耳を傾ける

改革の時に、職員の意見に耳を傾けるということは建前ではわかっていても実際に行うとなれば難しいものです。よく、他園の実情を聞くと、園長は職員の意見に耳を傾けていると言いますが、職員に聞くと、聞いてくれないという不満を聞きます。そのギャップはどこから来るかと言うと、意見を聞いてくれるのですが、その意見を反映してくれないということのようです。結局、園長から説得されてしまったり、園長の思いを実行してしまうようです。それは、園長と職員の関係だけでなく、先輩、後輩の間でも同じことが言えます。もちろん、園長や先輩の方が経験が豊富です。しかし、その経験は、け局は変えない理由になってしまうことが多いのです。意見に耳を傾けるというのは、意見を何らかの形で反映するということなのです。

 私は、理念に関係ないところではあまり意見を言いません。職員たちの話し合いに任せています。そして、その報告で、理念に触れる部分だけ、注意をします。しかし、たまに会議などに出て、保護者から見ると、こう見えるのではないかというような意見をいうことがあります。どうしても、職員だけで話し合っていると、それが他からどう映るのかという観点などが抜けることがあるからです。しかし、そのときに、よく職員に私の意見が却下されることがあります。私は、「みんながきちんと考えてそうしているのなら、保護者にも説明できるからいいね。」とみんなの決めたことに従います。園長や先輩の中には、職員や後輩の言っていることが正しいときでも、メンツから聞かないことがありますが、それでは組織はよくなりません。

 インドのある会社が、古い企業文化を変えていく必要性を感じた会長がまずこんなことに取り組みました。会社に深くしみついている文化を克服して自分の信じるビジョンに社員たちを同調させていくためには、単に言葉で訴え、新しい方針を打ち出し、研修を実施するだけでは不十分で、理想とする行動を常に会長自ら実行して見せる必要がありました。会長室に掲げてあるモットーは、「衆力功あり」でした。「一人の力よりも大勢の力を合わせれば、物事は成功させやすいこと」という意味ですが、それを実現するための第一歩は、皆の意見を聞くことでした。スケジュールは気にせず、会長との対話を望む部下が訪ねてくればいつでも応じました。相手の話を真剣に聞きました。そして、部下の意見を参考にして、自分の決断に取り入れました。食事の時間になると、カフェテリアへ出かけて行ってヒエラルキーの壁を破り、人間体人間のレベルで社員と付き合いました。社員の息子が病気になれば気遣い、社員の娘が学校で賞をとればともに喜びました。仕事に本気で取り組んでいる社員を見かけると、公の場で褒めました。難しそうな問題に関しては、社員に権限を委任して自力で解決策を見いだせるように励ましました。そして、意見決定権をできるだけ組織の下部にまで与えました。社員に向かって、自分の内面を深く見つめてビジネスにとって何が正しいのかを発見しなさい、そしてそれにしたがって行動しなさいと指導したのです。

 このような行為は、最初のうちは皆は疑わしげな視線を向けましたが、すぐに彼の行動が演技ではなく本心であることが人々に伝わっていきました。会長がいつも対話に応じ、秘密主義が一切ないので、社員は憶測を巡らせたり、策略を用いたりする必要がなくなったのです。会長は、誰に対しても誠実で、前向きで、人間味あふれる態度で接したので、社員たちとの間に信頼と尊敬が生まれました。

 信頼と尊敬は、意見を変えないことや、自分を主張することからでは生まれません。