生まれつきの気質

 子どもたちは、様々な気質を持っています。生まれつき非常に内気であると、穏やかであるとか、気難しい子もいます。この生まれつき持っている気質は、一生変わることはないのでしょうか。それを研究しているのが、ハーバード大学の発達心理学者であるジェロ―ム・ケイガンです。ケイガンは、人間には少なくとも4種類の気質があると言っています。それは、「臆病」「大胆」「陽気」「陰気」です。それぞれの気質は脳の活動パターンの違いから生じるものだという見解を示しています。

 しかし、これらの気質は、必ずしも運命を決めてしまうわけではなく、適切な経験を与えられれば変わってくるようです。まず、大切なのは親の接し方で、生まれ持った臆病の処理方法を親からどう教えられるかだというのです。ケイガンの研究チームが調べたところでは、母親たちの中には、臆病な我が子をありとあらゆる不安の対象から保護してやるのが親のつとめだ、という考えの持ち主が何人かいました。他の母親たちは、臆病な我が子が不安な状況に慣れて人生の小さな波風に適応できるよう手助けしてやるのが親の役目だと感じていました。親の過保護な姿勢は、かえって子どもの恐怖感を強くしているようだということがわかりました。たぶん、恐怖を克服する練習の機会を子どもから取り上げてしまうからだろうと考えられています。逆に「適応を学習」させる子育ての姿勢は、子どもを勇気づけるのに役に立っているのです。

 生後6か月の赤ちゃんを各家庭において観察したところ、過保護の母親は子どもがむずかったり泣いたりするたびに抱き上げてあやしており、子どもに適応を学習させようとする姿勢の母親に比べて抱いている時間が長かったそうです。赤ちゃんの機嫌がいいときに抱いてやる時間と、泣いているときに抱いてやる時間を比較したところ、過保護の母親は泣いている赤ちゃんを抱いている時間の方がはるかに長かったそうです。

 また、子どもたちが1歳前後の時点で、もう一つ相違点があるそうです。例えば、子どもが誤って飲み込むと危険なものを口に入れている場面で、過保護の母親は子どもの行動を制限することについて指示が手ぬるく率直でない傾向が強く、過保護でない母親は、きっぱりと限界を設けて率直に命令し、子どもの行動を阻止し、親の命令に服従させるケースが多かったそうです。親の断固した禁止の方が、子どもの恐怖心を克服させるのに役立つのです。

 ケイガンは、次のように結論しています。「不安に過剰反応する子どものために、良かれと思って挫折や不安をすべて取り除いてやる母親は、逆に子どもの不安感をひどくしていると思います。」言い換えれば、過保護の親は、臆病な子どもから未知の状況に直面していた時、自力で動揺を静める練習の機会を奪い、恐怖心を少しずつ克服する機会を奪っていて、逆効果をもたらす」ということなのです。それを、神経学的レベルでこう説明しています。「臆病な子どもたちの前頭前野の神経回路が、恐怖に対処する情動学習の機会をうまわれたということであり、それどころか、恐怖への対処に失敗する経験を繰り返すことによって、恐怖にとらわれる傾向がますます助長される恐れさえある」と言います。

 臆病な子どもでも、経験によって助けられて神経回路を修正しながら次第に大胆になっていけるものであり、特に社会的能力に優れた子どもは、臆病さを克服できる場合が多いのです。協調的で他の子どもと仲良くできる子ども、共感能力が高く、他人と分け合ったり、他人を思いやったりできる子ども、親しい友人関係を築くことのできる子どもなどは、4歳の時点で臆病な気質が認められても10歳ころには、それが消滅しているケースが多いようです。