さまざまな能力

 最近の問題として、職場における「チームワーク」の取り方についての講演が多くなりました。組織において、その組織の力は一人の秀でた人の存在が必要なのではなく、チームワークの在り方が左右するからです。一時、若者たちがシェアハウスというような共同で住むようなことが増えてきたというニュースが流れました。テレビドラマでも、昨年から始まった「テラスハウス」という番組は、男女6人が、海辺にたたずむ一軒の家で、縁もゆかりもない同士で共同生活を始める「シェアハウス」が舞台になっています。このように、一つに群れることを望む若者が増えてきた一方、様々な問題も増えてきているようです。対人関係に問題がある若者が増えきている中、全くの他人と協調していくことができるかという問題があるからです。

 ハーバード大学の心理学者であるガードナーは、子どもは様々な能力を持っていて、将来どんな分野に興味を持つか、どんな分野に熱中し、卓越するようになるかを「プロジェクト・スペクトラム」の結果から分析しました。このガードナーの考え方は、すでに30 年近く前になるものですが、教育ということを考えるうえでもう一度見直すべきだと思います。特に、幼児教育において、何が学力なのかということを考えるうえでは、彼の著わした「多重知能理論」という考え方はとても重要です。この理論を簡単に言うと、人間にはいくつかの別個の知能が存在するということです。心理学のテキストでは、通常、知能は環境に対する適応力と定義されますが、その知能の中で、私たちが学校などで評価するのは、たった論理数学的知能や言語的知能を指しているに過ぎないというのです。ほかにも、例えば、音楽的知能、身体運動的知能、空間的知能、対人的知能、内省的知能、博物学的知能などがあるのではないかとガードナーは唱えたのです。

このような知能の定義は、子どもたちの教育を考えたとき、とても重要ですし、障害のある子と決めつけるうえでも、大切な観点です。私たちは、多くは非常に狭い範囲で子どもたちの能力を評価、判断しているのではないでしょうか。その狭い範囲での判断基準の一つが「知能検査」といわれる検査です。もっと、人として生きていく上で大切な能力に目を向けなければならないのです。こうした多様な知能が、別個に存在するというのがガードナーの多重知能理論であり、この理論から導かれることの一つは、個人ごとに設計された教育と評価の必要性です。ハーバード大学のプロジェクト・スペクトラムは、このような考えに基づいた教育実践なのです。

また、能力には普遍的な能力というものがあります。それは、どの国の子どもでも必要な能力で、例えば文化に関係なく共通して発達させる認知的能力です。しかし、能力は、このような普遍的なものだけでなく、ユニークな領域もあるのではないかと主張したのが、フェルドマンです。彼は、普遍的領域の連続体として、文化に依存して獲得されるような領域、たとえば日本語などの言葉などの領域があり、さらに専門的な領域として学校教育によって獲得されるような数学的能力などの能力があり、そして、その先に、極めて特異的な領域で、特定の人しか関心を示さない領域であるユニークな領域があるとしました。 教育は、本来、これらをすべて含むもの、すなわちスペクトラムであるというのがフェルドマンの理論です。そこから、「プロジェクト・スペクトラム」という名称が生まれました。科学の分野などは、この能力から生まれていることが多いのです。

子どもたちは、このようなあらゆる能力を持っています。そして、それらの能力を引き出していくのが幼児教育です。