怒りのコントロール

 よく、やくざ映画を見た後、肩をいからせてあるいてしまうというような影響を受けるという話を聞くことがありますが、こんなこともあるようです。まず、ある人たちに悪意に満ちた言葉で挑発します。そのあと、その人たちを二つのグループに分け、一つのグループには楽しい映画を、もう片方のグループには不快な気分になる映画を見せます。そのあとに、最初にひどい言葉を浴びせた人の採用に関して検討する際の参考にするという名目で、その人の評価を求めます。すると、直前に不愉快な気分になる映画を見せられたグループの方が、その人への怒りの度合いが強く、辛辣な評価を下したのです。

 どうも人は、普段何か面白くないことがあった後では普段より堪忍袋の緒が切れやすいのです。これは、私たちは経験からそのことは知っていますが、それは、あらゆる種類のストレスは副腎皮質に働きかけて精神を緊張させ、人減を怒りっぽくするのです。仕事でくたくたに疲れて帰った日に子どもが騒いだとか散らかしたといった程度の、普段なら腹が立たないようなことで血がのぼるのは、こうした理由からだそうです。私たちは、普段にイライラを「子どもにあたる」という言い方をすることがありますが、それは、脳の働きであるようです。園の保護者が、こう打ち明けたことがあります。「仕事でイライラしてお迎えに来ると、つい子どもに当たりたくなるのですが、子どもに当たってはいけないと思って、園にあたってしまうのですよ。」確かに、子どもにあたってほしくはありませんが、園にもあたらないでほしいとその保護者に言ったことがありました。

 このような怒りは、次のきっかけでますます拡大していくことがあります。それは、脳科学で生理的なこととして解明されていますが、このように拡大されていった怒りの中では、もう相手を許す心も、理性に耳を傾ける気持ちもなくなってきます。頭の中にあるのは報復ばかりで、その結果どうなるかなど考えもしなくなります。こうした極度の興奮状態に陥る人間は、物事を正しく認識できなくなって、最も原始的な反応に頼り、その結果、むき出しの本性が行動を支配しはじめるのです。

 アラバマ大学の心理学者であるドルフ・ツィルマンは、怒りの仕組みを調べ、解明したうえで、怒りをコントロールする方法を二通りあげています。一つは、怒りの発端となった理由をもう一度問い直してみる方法です。怒りは、最初に衝突があり、それに対する評価から発生し、さらに評価検討が繰り返されて増大していくらだと言います。ただし、タイミングが重要で、怒りが発生してから早ければ早いほど効果が大きく、怒りが表出する前に気分を静めることができれば、怒りを完全に回避することも可能だと言っています。この方法は、とても有効で、参考になります。具体的な方法として、このような例を挙げています。最初に書いた事例で、あとで悪態をついた人への評価をしてもらう前に、みんなの前で同じように悪態をつかれた違う人が、そのことを受け流し、「あの人、もうすぐ卒業論文の口頭試問があるので、気が立っているんです」と説明した後であれば、腹を立てていたはずの人たちも、辛い評価をつけないで、同情の声を寄せたと言います。

 何かに腹を立て、それを家に帰って夫婦の間でそのことを報告するときに、その内容に同じように腹を立てて聞くと、怒りが増大してしまうことがあります。それを、その理由なりを冷静に考察することから助言をすると、怒りがおさまるということがあります。そこに、私は複数の人からの多角的な見方が必要であり、それを素直に聞く力が必要だと思います。ただ、怒りが激しく、まともに考える余裕がなくなっている場合は効果がないとツィルマンは指摘しています。