どこから14

 溝口氏は、進化における二つの前提から考えています。ひとつは「すべての形質は互いに関連している」ということと、二つ目として「生物の適応戦略の基本は、最少材料で最大効果」として、頭の形と体の他の部位との関連を調べています。手足の骨が長くて太いということは、体が大きいことを意味するといいます。体が大きい人は、大きな体を動かすために骨格筋の筋量が多く、うなじの筋肉である項筋も太いのが普通です。そのため、後頭部にある項筋が付着する面が広くなり、頭が長くなる要因の一つになっているのではないかとか溝口氏は考えています。

 身長の骨は、栄養状態や労働量などの環境要因によって変化します。そのため、たとえば長頭化した時期には、体が大きくなったとか、農耕によって筋肉にかかる負荷が大きくなったなどの理由によって、骨格に筋量が増え、項筋も太くなり、頭が長くなったのではないかと考えています。そう考えると、古墳時代以降に頭が長くなっているのは、弥生時代以降の水稲栽培に関わる労働量が多くなったことと関連しているのではないかと考えているようです。

 さらに、溝口氏はこう考えています。「頭の長さは筋量だけでなく、いろいろなことに関連しているはずです。例えば、筋肉がたくさんあると、酸素の消費量も多くなります。そのため肺が大きくなって胸部も大きくなったり、酸素をたくさん取り込むために鼻が大きくなったりするかもしれません。事実、鼻の幅は、頭部の他の部分と関係なく、つまり同じ大きさの頭を持っていても、人によってかなり変わることがわかっています。これは、鼻の大きさが頭部よりもむしろ体全体の大きさと比例関係にあるからかもしれません。さらに、大きな体を支えるには、骨盤も大きくしっかりしていないといけないし、といったこともあるでしょう。」

 これまで、様々な観点から、特に人類の姿形、形質の変化から進化を見てきました。その進化の変化は、生活の変化や、環境の変化が影響してきました。そこで、それらからどのようにホモ・サピエンスが日本列島に来て、どのようにして日本人を形成してきたかを推測することができました。しかし、これからも人類は進化し続けるでしょうが、今までと大きく違う観点が必要になって来ます。

 進化というものは微妙なことがあります。人類は生存するために、環境に適応してきました。しかし、実は環境に適応した種の方が滅びてしまっていることがあるのです。例えば、ネアンデルタール人は、何万年もの間、そのような環境に適応して、同じような暮らしを続け、私たちの祖先のように精巧な石器や、寒さを防ぐのに効果的な道具などを作ることもなかったようなのです。それは、頑丈型の猿人、パラントロプスが、栄養価の低い「粗食」を食べることに完璧に適応してしまったために、滅びてしまったように、ネアンデルタール人も寒冷な気候に脳ではなく、体で適応してしまったために、滅びたのではないかと言われています。それに対して、私たちの祖先は、体が寒冷地適応していなかったために、寒さをしのぐ必要に迫られて道具を発展させ、それによって知能が発達し、さらに別の道具を作り、ということを繰り返した結果、もっと寒い地域にも住めるようになっていったのです。溝口氏は、こうまとめています。

 「私たちを取り巻く環境は、これからも変わっていくでしょう。数千年後には、間違いなく今とは相当異なった環境になっているはずです。しかし、これからの人類が、自らの体を大きく変化させて環境に適応することは、もうほとんどないでしょう。私たちは知恵を使い、道具を進化させることで、環境に適応していくのです。それは、言い換えれば、知恵をどのように使うかで、人類の未来が変わっていく、ということでもあります。」