リーダーシップ育成

 各所に配置された組織の中のリーダーは、職場における経験年数の多い人であることが多くみられます。経験が長くなると、自分ながらのやり方、考え方を持つようになります。しかも、それに自信と満足を持つようになります。そこで、リーダーと言われるような人は、本来的に新しい学習を促進する方向には動きにくくなります。しかも、組織というものは、どうしても慣例と現状の上に安住したがるものだと言われています。組織内の専門スタッフは、仕事上の抵抗とストレスを最小限にするために、既存の体制に依存しようとします。その結果、思い切って新しいことに挑戦する人はほとんどいなくなります。

 そんな古いリーダーシップではなく、新しいリーダーシップ・スタイルを構築するには、往々にして他者との関係を根本から変える必要があります。しかし、ゴールマンは、このような試みは非常に難しく、机上論では対応できないと言います。しかも、ほとんどの管理者教育やリーダーシップ育成プログラムは、こうした難問に答えてはいないと指摘します。それは、方法論に問題があるだけでなく、教育内容から重要な要素が欠落しているからだと言います。たとえ最高の教育プロセスを採用しようとも、人間だけに焦点を当てて感情的現実と文化の力を度外視するならば、組織の変革はおぼつかないだろうと指摘しています。ゴールマンは、こんな失敗例を挙げていますが、このようなことは多くの園で見られるケースです。

 アメリカのある銀行のCOEは、自分自身がEQコンピテンシー向上のためのコーチングを受け、「多面観察調査」を経験し、リーダーシップ・スタイルを劇的に変えた後、自分の組織の中の600人の管理職にもリーダーシップ育成教育を受けさせたいと考えます。そこで、COEは、人事単と役員に指示し、上級管理職を対象にした教育プログラムを考案させました。ところが、人事局が受講者を募集したところ、希望者はほとんどいませんでした。しかも、希望した人は、好奇心の強い者と、勇気のある者だけで、本当に教育が必要とする者たちは集まりませんでした。こんな経験はどれでもしたことがあると思います。園長が、いろいろなところで研修を受け、勉強し、自分のリーダーシップ・スタイルを変革し、さあ、次は職員の中のリーダーを育てようとして、教育プログラムを作成し、教育しようとすると、本当に必要な者たちはそのプログラムを受けようとしないということはよく聞きます。この例の銀行では、どうしてそうなったかをゴールマンは説明しています。

 問題は、プログラムがこの組織の人間にとって無意味だった点にあるとしています。この銀行の文化から見れば、研修は時間の無駄であり、優先順位が低かったからだと言います。研修の重要性を認識させるには、トップ・リーダー自らが個人的に肩入れする姿勢を見せることが大切であると言います。リーダーシップ教育を成功させるためには、企業のトップが先頭に立って、教育プログラムが企業としての優先事項であることを周知させなければなりません。この銀行のCEOには、その点が見えていなかったと言います。

自分のリーダーシップ・スタイルを大きく変えることになった貴重な経験を部下たちがほとんどだれも望んでいなかったことを知って、CEOは大きなショックを受けました。確かにこのCEOは、非常な努力の結果、変化をしたのですが、じつはこの変化のプロセスを公表していなかったのです。実際に経験したことについて誰も理解していなかったのです。ですから、提案されたリーダーシップ育成プログラムは、ただ人事が従来実施してきたメニューの一つとしか認識されていなかったのです。プログラムの実施を人事研修担当者に任せたために、このプログラムはさほど重要ではない、というメッセージを意図せずにして送ってしまっていたのです。

リーダーシップ育成の試みを成功させるためには、それがトップ経営者からの発意であることをはっきり示すことが必要だったのです。

リーダーシップ育成” への8件のコメント

  1. どんなプロセスで、どんな目的があって、という思いをしっかりと示すことは大切ですね。自分一人の中でどんどん意識が変化していき、情熱的になって何かに取り組んでいると「あれ、伝わってない?」や「あの人は何を考えてるの?」ということになることもよくあります。また、組織の文化を把握せずに、遠くのことばかりに目を向けてしまい、考えと現実が噛み合わないこともあります。時には大胆に行動することも大切ですが、急がば回れのように丁寧に現状を把握し、その中で思いを着実に実行する足場を作っていく感覚を意識していきたいと思います。どうも、急ぐなら急いどけ…みたい自分なので、もどかしいかぎりです。

  2. リーダーが周りに何を語るかも重要な点なんですね。どちらかというと自分のしてきた体験はあまり積極的には話さない傾向があるので、その辺も少し意識していないといけないかもしれません。こうした経験は大事なんだと、自分の身体を通して出てくる言葉の持つ力は、想像以上に大きいということなんでしょうか。となると、常に質の高い体験をし、その体験談を語ることができるようにしておくことも大事なことですね。園のことであったりクラスのことであったり、大きさはそれぞれ違っていますが、リーダーシップの育成については常に課題としてあります。これについても丁寧に考えていきたいことです。

