脳の進化

 以前のブログで、私が「情動の科学的解明による…」という会議に出ていることを紹介しましたが、その会議はまだ途中ですが、実はゴールマンは、脳科学からもEQについて説明しています。その内容は私たちからすると少し難しいのですが、この説明が多くの人を納得させました。ゴールマンが注目された「EQ・こころの知能指数」という本の中で、脳の進化の過程がわれわれの感情や反応行動にどのように影響しているのかを描写しています。彼は、何百万年という進化の過程で脳が3つの主要部分から構成されるようになった経緯を第1章で概説しています。

 脳の中で最も古い部分は脊髄の上端に位置し、脳のいちばん下にある「脳幹」という部分です。この脳幹は身体機能や生存本能をコントロールし、脳の最も原始的な部分で、考えたり学習したりする機能は持っていません。ですから、生体を維持し、命を守るのに必要な機能は、あらかじめ決められたプログラムに従って調節するのです。爬虫類の時代には、この脳が主役だったのです。

 やがて、情動を支配する部分が発生し、さらに何百万年という時間を経て、脳幹のすぐ上に思考する脳である大脳辺縁系が発達していきます。この進化を見ると、思考する脳が生まれるずっと前から、情動の脳は存在しているということになるのです。ところが、原始哺乳類の登場とともに、情動を支配する脳に大きな進化が起こります。この脳によって脳は独自の感情機能を持つようになるのです。そして、この脳の部分は、進化につれて「学習」「記憶」の能力を向上させていきます。学習と記憶という二つの能力が革命的に発達したおかげで、哺乳類は生死を分ける場面で適切な選択ができ、対応に工夫することができるようになります。大脳辺縁系には扁桃核と呼ばれる領域があり、その重要性は1980年代にジョセフ・ルドゥーが指摘しているそうですが、脳は視覚やその他からのインプットに対する情動的で生存に直結する反応を扁桃核に記憶します。扁桃核は状況によっては脳を「ハイジャックする」ことができるようで、考える間もなく人の反応を文字通り乗っ取り、ある状況に対する即時対応を引き起こします。この扁桃核は時として、合理的思考や熟慮の上での反応能力を征服するような衝動行為の引き金となることがあるのです。

 そして、いまから1億年前、哺乳類の脳は一気に大きく成長します。計画し、近くしたことを理解し、身体の運動を調節する働きを担っていた皮質の上に何層もの脳細胞が付け加わって、大脳新皮質ができたのです。以前のブログで「ヒトの脳の大脳皮質が極度に発達しているのは社会集団の中で生き抜く社会性を身につけるためだった」と書いたのですが、私たちホモ・サピエンスは、他のどんな動物よりもはるかに大脳新皮質が大きく発達しています。人間の人間らしさは、この大脳新皮質に由来しているそうです。

 感覚器官を通じて得た情報を、人減の脳はここで総合し理解します。また、自分が抱いている感情について考えることができ、思考や芸術や記号や空想に対して様々な感情を抱くのも、この大脳新皮質が備わっているからなのです。そして、私からすると人間にとって最も重要な働きともいえる母子間の愛情をはぐくむこともできるようになったのです。親子の愛情は、家族生活の基盤であり、長い時間をかけて子どもを一人前の人間に育てていくために必要な感情です。反面、爬虫類のように、この大脳新皮質を持たない動物には、母性愛はないのだそうです。

 では、どうして人間は時として理性を失い、思考を停止させ、情動に任せて行動をしてしまうことがあるのでしょうか。また、母子間のあいだでも、子どもに愛情を感じないことがあるのはなぜでしょうか。ここに、IQからEQの必要性が出てくるようです。

脳の進化” への6件のコメント

  1. 大乗仏教の経論の中に、『九識論』といわれる法門があります。

    人の意識は氷山のようなものである。人が自覚できる顕在意識はほんの一部であって、そのほとんどは水面下にある潜在意識だというのです。しかも人はその潜在意識に支配されており、なかなか意のままにならない人生を歩んでいるというのがその教えです。

    九識論は意識を九つの層に設定し、それを次のように設定します。耳識・鼻識・舌識・眼識・触識、いわゆる五感をまとめて「五識」。その情報を統括するのが六識目の「意識」。以上ここまでが顕在意識となります。脳科学で言う「大脳新皮質」の働きにあたります。

