豊富な経験

人は、いろいろな気質を持っています。それは、生まれつきか、後からついたものかということがよく言われますが、もちろん、生まれつき気質というものはあります。臆病であったり、楽天的であったり、慎重であったり、大胆であったりします。それは、その後の経験によって修正され、社会の中で生きる力に変えていきます。その経験とは、人とかかわる中で、また、社会の中で学んでいくものです。ですから、社会から学ぶ力が高い子どもほど、社会に適応できる力に変えることが可能になります。すなわち、EQが高い子どもほど経験に助けられて神経回路を修正しながら次第に社会に適応できる力に変えていくのです。

例えば、EQの高い子どもは、臆病な気質を自然に克服して、新しい同級生に話しかけるのをためらったとしても、いったん氷が解けてしまえば、こういう子どもたちは社会的に輝き始まます。このような成功を長年にわたって繰り返し経験するうちに、臆病だった子どもは、少しずつ自分に自信が持てるようになっていきます。臆病さを少しずつ克服できるとなれば、希望が湧いてきます。生まれつきの情動パターンでも、ある程度までは変えられるわけですから、この世に生まれたときは臆病だった子どもでも、情動を静める技術を学習し、さらに未知の世界へ足を踏み入れようとするまでに成長できるのだとゴールマンは言います。ということで、EQの高い子が、学習面でも優れ、将来成功する率が高いのでしょう。行動遺伝学者たちも、「遺伝子だけが人間の行動を決定するわけではない。人間を取り巻く環境、とくに成長過程で何を経験し、何を学ぶかによって、持って生まれた気質の表れ方は違ってくる。情動の可能性は、規定条件ではない。適切な学習によって改善可能な変数だ。それは、人間の脳の成熟過程が証明している。」と述べています。

脳の神経細胞は、生まれてから1,2歳までにその数においてピークであり、その後はそれを整理し、減らしていくということをブログでも取り上げましたが、それは、「刈り込み」と呼ばれるプロセスですが、その過程の中で、あまり使われない神経結合は失われ、よく使われる神経回路が発達していきます。余分なシナプスを廃止する「刈り込み」によって情動伝達における「雑音」の原因が取り除かれるので、脳内の信号/雑音比率が改善されます。「刈り込み」は、大脳新皮質全体にわたって短期間のうちに起きます。シナプス結合は数時間ないし数日の単位で形成されてしまいます。経験が脳に刻み込まれるのは、このような仕組みによるのだそうです。

こんな実験があります。あるネズミのグループは、はしごや踏み輪の様な遊び道具がたくさん用意されたゲージの中で飼育され、一方のネズミは、遊び道具のない殺風景なゲージで飼育します。この状態で数か月経過すると、遊び道具がたくさんあったグループのネズミの大脳新皮質ではニューロンが非常に複雑に絡み合った神経回路が発達したそうです。それに比べて、殺風景のゲージで飼育されたグループのネズミの神経回路は、まばらにしか発達しなかったそうです。両者の脳の発達の差は著しく、脳の重量にも差がついたそうです。また、迷路の問題を与えてみたところ、当然ながらその成績にも差が出ました。この実験は、サルを使った実験でも、経験が豊かなグループと経験が乏しいグループの間でも同様の差が生じたそうです。

ということは、人間でも同じはずで、赤ちゃんのころには、遊び道具が豊富の保育室の中で育てられるべきで、赤ちゃんが目移りするからとあまりおもちゃを置かず、殺風景の保育室の中で育てることは避けなければいけません。

豊富な経験” への5件のコメント

  1. なるほど、EQが生きていく上でどのように、そしてどれだけ大事か、今回のブログでよく分かりました。そのEQを高めていくための乳幼児期の施設が保育園であり、そのために保育指針に沿って必要な環境を用意していくことが公的な施設の役割ということになるんですね。例えば赤ちゃんがその瞬間落ち着いているように見えるからそれでいい、と考えるのではなく、落ち着いているのか無気力なのか、そもそも落ち着かせようとするのはなんのためなのか、大人になり社会に出たときにどんな力をつけていてほしいのか、そんなことをきちんと考えた上での対応や環境でなければいけないと思います。そんなことをきちんと議論できる場を作っていきたいと思っています。

