについて調べたり、どうやったらその仕事に就けるかを考えたりします。その過程で、例えば車に関する仕事に就きたいと思ったら、動きに関しては物理だし、作る工程では工学の知識や情報系などの知識がいる。デザインに興味のある子なら美術も関わるし、車の歴史をたどっていけば歴史や地理、流通などの勉強を自ずとすることになります。料理が好きなら家庭科はもちろん、食材の産地は地理や流通につながりますし、買い物では計算やコミュニケーション能力が必要になります。堅いものを切るためには、物理の知識が役立つでしょう?」と高橋さんは言います。

 しかし、ここで疑問が起きます。それは、現実は、夢見ていた職業に就いて働き続けている人は1割程度しかいません。そうなると、これまでの経験は無駄になるのでしょうか?それに高橋さんは、こう答えています。

夢と学力” への11件のコメント

  1. 将来なりたい職業が明確だと、その夢・希望を達成するために日頃の学習や進学する学校の選択が確実になるのでしょう。「現実は、夢見ていた職業に就いて働き続けている人は1割程度」ということが紹介されています。私自身のことを振り返ると、家が貧しかったくせに、将来の職業像を描くことができず、結局、その時々の興味関心好奇心だけで学び吸収していたような気がします。「学校」と言われているところ結構長く通っていましたが、それは決して学校が好きなわけではなく、その時々の事情において「学校」が必要だったからです。小中は無意識のうちに通っていて、その意味をあまり考えませんでした。考えるどころか選択の余地もなかった。高校は東京に行くため、大学はそこでしか学べないことがあったため、そして大学院はとにかくその大学院の専攻科がどんなことをやるところなのか知りたかったため、です。まぁ、自分の関心だけでやってきたというところが事実で「職業」のことは考えずにやってきました。ですから、職業の自由をこれまで十分謳歌してきました。振り返ると、こんなに幸せなことはなかったと思っています。ただ、父母兄弟には私のわがままにお付き合い頂いたことを心こめて感謝する次第です。

  2. 「動機付けと意欲」とありました。この動機付けを大人がしっかり意識することで子どもは意欲を持って様々なことに取り組んでいけるのですね。動機付けは自分の保育の中での課題、テーマでもあります。「夢を持つことで意欲が生まれる」、「勉強への意欲は興味を持つかどうかで大きく変わる」とありました。車ってどうやって動くのだろう、どんな種類があるのだろうという興味を持った時にその興味を広げることができるような関わりをしていかなければいけません。その子どもの姿を見逃したくはないなと思います。そして、具体的な形を提示できるような気持ちでいたいです。また、そんな興味が湧いてくるようなしかけも大切ですね。これがうまくいったり、子どもの姿に現れたりするとこちらも楽しくなります。そんな楽しさを感じられるような工夫をしていきたいです。

  3. 夢と学力のつながりは、非常に面白いですね。一度は「なぜ勉強をするのか」と、疑問を持ったことがあるのではないでしょうか。そこがまさに、ターニングポイントのようであり、その時期にどんな大人がそばにいるかで、その人の人生に大きく影響していくのではと感じました。なかには、そんな疑問を持たずにきた人もいると考えると、よほど明確な夢があったか、考える余地も与えられないまま勉学に励み続け、過ごしてきたということでしょうか。勉強する目的が、夢を叶えるためという明確な意志を持てた人は、その後の人生においても、困難を乗り越える力となっていきそうですね。また、物事に一生懸命取り組めるは人、目指すものや目標があるからですよね。だから、それに必要な勉強も苦ではない。むしろ、その勉強がさらなる意欲や興味につながる。夢があるというのは、とても幸せなことですね。

  4.  子どもに夢を待たせるためには、身近な大人が夢を持っていたり、夢に向かって楽しそうに努力していないと無理なのかなと思ってしまいます。大人や社会全体があきらめた状態だと、子どもも、何かを始める前からあきらめてしまいそうです。
     なりたい職業を子どもに持たせるには、どうしたらよいのでしょうか?江戸時代の日本だと、親の仕事を子が引き継ぐことが普通だったので、仕事に迷うということはあまりなかったでしょう。でも選択肢が広がると目移りしてしまいますね。そもそも今の職業は、子どもから見てわかりにくいものも多いかもしれません。たまに私の職場にも、中学生や高校生が見学に来ることがあります。日本にあるインド人学校の生徒達が見学に来たこともありました。様々な職場を見学する、または体験するというのが、最近のキャリア教育の一端なのでしょう。

  5. 例えば富士山に登りたいと思うとします。そうすると富士山の気候や登るためにはどうしたらいいかを調べたり、必要な道具を揃えるために動いたりするはずです。歩く練習もするようになるかもしれません。そして見事に富士山に登ることができるればすごいことだし、頂上までいけなくても7合目まではいけたらそれはそれですごいことです。とにかくこれは全て、富士山に登りたいと思うところからしか生まれてこないことです。夢を持つことについてはこんな風に教わったことがあります。
    この話はなぜかよく覚えています。まずは思いを持つこと。できるかできないかとか、他者の評価がどうとかは関係なく、自分がどうしたいかを考えること。全てはそこからという考え方は気に入っています。そう思うためには自分がそのまま認められる体験も必要だと思うので、乳幼児期に過ごす環境は夢にも大きく影響してくると思っています。学力とは関係なかったですね。

