伝統的

「600万年に及ぶ人類の進化の歴史の中で、国家が成立し、文字が出現したのはわずか5400年前のことであり、狩猟採集社会が農耕社会に移行したのもわずか1万1000年前のことである。長大な人類史から考えればこの時間はほんの一瞬に過ぎない。」これは、世界的大ベストセラー「銃・病原菌・鉄」の著者であるジャレド・ダイアモンドの「昨日までの世界」の帯に書いてある言葉です。私たちがよく口にする「昔からそうだった」という昔が、いかについ最近のことであるか、というよりも、その前に人類を形づくってきた長い歴史があるのだということを、人類の進化、日本人のルーツを探ることで見えてきます。そして、その長い歴史の中で、私たちの祖先であるホモ・サピエンスがどのような生存戦略を立ててきたのかが、今の私たちの根底に流れていることに気がつきます。

 ジャレドは、序文の中で「客観的にみて、日本は世界で最も興味深く、特徴が際立っていて、さらに成功をおさめた国のひとつである。」と言っているように、私も、人類の進化を探っているうちに、日本人の特徴が、ホモ・サピエンスの遺伝子を多く受け継いでいる気がしてきています。このような意味で、彼の作品を読むことは非常に興味深いものがあります。それを、序の中でこう述べています。

 「世界中のどこに行っても子どもと高齢者がいるわけだが、とりわけ今日の日本は子どもと高齢者の扱い方について特別な関心があるだろう。現代の日本の平均寿命は世界第二位であり、合計特殊出生率は世界的にみて最低基準なのだ。当然、人口の高齢化は進展し、高齢者の生活を支え、晩年を介護する若い人たちが減ってきているのである。私のもとには日本の方々がこんな質問を投げかけてくる。“日本社会は高齢者の経験をどう生かすべきでしょう?どうすれば高齢者の生活の質を高められるでしょう?急速に変化する社会の中で、どういった子育てがベストでしょう?”本書に、その答えが見つかると思う。」

 彼は、これらの考察を人類に普遍的なテーマである「伝統的社会」からしています。彼が言う「伝統的社会」とは、「人口が疎密で、数十人から数千人の小集団で構成される、狩猟採集や農耕や牧畜を生業とする昨今の社会で、なおかつ西洋化された大規模な工業化社会との接触による変化が限定的にしか現れていない社会のことである。」としています。そう規定したうえで、彼の著作について、「現代の工業化社会、つまり西洋社会と伝統的社会の違いを浮き彫りにし、そこから判明する叡智をどのようにわれわれの人生や生活に取り入れ、さらに社会全体に影響を与える政策に反映させるかについて解説するものだ。」としています。

 そうした考察の中で、現代の日本の「強み」の源泉は、一国のなかに伝統的な部分と現代的な部分がうまく共存していることにあると思っているようです。さらに、伝統に新しい事柄を織り交ぜて残すものと棄てるものを選択し、みずからを革新し再発見するという能力をたびたび発揮していることにあると思っています。この考え方でもう一度日本を見直すことで、もしかしたら、日本における子育てのあり方、保育のあり方、日本における保育カリキュラムを構築するときにヒントがあるかもしれません。

 そのためにも、ちょっと長かったのですが、私は、日本人のルーツからまず考えてみたのです。