  2. 金持ちネズミと貧乏ネズミの話は、グリーノウのラットを使った実験のことでしょうか。行き過ぎた早期教育の根拠に悪用されてしまうこともあるので一応の注意が必要かもしれません。実際、この実験にはいろんな解釈があって、信州大学の有路教授によるとー。

    ≪その実験に用いられたラットの日齢(生まれてからの日数)は20日である。その後、30日間飼育し、日齢50日で解剖を行い樹状突起の複雑度を調べている。日齢20?30日のラットは、ヒトに当てはめると少年期から思春期または成人期に当たる。つまり、グリーノウのラットは、生後から成人になるまでずっと実験の環境下で育てられたことになる。よって科学的根拠として、「乳幼児期の環境が脳に著しい影響を与える」などとは、正確に実験結果を理解していれば、とても言えないのである。一連の実験により明らかになったことは、乳幼児期や成人期など時期に関係なく、豊かな環境にいると刺激が多く脳は敏感に反応し脳構造に変化が及ぶということであって、「環境要因が脳の発達に影響する」ということのみを示しているだけである。≫

    シナプスの過形成と刈り込みも、過形成だけが強調されると幼児教育産業の格好のセールストークになります。過形成の発達上の意味を取り違えて過剰な刺激を与えてしまうと、正常な刈り込みがなされなくなってかえって脳の情報伝達のネットワークに障害が起こることがあります。

    ≪乳幼児期にいわば「保険」のように一旦シナプスを過剃に作っておいて(過形成)、環境に合わせて刈り込んでいくのが脳の動作原理である。つまり、シナプスを過剰に生成し、環境に合わせて刈り込んでいくのが、脳の発達である。このシナプス過形成の状態はいわば信号の素子が成人よりも過剰にある状態で、このため乳幼児は成人にはない様々な能力を持ちうることが説明される。そして、過形成されたシナプスのうち、入力刺激を受けないシナプス(つまり使われないシナプス〉は削られ、シナプスの減少(刈り込み)が起こる。このことが、年齢と共に新生児期や乳幼児期に新生児期や乳幼児期に備えていた能力が不要となり失われていくことを説明する。≫(有路憲一教授の論文より)

  3. シナプスなど遺伝子的な要因が性格に起因するところがあるのではと思っていましたが、それ以上に環境の影響はとても大きいですね。保育園などの子どものいる場所はそういったことも含めて、環境の作り方を考えていかなければいけませんね。「赤ちゃんはなにもできない。」というような保育者の思い込みや先入観は逆に子どもたちの発達を阻害しているということをより感じます。今、子どもに良かれと思ってやっていることが本当に必要なことなのか、自分の中で起きるジレンマを整理するときにこういったEQのことや情動という捉え方は必要になってきますね。

  4.  EQが高ければ高いほど、社会に出たときに高い能力を発揮するというのは、言うまでもありません。ですからEQを高める事を考える必要があります。最終的には子どもを取り巻く環境が重要になります。乳幼児の頃に豊富な経験をすることはとても大切なことです。実際にネズミの実験でも検証されているようにいかに環境が脳の発達にいかに影響しているかが分かります。以前から藤森先生の講演やブログの中にも乳児の部屋の環境が重要と言われていますが、少しずつ科学的に証明されています。どんどん藤森先生が言われている事が実証され、その通りになっているのが、時々不思議に思う事があります。

  5. EQ力の重要さは、当臥竜塾ブログによって大いに学んできました。そして、このEQ力を高める、恰も免疫力を高めるように、EQ力を高めるにはやはり様々な他者や、自ら働きかけられる豊かな環境があることが必要なのでしょう。すなわち様々な関わりを経験することによってEQ力は高められるのでしょう。シナプスの刈り込みによって所与の環境に適応する生き方ができるようになるわけですが、おそらく所与外の環境に出くわしたとき、おそらくはその環境適応を図るべくシナプスが大いに動くのでしょう。私は生まれてから50数年経って来し方を振り返ると、「所与外の環境」に出くわし経験するたびに、それまでにはなかった能力が引き出されてきたような気がします。そして、その傾向は未だに衰えません。今まで知らなかったこと、体験してこなかったこと、経験する機会がなかったこと、を知ったり体験できたり経験できたりするとあるエネルギーが沸々を湧き上がります。赤ちゃんたちならなおさらでしょう。それゆえ、乳児を取り巻く環境が豊かである必要があるということには大いに首肯できます。

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