脳の構造

 きちんと部下の話を聞かなくてはならないとき、どうしても感情がコントロールできなくなり、共感が困難な時にどうしたらよいかというという場面で、次のような助言をしています。カッとなりかけたとき、「一歩引いて話を聞く。すぐに介入しない。」「相手に話をさせる。」「客観的になれ、自分の反応には相応の理由があるか?早合点していないのか?」「質問は事情をはっきりさせることが目的。非難や敵意を投げつけるためではない。」ということを心がけ、過剰反応を抑制します。そして、十分な情報を集め、事情をきちんと把握し、きちんと会話をします。

 ここまで変わるためには、まず、問題が起こりそうな状況を察知し、過去の相応しくない行動をとってしまった時の状況を意識的に警戒します。そうすることで、次の行動を意識的に選択することになり、その結果、新しい対応パターンの練習ができるのです。そして、それを何度も繰り返し練習します。単に部下を批判するだけでなく、よくできた仕事に対して肯定的なフィードバックを与え、グループのミッションに貢献した功績を認め、細部まで指示することを控えていきます。こうやって、脳の構造を変えていきます。

 リーダーシップスキルは、はるか昔から身につけた習慣を無意識のうちに引き出して使うものですので、旧弊な習慣を取り消すには、いつもコミットを持ち意識し努力し、脳の構造そのものを変えねばならないのです。最近、運動部でのコーチによる体罰が問題になっていますが、そのコーチは、その像を小さいころから植え付けられてきたのです。同じように、リーダーシップの学習は、子どものころから始まっています。教師、コーチなど、その子にとってリーダーの立場にある人間が最初のモデルとなります。それを足場にリーダー像が形成されていきます。

やがて、その子たちが成長してクラブやチームや生徒会などでリーダーになった時、彼らは、幼いころから形成してきたリーダー像を実行に移します。さらに、社会人となって職場で新しいリーダーに出会うと、それを自分のリーダー像に加えて、新しいリーダーシップを試してみるようになります。この学習過程においては、リーダーシップの要素を意識的に教わる機会はほとんどありません。それらは、自然に身についていくのです。そして、脳内で習慣の回路が形成され、同じような状況で自動的に同じような反応をするようになります。それを繰り返していくうちに、その部分の神経回路はますます強化されていきます。体罰を受け、コーチになった時に体罰を繰り返していくうちに、体罰が日常化していってしまい、何の疑問も持たなくなりますし、それ以外の方法が思いつかなくなります。これが、学校などで学習する外字的学習と対比させて、「内示的学習」と呼びます。

脳は、リーダーシップのコンピテンシーである自信、自己管理、共感、説得などは、この内示的学習によって習得されていくものです。内示的学習は、考える脳である大脳新皮質の表層ではなく、脳の底に近い大脳基底核で行われます。リーダーシップに関する学習の場合、EQをつかさどる前頭葉前部と大脳辺縁系の回路が関連しているらしいことが最近解ってきています。この脳の原始的な部分で習得したことが、われわれの日常の習慣となり、生活全般にかかわる基本的課題への対処法を形づくっていると言われています。それは、本人が意識しないうちに行われていくのです。

リーダーとしてのモデルの善し悪しは、自分がリーダーになった時に現れていくもののようです。