職場環境

 日経新聞の中で、「性格スキルは幅広い学歴・職業で共通して重要であり、その欠如が職業人生の失敗に強く結びついている。」としたら、鶴光氏は、それはどのように高めるべきだろうかという課題について説明をしています。それは、ヘックマン氏らの研究では、すべてのスキルを形成する上で幼年期が重要だという確固たるエビデンス(科学的証拠)はあるものの、性格スキルは認知スキルに比べ後年でも伸びしろがあるので、青年時の矯正は性格スキルに集中すべきだと主張しているからです。

たとえば、真面目とか、忍耐強くとかいう性格は、かつての徒弟制度の中で、若者が大人と信頼関係を結びながら指導や助言を受けながら、その中で技術のほかにも、仕事をさぼらない、他人とうまくやる、根気よく仕事に取り組む、といった貴重な性格スキルを教えられてきたのです。従って、かつての徒弟制度のように、職場をベースにしたプログラムの中で性格的スキルを教えれば、ハンディのある若者に対し彼らが家庭や高校では得られなかった規律や指導を与えることができるのではないかというのです。実際、青年期の介入プログラムをみると、認知的・学問的な学びを中心としたものよりも、性格スキルの向上を狙ったものの方が効果が大きいことが明らかになっているそうです。

 鶴光氏は、こうした視点に立てば、世界的にみても若年者や未熟練労働者、失業者への教育訓練が必ずしも成果を上げていない理由も明白であると指摘ます。英財政問題研究会のバーバラ・シアニージ上席エコノミストによる08年の論文は、スウェーデンで失業者が新たな職を見つけるために最も効果的な方法は、民間に補助金を与えて常用として雇い入れるようなプログラムであり、企業外でのフルタイムの授業による訓練は何もプログラムを受けない失業者よりも就職確率がむしろ低下することを示した。これも実際に企業で責任を持って働くことが性格スキルの向上をもたらしたと鶴光氏は解釈しています。

 欧州では、現在、若年失業の問題が深刻ですが、徒弟制度に起源を持つ職業実習が盛んなドイツ、スイス、オーストリアなど国の若年失業率が低く、08年からの大不況でも、それほど若年失業率が上昇しなかったそうです。これも職業実習制度の持つ職場での性格スキル形成と関係がありそうだと鶴光氏はみています。

 どうも、徒弟制度は、技術的スキルを学ぶだけでなく、もしかしたらそれ以上に性格スキルを身につけていたのではないかというのです。鶴光氏は、「日本でも教育、職業訓練など幅広い分野において性格スキルの重要性を認識し、その向上を人材育成の柱の一つに据えるべきであろう。」と提案しています。

 まず、将来職業人生に大きな影響を与えるのは、認知的な学力よりも、性格の方が大きな影響を与えるということから、幼児教育が人生に大きな影響を与えるということがあります。しかし、この人生に大きな影響を与える性格スキルは、青年期以降でも向上することが可能であり、そのスキルは、企業外の訓練よりも職業実習でのほうが高い成果が上がることなどがわかっています。また、徒弟制度ではなくても、性格を育てるのは、家庭だけでなく、職場環境も大きな影響があるということです。

 悪い職場環境は、人を悪い性格にする可能性が大きいということです。