添い寝

 次に、ジャレド氏は、「添い寝」について考察しています。母親と赤ちゃんが一緒に過ごす時間の長さは授乳頻度によります。したがって、間隔をあけて授乳する動物の場合は、乳児は、授乳時などのごくわずかな時間を母親と一緒に過ごすだけです。私は、逆に授乳間隔は、母子の距離を少しずつ離していくことではないかと思っています。基本的に授乳は、母親がするものであり、どんなに母子が離れていようが、畑で仕事をしていようが、授乳のときにはわが子のところに戻ってきて、わが子を抱きしめ、子どもをこちらに向かせ、胸に顔を押し付けて授乳します。どんなに働いていても、授乳のときには唯一母子の関係でいられるのです。そして、その間隔が次第に開き始め、離乳食になると、他の人でも食事を与えることができます。そんなことから、私は、母乳が出ていなくても、せめて離乳期までは赤ちゃんは母親のもとで育てることができる保障をしてあげてほしいと思っています。

 ジャレド氏は、現代の西洋工業化社会における、大人(主に母親)と赤ん坊の時間の過ごしかたは、赤ん坊と母親がいつも一緒にくっついていない、というウサギやアンテロープのパターンを踏襲していると言います。西洋国家社会においては、母親(だれか別の大人)が、ときどき赤ん坊を抱え、食事を与えたり、一緒に遊んだりはするが、母親と赤ん坊が常に行動を共にするわけではないというのです。日中はゆりかごやベビーサークルの中にいることが多く、夜はベビールームのベビーベッドのなかで、一人で眠ることが多いことを憂えています。

 このように、大人と赤ちゃんが添い寝をしなくなったのは、直近の数千年の話ではないかとジャレド氏は思っています。狩猟採集民の母親と赤ん坊は、ふつうは同じベッドやマットの上で隣合せて眠りますが、これは、高等霊長類の母親と赤ん坊の関係において見られる特徴と同じであると言います。実際に90の伝統的境を調査してみると、母親と赤ん坊が同じ場所で寝ていない例は、一つとして見つかっていないそうです。このことについて、ジャレド氏はこう言います。

 「母親と赤ん坊が別の場所で寝る習慣は、最近になって発明された方法であり、しかも、この方法のせいで西洋人の親たちは子どもの寝かしつけに苦労させられているのである。アメリカでは、小児科医の推奨によって、両親と赤ん坊が同じベッドで寝てはいけないとされている。親の寝返りで赤ん坊を押しつぶしたり、親の体温の影響で赤ん坊の体温が上昇したりする危険があるという理由である。しかし、人類の歴史を見ると、ほんの数千年前までは、ほとんどすべての赤ん坊が実質的に母親と一緒に、そしてふつうは父親とも一緒に、同じ場所で寝ていたのである。」

 日本では、数十年前まで、いや今でもほとんど赤ちゃんは両親と同じ場所で寝ている家庭が多い気がします。それは、畳文化ということもあって、いわゆる「川の字」になって寝るというスタイルが普通でした。それが、椅子の生活に変わり、ベッドで寝るようになってから、日本でも添い寝が減ってきているようです。私たちが子どもを育てる時は、いわゆる川の字になって寝ていましたが、押しつぶすなどは決してありませんし、授乳のとき以外は、いくら川の字といっても同じ布団の中で寝るわけでもありませんので、体温が上昇するということもありませんでした。変な理屈を考えたものです。

 そのほかにも、母親と赤ちゃんとの関係で私が常々おかしいと思っていることがあるのですが、それは、日本的な発想だと思っていたのですが、全く同じことをジャレド氏も思っているようです。