    ここから下は、まず無意識層にあたる七識目の「末那識」。これは本能に支配された我欲の渦巻く心の世界であり、自己保存を司る層だとも言われています。大脳辺縁系に宿る無意識の世界です。ここまではフロイトの学説で証明できますが、そこから先の潜在意識である「阿頼耶識」(八識)は、ユングのいう「集合無意識」の概念で説明がつきますが、仏の叡智はそのまだ奥に、大宇宙の生命につながる「根本浄識」(九識)があることを覚知しています。

  2. 脳の詳しい話になるとやはり難しくなりますね。まだ全然詳しい話ではないのかもしれませんが、これだけでも難解に感じてしまいます。情動を支配する部分があって、思考する脳が発達していき、そして社会性を身につけるためにも必要な大脳新皮質が発達してくるという流れから、人はどんな生き物として発達してきたかをきちんと捉えるというのはよくわかります。分かっているつもりです。でも、こうしたところから子どものことを考えようとするのは、必要であるのはわかりますが、なかなか頭がスムーズに馴染んでくれません。世の中で起きている問題も大きく関係していることだと思うので学んでおくべきことだとは思うのですが…。やっかいな問題です。だからこそこうして視点を変えるヒントをもらえるこのブログは大事な存在なんですけどね。

  3.  今日のブログで脳の進化について整理することができました。爬虫類から哺乳類への進化の過程で、脳も進化してきたのですね。確かに卵で出産する爬虫類に比べて、母乳を与え子育てする哺乳類では、母子間や社会との関係を維持できる感情が必要になると思います。その分大脳の発達があったのでしょう。
     ここ数年でも保育園で子どもに愛情が持てないと悩んでいる保護者の相談が数件ありました。なぜそのように感じてしまうのでしょうか?先生のブログの続きが楽しみです。

  4. 内容がより難解になってきました。ただ、言えることは人間は社会を形成することができるからこそ、こういった脳に進化してきたということですね。以前のブログからもそのことについて述べられることが多かったですが、人間の脳が大きくなる要因や進化の過程がより鮮明にわかり、今回のブログでは整理されているように感じます。その中で、「母子」といった関係や人との関係はこの大脳新皮質にその要因があったんですね。よく、人との関わり方やコミュニケーションの少なさがニュースで取り上げられ、課題になることがありますが、脳の育ちなども今の人と昔の人とはその発達は違ってきているのかもしれません。現在の社会状況も踏まえ、その部分をどう育てるか、どう見ていくか、より考えを深めていくことが必要ですね。

  5.  脳の内容はやはり難しいですね・・・ただ、まず感じたことは、脳も長い年月をかけて進化しています。特に人間らしさを司る部分の大脳新皮質の存在は今も私達、人間にとって重要な役割を果たしています。そして家族関係、親子の愛着関係など、社会の中で生きていくうえで必要な感情などを理解できるようになっていますが、しかしながら社会性が欠けている人が多く、実際にひきこもりが増えているのは、何かしら原因がありそうですが、もしかしたら脳がかなり関係しているのかもしれませんね。

  6. 何百万年に及ぶ私たち人間の脳の発達過程、すなわち、その原初的部分は生命保持機能、そして情動を司る機能、さらにその機能が進化して、「記憶」「学習」部分が作られ、やがて「社会集団の中で生き抜く社会性」を司る大脳新皮質の発生、を知ると、私たち「人間の人間らしさ」が一体何かがわかります。私たちの脳は、何百万年という長い時を経て形成され、そして今なお何らかの方向、すなわち新たな機能を司る分野、の形成に向けて進化しているのではないかと思われます。とはいえ、アリストテレス以来言われてきた「人間は社会的存在」であるという事実は現段階では真であり、社会性の獲得を抜きにして我々の存在はあり得ないということになります。そして、教育はこの大脳新皮質の機能を十全に働かせるための役割を基本的に担っていると言って過言ではないはずです。そしてこの大脳新皮質が「母性愛」とも深くつながっているという指摘は同時に教育の意味の深遠に我々を誘うのです。

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