整列から同調

 組織が生まれてから長くなると、どのようなよい組織でも問題が出てきます。それは、その時代のニーズから生まれたものであれば、なおさらです。時代にニーズにずれてきてしまうのです。また、長くなると慣れてきて、問題点が見えにくくなります。そして、それぞれの役割が固定化し、新しいアイディアなどが否定されてしまうことが多くなります。守るべきものと、変化しなければならないものがわからなくなってくるのです。企業では、よく問題になるのが、「官僚主義」「秘密主義」「透明性の欠如」などです。

 リーダーはしばしば、人々を戦略に向けて「整列させる」というような表現を使うことがあります。しかし、この表現には、鉛筆の先を同じ方向にそろえて並べるような、あるいは、分子が磁場に従って同一方向に整列するような、機械的なイメージがあるとゴールマンは指摘します。しかし現実はそんなに単純ではないと言います。無味乾燥なビジネス用語でつづられた企業戦略は、主に理性の脳、すなわち大脳新皮質に訴えかけます。戦略ビジョン、それに続く計画は、直線的、現実的で、コミットメントを形成するうえで不可欠な心や情熱に関わる要素を無視していると言います。

 この留意点は、特に保育については気を付けなければならないと思っています。私も若いころは、保育という分野にも、もう少し企業的な捉え方、ビジネス的な考え方を導入することが、社会の中で認められることと思ったことがありました。そのころは、ISO取得とか、保育サービスという言葉を使ったり、ビジネス用語を使うことが、先端を行っているような錯覚をしたころがありました。保育という仕事は、商工の一部であると思って、その論理に巻き込まれたこともありました。しかし、最近では、もっと、人としての生きる道であり、人類の進化の過程の中での営みであるという認識が強くなっています。そう思っていると、企業におけるリーダー論は、EQ能力というこころの問題になり始めてきました。人と人とのかかわりの中での仕事は、机上の学問でも、機械的な作業ではないのです。

 ですから、変革が人々の心に本当に浸透するには、「整列させる」だけではなく、「同調」という、整列に共鳴が加わらないと頭と心が受容するようにならないのです。人々の心をビジネス戦略で同調させて、情熱を引き出すことが、リーダーの目標なのです。EQの高いリーダーならば、人々の同調を得るためには単に戦略を周知させるだけでは不十分だとわかっているはずだと言います。同調を得るためには、感情に直接訴えかけることが必要なのです。
 南カリフォルニア大学の教授であるウォーレン・ベニス氏は、同調を「ビジョンを通してこころの注目を集めること」と表現し、集団の理想のもとに人々の努力を結集させることと並んで、リーダーが果たすべき基本的な責任であると述べています。同調は、組織が大きく変わろうとしている局面では特に重要であると言っています。それまでの成功を支えてきたビジョンが古くなり、新しいビジョンが求められる局面においても重要であると言っています。

 同調の第1歩は、組織の感情的現実と理想的ビジョンとの落差を認識するプロセスに人々を深く巻き込んでいくことであるというのです。そこで、リーダーは、さらに一歩踏み込んで、変革プロセスに関して全員に当事者意識を持たせる工夫が求められます。どのような工夫があるのでしょうか?