  3. 数日前、ある保育士とこんな話をしました。「スピード感という、もの事をただ素早くこなすだけでなく、こなす過程事態を楽しんでいる印象があります。」と、私が言うと、「それって柔軟性があるからなんだと思う。10代20代で柔軟性があるのはある意味当り前で、問題は30代40代になってもその柔軟性を維持していられるかが、今後問われてくるところだと思っている。」と、30代の保育士が言っていました。藤森先生はよく「物事は両立しない。そのために、優先順位を明確にする必要がある」と話しています。その方が話した内容は、その場において物事を素早くただこなすことより、その過程にある子どもの気持ちに寄り添う事のほうが、優先順位が高いということになります。経験による自信や満足より、柔軟性のほうが優先順位が高いということになります。そのような考え方が、職員に伝わっているという事は、「組織としての優先事項がしっかりと周知されている」という事になると感じました。

  4. 長年続けてきた年齢別一斉のやってあげる保育を、ある時を境に異年齢の見守る保育に変えることは、リーダーの園長先生にとっては、清水の舞台から飛び降りるくらいの一世一代の決断を要することだと思います。セミナーで藤森先生の講演を聴いて実際の見守る保育に感動し、それをうちの保育園に!と思っても、実際は多くのハードルを乗り越えないと夢の実現はありません。建物の問題、父兄の理解等がまず思い浮かびますが、実はその保育を担うスタッフの意識変革が一番の難関なんでしょう。特に歴史のある園には“文化の壁”もありそうです。藤森先生のセミナーには、園の変革を促す教育プログラムが組み込まれているという点が一般の保育セミナーと決定的に違う点です。

  5.  リーダーがリーダーを育成するのもなかなか難しいことですね。例えば園長より年上の保育士がいた場合、今までのやり方を変えようとした場合、とてもやりにくいと思います。私もそういう立場になったら毎日悩んでいると思います。だからと言って自分が学んだことを誰にも公表せずに、トップダウンのように変えることを伝えても、理解する方が難しいと思います。変革するためのプログラムなどの作成も大切かもしれませんが、まずは自分が学んだことを、皆に真剣に伝える事が重要な気がします。逆の立場になり「今後はこの方法で行くから、これを読んでおいて」と言われると、自分の今までの経験は何だったのか?となります。トップの一生懸命の姿を見れば、熱意も伝わり自然と皆が同調し共鳴していくと思います。

  6. 変化をすることに対して、その重要性や目的がわかっていなければ、それはあくまで押し付けられたものになるように思います。保育を変えるということに関してもそれは言えるように思います。ただその場合、今までの保育を真っ向から反対するとより相手にとっては受け入れがたいものになるということはよくあることです。「よりよくなる、楽しくなる」どの人にもそういったある意味「メリット」に繋がることが必要になってくると思います。また、そこに「やりがい」や「正しいことをやっているという自信」が持てるように話すことが必要になってくるように思います。また、それに対して、リーダーとなる人に伝えていかなければいけません。そういう意味では若い先生のほうが先入観がないだけになじむことは早いかもしれませんね。今までの内容と変化していく内容そのバランスの塩梅はとても難しいものです。だからこそ、理念や考え方をしっかりと持つことは必要ですし、目指すものははっきりとしていくようにリーダーは伝えていくことが必要とされると思います。

  7. 私が園長の職に就いていた時、縁あって、藤森先生のセミナーに参加し、目からウロコというより脳天をガツンとやられたような衝撃を受けました。乳幼児教育についての基本的なお話を伺いました。その頃私が園長をしていた園は学年別保育をしており、たとえば、年長・年中・年少と一人担任で、先生主導でなければやっていけない保育方法を用いていたのです。先生も大変ですし、子どもたちも好奇心と探求心の赴くままに行動すると怒られたり、・・・何か大変だなという感を否めませんでした。保育のことをよくわからないままに園長職を引き受けたのでこういう結果になったと反省しながら、自分でセミナーを経験した後は、主任さんからできる限りセミナーへ派遣して、研修を受講してもらいました。その園では従来なかった研修費を予算計上しました。園長として本当に自園が変えられるセミナーだと確信するならば、誰かに任せるのではなく、園長自らが理事会の承認を得ながら職員たちにその良い研修を経験する機会を提供し、自園の改革に取り組むことが必要なのでしょう。その時は、職員に研修を受けさせるだけでなく、園長自らも研鑽を積んでいかなければなりません。私が現在の立場にあるのは、こうした前歴があるからなんだ、と今回のブログを読みながら思った次第です。今の園の職員さんたちは、外の研修に行かなくても、日々仕事=研修、です。それは取りも直さず、人間としての在り方を実践を通しながら学んでいるのだろう、と思います。実に幸せなことです。

  8.  〝経験が長くなると、自分ながらのやり方、考え方を持つようになります。しかも、それに自信と満足を持つようになります。〟これは即ち〝躍龍〟の段階と言えますでしょうか。先ずはその段階へ向けて焦らずじっくりと歩みを進めていきたいと思います。
     〝リーダーシップ育成〟というものが容易に行えることではないということをこの度のブログから感じました。人間を育てること、それ自体とても容易ならざることな上に、〝リーダーと言われるような人は、本来的に新しい学習を促進する方向には動きにくくなります。〟という性質のものであるとするならば、それこそ簡単に〝育成〟できるものではないように思えてきます。
     ですが、〝ほとんどの管理者教育やリーダーシップ育成プログラムは、こうした難問に答えてはいない〟この問題へ、〝リーダーシップ育成の試みを成功させるためには、それがトップ経営者からの発意であることをはっきり示すことが必要だったのです〟この解答は、とても腑に落ちる思いがしました。道は開けるとはこのことだと思いました。

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