対人知性

 人には、様々な知性があることを提案した多重性理論を発表した10年後に、ガードナーはその一つである「人格的知性」をこのように要約しました。「“対人知性”とは、他人を理解する能力をいう。この人の動機は何か、あの人はどう動くだろうか、皆と協調して動くにはどうすればいいのか、といったことを理解する能力だ。セールスマン、政治家、教師、臨床医、宗教家などとして成功している人は、だいたい対人知性に優れている。“心内知性”は対人知性と対をなすもので、自分自身の内面に向けられる知性をいう。心内知性は現実に則した正確な自己モデルを形成し、そのモデルを利用してかしこく生きる能力だ。」

 保育の仕事は、このような知性がより求められる仕事のような気がします。そして、このような知性は、ヒトとしてとても大切なものですが、それは、このように本質を説明していることからもわかります。対人知性の本質は、「他人の気分、気質、動機、欲求を選別し、それに適切に対応する能力」であるとし、心内的知性には、「自分の中にある感情を把握し、弁別し、行動指針とする能力」も含まれると言っています。これを見ると、対人知性は、言葉によらない他人とのコミュニケーションであるともいえます。ですから、赤ちゃんに対するときほど、この知性は必要になるのだと思います。どうしても、言葉が話せるようになると、言葉で表現したもの、文字で表現したものから他人を理解しようとします。しかし、相手に対しての対応は、言葉では表さない心を理解する必要があるのです。

 もう一つ、ガードナーの分類の中に現れない知性があります。それは、ガードナーが自分自身や他人を動機や習慣の面から「理解」し、その洞察に基づいて自分の行動や他人との関係を処理する知能の認知的側面を重視したために、「情動」の役割にはあまり言及していないと、ゴールマンが指摘しているのです。ゴールマンは、人格的知性には情動の働きやその制御についての洞察を、より深くするべきであるとしました。それは、いまだに研究すべきものとして残されているようですが、情動というと、どうしても知性をかき乱し、特に人との関係の中で、対人関係を複雑化し、翻弄し、困惑させるものとして、その解明が置き去りにされてきてしまったとゴールマンは言います。しかし、情動にも知性があるという観点、情動に知性をもたらすことができるという観点は、今後研究されていくべきだと指摘しました。

 しかし、ガードナーをはじめとしてIQを最も熱心に信奉する心理学者のあいだでも、情動と知能を本質的に相いれない概念として捉えるのではなく、情動を知能の領域に近づけることができないかということが折に触れ議論されてきたようです。しかし、「社会的知性がIQ信仰を揺るがすことはなく、1960年代頃には、知能テストを擁護する人たちによって、社会的知性を「役に立たない」概念であると切り捨てられました。それが、やっと近代になって、言語と数学の能力を中心に据えた古いIQの概念は狭すぎる、IQの高さは学校生活や学究生活での成功を予言してくれるかもしれませんが、実生活では学問から遠ざかるほど意味を持たなくなっているという意見が多くなっているようです。知能をもっと広くとらえ、人生をよりよく生きるために必要な能力は何かという観点から知能の概念を再編成しようとしています。

 こうした考え方を進めていくことによって、人格的知性と呼ばれるEQの重要性が再認識されてくるのです。