人類のそれぞれの年齢期のなかで、人類しかない期として「青春期」と「老年期」があると言われていますが、その中で「老年期」は、子どもの世話を両親が狩猟採集や農耕などの仕事に出かけて留守の時にするためにあるのではないかという説が有力です。それは、伝統的社会においても祖父母が子どもを見ることが多いようです。このように親以外に子どもを養育することを「アロペアレンティング」と言いますが、もし祖父母がいなかったりする場合は誰が子どもを見ていたのでしょうか。
そんな時には、おばやおじがアロペアレンティングに関与し、重要な役割をはたしている伝統的社会も多いとジャレド氏の調査では、たとえば、カラハリ砂漠のなかで暮らすバンツー系民族の社会において、少年にもっとも強い影響を与える成人男性は父親ではないそうです。それは、母方の伯父、すなわち母親の長兄なのです。他の狩猟採集社会には、兄弟姉妹が長じて成人し、子どもをもうけたあと、互いの子どもの世話をしあう慣習が多くでみられるようです。子ども同士のあいだでも、年長の兄姉が年下の弟妹の面倒をみます。この傾向は、とくに農耕民や牧畜民のあいだで顕著であり、とくに年上の姉たちは年下の弟妹の面倒をみます。
次の調査も、私が普段話している「共食」についてです。みんなで食事をする「共食」は人類の特徴あり、その中で赤ちゃんは他者理解をし、自己を確立していくと言われています。ジャレド氏によれば、南米ペルーのアマゾン地域で暮らす先住民ヨラ族の子どもの場合、食事をする回数の全体の半分は、自分の両親とではなく、自分の家族以外の家族と一緒に食事をしているそうです。日本でも私の子どもの頃は、一家団欒で食事をしていました。それがいつの間には母子だけの食事になり、しだいに孤食、個食になり始めています。
他にもアロペアレンティングの例があります。小規模社会のなかには、子どもひとりでの外出がしだいに長期間になり、しまいには、あの子は養子縁組をしたことにしよう、と結論づけるような社会もあるそうです。たとえば、アンダマン諸島人の社会では、9~10歳を過ぎた子どもが生みの親と同居している例はめずらしいといいます。たいていの場合、子どもは、その年ごろになると、近隣集団の家族と一緒に暮らしはじめます。そしてその時間がしだいに長くなり、その家庭にいつきはじめたころに、養子縁組の約束が交わされ、ふたつの近隣集団の友好関係の維持に一役買うことになるようです。
またアラスカのイヌピアト族の小規模社会では、養子縁組があたりまえのようにおこなわれているといいます。とくに先住民族イヌピアト族の集団内では盛んである。現代の工業化社会では、養子縁組はおもに養子と養父母の親子関係の絆が大事にされます。ごく最近までは、生物学的な両親と完全に絶縁するためと称し、生物学的な両親がどこのだれであるかさえ、明らかにされることがなかったといいます。イヌピアト族の社会における養子縁組は、現代の工業化社会のそれとは異なり、二組の親をつなぐ絆であると同時に、二組の集団をつなぐ絆としての役割もはたすのです。
この養子縁組は、日本でも最近まで、多く行われていました。それは、家系を絶やさないためということもあったようですが、子どものために親以外の他人に子育てを頼んだということもあったようです。偉人の伝記を読むと意外と養子に行ったという人が多いのに驚きます。