人間関係の力

 リーダーシップとは何かということを、本に取り上げられたり、講演などのテーマになりますが、このテーマは、教室で効率的に教えるとは難しいとゴールマンは言います。それは、EQコンピテンシーを習得しなおすには、何か月もかかるからです。それは、考える脳である大脳新皮質だけでなく、感じる脳が関係してくるからだと言います。一方、大脳新皮質は専門的な技術や純粋に認知能力を習得する部分で、学習速度が非常に速く、1回聞いただけで習得してしまいます。しかし、情動をつかさどる大脳基底核とその周辺部分は、大脳新皮質とは異なる学習の仕方をするようです。それは、新しいスキルを習得するために、反復練習が必要だからです。

 ということで、教師が生徒の脳の回路に対して「古い習慣を捨てて新しい習慣を覚えなさい」と指示しても無理で、とにかく練習が必要だと言います。行動パターンを反復すればするほど、それに対応する脳の回路が強化され、すなわち、脳内の配線がつなぎなおされていくのです。新しい習慣の学習は、ニューロンの伝達機能を強め、新しいニューロンの成長を促す場合さえあると言われているのです。小さいころから影響を受けてきたリーダー像が、熱心に模倣してきたリーダー像が、優秀であったかどうかでかなりの差が生じ、後でそれを修正しようとすると大変なようです。

 しかし、悪習を克服して、リーダーシップのレパートリーを広げるために練習を繰り返していけば、新しい神経回路は柔軟性を増し、強化されていきます。そうなれば、感情をコントロールしながら共感を持って相手の話を聞けるようになったことを自覚できるようになると言います。ここで、脳の「標準設定」が新しい神経回路に変更されたことになり、このレベルで習得されたことは、何年もあるいは一生涯消えることはないようです。

 いよいよ最後の発見です。それは、「人間関係の力」です。自発的な学習というのは、自分だけで学習することと違うのです。少し違うかもしれませんが、よく「子どもは母親が一番大事」とか、「母親が子育てをすべきだ」ということがありますが、それは、「母親だけで子育てをすべき」とか、「子どもにとって母親だけでいい」ということではないのです。多くの人たちの人間関係の中で子どもは育てられるべきなのです。同じように、リーダーもその職種としては職場では一人かもしれませんが、いくらリーダーが研修に参加しても、一人でリーダーシップを育てるのでなく、例えば、一緒に研修を受けた人同士がのちまでかかわりを持つことも多いようです。2年間のプログラムに参加したあるリーダーが終わった後のコメントで、「貴重だったのは、プログラムだけでなく、むしろ同僚受講者たちとの人間関係が育ったことです。」と話しています。

 自発的学習のプロセスにおいては、あらゆる段階で他者からの応援が必要になります。理想の未来像を考える段階も、それを現実の自分と比較する段階でも、進歩を評価する最後の段階においても、人間関係があってこそ、自分の進歩もわかるし、学習したことの有用性もわかるのだと言います。

 新しい習慣を試してみたり、練習したりするには、安全な環境と人間関係が必要だと言います。リーダーが、前向きのグループに支えられているとき、リーダーは前向きの変化を遂げることができるのです。グループの人間関係が率直で、信頼と安心感に満ちたものであれば、なおさら効果が大きいと言います。情緒の安定があってこそ学習が効果的になるという子どもの発達と同じようです。