上から下から

 人は、変えることに抵抗します。長い間蓄積されてきたものを否定された気になるからです。その気持ちや信条を尊重し、共感するところから始めなければなりません。私の園は、公立園からの民営化です。当初、前の園の保護者から反対がありました。その時、私は、その保護者の気持ちを共感するところから始めました。子育て中で大変な時期にその大変さを共有してきた園がなくなるのは、当然さびしいことです。柱1本にも思い出があります。部屋の隅で子どもが泣いている姿を思い出すかもしれません。

それが、壊されていくのです。涙が出るほどさびしいのは当たり前です。できれば、変えたくないでしょう。まず、変えることを説得するのではなく、変えたくない気持ちに共感したのです。しかし、時代は変わり、園舎は古くなり、耐震診断でも危険な建物になってきました。永遠と建物を残すことはできません。子どもの成長と同じで、かわいい子ども時代はいつまでも続くことはできないのです。私が次にしたことは、「さびしいのは決して悪いことではありませんが、それよりも前向きにものを考えましょう。」といって、新しい園舎、新しい保育に期待と夢を持たせたのです。

ゴールマンは、変革には、希望や夢によるモチベーションが必要だと言っています。当事者の気持ちや信条を尊重し、一方で夢に向かって前進することの利点をはっきり示して見せることによって、変化のプロセスに良いインパクトを与えることができるのです。そして、その手順は、「急がば回れ」だと言います。変革するのには、いったんペースを落としてでも組織のシステムや文化についてよく話し合う努力が必要です。リーダーだけで突っ走るのではなく、当事者を変革のプロセスに巻き込んで、コミットメントを形成していくことです。EQの高いリーダーは、こうしたスタイルを用いて変革のスピードを緩め、人々の能力を開花させていくうえで何が必要なのかをはっきり見極める努力を惜しまないのです。

しかし、それだけでは不十分であると指摘します。共鳴は、全員が変革に同調しなければ起こりえないものだからというのです。下から上への戦略も必要になってくるのです。ゴールマンは、「始動は上から、戦略は下から」と助言します。それは、組織全般にわたって公式、非公式のリーダーを巻き込み、何が機能していて、何が機能していないのか、機能している方向へ向かって組織が発展できたらどれほど素晴らしいか、といったテーマについて話し合うことだと言います。こうした問題をじっくり議論する努力は、貴重な教育の機会です。これによって、人々に考えさせ、議論させ、進むべき方向を悟らせることができるのです。人々を興奮とやる気の渦に巻き込んでしまえば、説法から行動へと移りやすくなると言います。熱意は、モーメンタムを生みます。
ここでもリーダーの役目があります。それは、方向を示すのはリーダーの役目です。舵取りです。夢に向かって、全体の価値観に向かって、新しい協調体制に向かって、透明な目標、オープンな変革プロセス、最大多数の参加、そして新しい行動の垂範によって、上から下へ、そして下から上で、共鳴に向けたジャンプスタートを切ることができるというのです。

リーダーと組織は、その相互作用によってそれぞれの存在が生かされてくるのです。