育児の見直し

 日本では、乳児において特定な人をひとりの個人と読み替えて、いつも同じ人と接することが落ち着くとか、同じ年齢で過ごすことが落ち着くとか思っている保育関係者が多いのですが、それは、本当の意味で情緒が安定しているわけではなく、刺激をあまり与えないことで落ち着いているように思えるだけだと早く気がついてほしいと思います。ジャレド氏ら人類学者たちが、小規模社会を観察してみて、彼らが情緒的に安定しているのは、人と会話して過ごす時間が、私たちよりもはるかに多いということも理由の一つであるといいます。

 私たちは、直接人と会話をするよりも、書籍などといった、外部から提供され、受け身で享受する形の娯楽で消費される時間が多いのです。さらに、ジャレド氏ら子育てについて、このように観察しています。「小規模社会では、は子どもたちが、幼いころから社会性を身につけていることは驚きに値する。彼らの性質や性格や人間性に感服し、自分の子どもにもそれを身につけさせたいものだと願う人は、現代社会にも多い。しかし、その実、われわれの言動がひいては子どもの成長発達の阻害につながっている。現在、アメリカの10代の子どものあいだには、思春期のアイデンティティ・クラインスが蔓延している。しかし、これは、狩猟採集民の子どものあいだでは全く見られない問題である。狩猟採集民の子どもが、なぜ、このように素晴らしい特徴を持つ人間に育つのだろうか?狩猟採集民やその他の小規模社会で生活した経験を持つ西洋人は、その理由を育て方のおかげだと推察している。」

 さらに、具体的にこのようなことを言っています。「狩猟採集民の子どもは、長い授乳期のあいだ、そして何年も両親の近くで眠る幼児期のあいだ、常に安全感と刺激を得ることができる。アロペアレンティングを通じて、多くの社会モデルを見聞きすることができる。自分の面倒を見てくれる人がいつもそばにいて、スキンシップをしてくれる。泣いたらすぐに誰かが反応してくれる。体罰が最低限に抑えられている。これらのすべてが、結果として子どもに安心感と刺激を提供するゆえに、彼らが素晴らしい特徴を持つ人間に育つというのが、それらの西洋人の指摘である。」

 これらの指摘は、私たち現場で子どもを見ている者として共感するものです。しかし、そのようなことがわかっていながら、なかなか分かってもらえないのは、まさにジャレド氏が指摘していることが原因の気がします。「しかし、小規模社会の人間の方が安心感や自律性を持ち、社会性を身につけているというのは、印象による説明にすぎない。そして、印象というものは、それが現実の印象だったとしても、ただの印象にすぎず、それを測定し、証明することはできない。狩猟採集民の子どもの素晴らしい特徴が、長期の授乳や親代わりの大人の存在のおかげであるとの照明は、やはり難しいのである。ただし、少なくとも、一つの結論だけは導出できる。その結論とは、われわれからみれば異質に感じる狩猟採集民の育児は、けっしてそれほど破壊的に展開するような育児ではなく、その育児によって子どもが成長するからといって、狩猟採集民の社会が一見して社会病質者とわかるものばかりの社会になるとは限らないということである。むしろ、狩猟採集民の育児は、大きな課題や危険に立ち向かう力と、生活を楽しめる心の持ち主を育てることのできる育児なのである。」

 育児は、学問で学ぶことではなく、経験からよいものが伝承され、残っていくものであると私は思っています。