  6. 経団連の調査によると、新卒採用選考にあたって民間企業が重視する特性で10年連続一位に挙げられたのは流行の(?)「コミュニケーション能力」(86.6%)である。少子・核家族化で子どもの対人調整能力が落ちてきていることは事実としても、それだけがキャリア教育として独り歩きするのも疑問である。引きこもりやいじめなどの青少年の心の問題と職業教育は別次元で、というのが最近の思いである。人と会うことが好きな人もいれば、独りで黙々と手仕事に励むことを得意とする人もいるはずである。自分の性格を知り、それを生かせる仕事を見つけ職能を磨く環境を用意することが真の平等。それこそインクルージョンの理想社会だと思う。

    今の若者のなりたい職業は「正社員」だという。行き過ぎた規制緩和によって非正規労働人口が増えてきた悲しい現実である。非情な企業論理が、若者から将来への希望を奪っている。政治は雇用の安定を早急に図るべきである。俗に、「駕籠に乗る人、担ぐ人、そのまた草鞋を作る人」という。職業に上下の差別も貴賤もない。社会の片隅で地べたをはえずりまわるような地味な仕事であれ、その仕事なしでは困る人が必ずいるのだ。一人でも困る人がいる限りどんな仕事にも価値がある。それを教えることが真のキャリア教育ではないか。

  7. 「努力をしたから夢が叶った」と「夢を持つことで努力をする」とでは全く意味が違ってきますね。私もそれまでは努力をすることで夢が叶うと言ってましたが、まずは明確な夢を持つことが大切で、その夢をどうすれば実現できるか?と考えることで学ぶ意欲に繋がる。以前、藤森先生の話しの中で「教育は人生を豊かにするためにある」と言われたのを思い出しました。夢を実現するために、自発的に色々な事を学ぼうとします。そうすることで夢は実現し、人生が豊かになる。教育とはその為にある物なんですね。

  8. 私の父は自分がしている職業は辛いものだからお前らには継がせたくないと言って好きな職業に就きなさいと言ってくれていたので自然と何の仕事をしたいかという考えにいたりました。多少ではありますが、夢の方が先にあることで意欲が湧く感覚を私はわかるように思います。高校の時にお前はなりたい職業があっていいなと友達に言われてたことを思い出します。はやり調査のあるようになりたい職業が明確にあることで自発的に取り組めるようになるのですね。その上、その道のりからは学ぶことは多いように感じます。努力したら夢は叶うという感覚より、夢があるから努力できるという感覚を今の子ども達にも持ってほしいですね。しかし、しかし一割しか夢の職業に就けないという現実には驚きます。それについてどんなことを言っているのか興味を持って読ませて頂きます。

  9. イチローの話は聞き方によって、そのイメージが大きく変わりますね。私も今までイメージしていたのは前者の「努力を重ねることによって、夢がかなうのだ」だったのですが、ブログで夢を持つこと、そしてそれによる「意欲」の大切さを知り、後者の「明確な夢を持つことが、その夢を達成しようとする意欲が生まれ、、」が正しいと感じました。
    以前聞いた講演で赤ちゃんが言葉を得るにあたり、もっとも大切なものは対人関係だということ教えてもらいました。それは、人との関わりが赤ちゃんの意欲(モチベーション)をもっとも高めるためとのことでした。人が意欲を持つこと。それは成長のカギでもあるのですね。

  10. すごく内容が「教育」というものの本質に近づいてきたように思います。「動機付けと意欲」は保育の中ではとても重要になっているというのは保育をしていくとよくわかります。それがおろそかになっているとその先の発展がないというのも保育をしていると実感するところです。まだまだ、「努力しないと夢は叶わない」と思う人が多いのでしょう。このたとえはとても今の教育現場の本質を捉えているように思います。まさにそういう人は多いですね。しかし、本来は「目標のために努力する」のが当たり前なのです。ちょっとしたニュアンスの違いなのでしょうが、その差はかなり大きいですね。

  11. 私も子どもの頃に「努力をすれば夢は叶う」と教わったたような気がしますが、確かに「夢を持てれば努力もできる」とでは意味合いが変わってくるような気がしますね。また、「動機付けと意欲」とありましたが、手本となる大人が楽しそうに努力をしていれば子どももきっと興味をもったりするでしょう。子どもに将来なりたいものを聞くとスポーツ選手のようなかっこいい職業に憧れる男の子や、お花屋さんやケーキ屋さんのようなかわいいものに憧れる女の子。そして、保育園の先生と言ってくれる子たちは、きっと保育園の先生たちが楽しそうに働いている姿を見ているからでしょうが、「夢見ていた職業に就いて働き続けている人は1割程度しかいない」というところでなぜなのでしょうか。続きが気になります。

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