水平方向

ほかの業界でも成功した実践例は、次世代における価値観や、今後のニーズは何かという点で参考になります。それは、新しい商品開発には、顧客満足だけでなく、顧客の周りにいる人たち、潜在顧客の興味も引き付けるような製品を作らないといけないわけで、そのためには、設計段階でどのような頭の使い方をすればいいのかを考える必要があるからです。その点で、ミネラルウォーター業界でヒット商品である「いろはす」は、どんな戦力を用いたのでしょうか。

NPOテーブル・フォー・ツー代表の小暮真久氏は、「“水平のインパクト”という新しい頭の使い方」をしていると言います。それはどんなことかというと、小暮氏は、「まず、“いろはす”を手にとって、まず気づくのはボトルが薄いことです。今でこそ同じような薄さのボトルは増えてきましたが、初めて手に取った時は、『ん?何だこれ、柔らかいな』と多くの方が感じたのではないでしょうか。使用する樹脂を減らして環境負荷を下げるというのが薄さの理由ですが、言い換えると製品づくりの段階で作り手が顧客ののどを潤すというだけでなく、コミュニティのゴミ問題についても配慮しているということを表しています。」というように、環境に配慮している商品は、なんだか良心的なものに思えます。ということは、中身は確かなものだと思うのです。今の時代、地球を汚染し、添加物や合成着色料の多量な使用には、敏感です。その行為だけで、初めて出会う商品は、なんだか信用がありません。それを、手に持った瞬間伝えているのが“いろはす”だというのです。

 さらに、こう小暮氏は指摘します。「僕のように『このボトル、面白いな』と思うと友達に言わずにはいられない、という顧客もいるでしょう。そうするとそれを聞いた人が興味を持ち、顧客に転じるかもしれません。これは今ではバズマーケティングなどと呼ばれる類の手法ですが、こうしたことまで考えながら製品の設計をしていたかもしれない。」このことが、直接、顧客を満足させるだけでなく、顧客を中心としてその周りの潜在顧客、さらにその周りの一般社会にインパクトを与えているのです。小暮氏は、「顧客を中心として波紋を広げるような、水平方向に広がるインパクトです。」

 この「水平方向に広がる」という言葉は、OECDが、現在の保育について指摘している言葉に似ています。それは、「子ども同士のやりとりや子どもたち自身の発見、意味作りを奨励する水平方向の動力にはさほど関心が向けられていない。」という言葉で、大人と子どもの関係である縦の関係、縦の動力で幼児教育をしてきたことを指摘し、今後は、子ども同士という横に広げていくことが必要であるというのです。なんだか、「水平方向に広がるインパクト」というのに発想が似ています。提供者と顧客という縦の関係だけでものを開発してしまうと、ヒットにつながらないというのです。水平方向の思考は、潜在ニーズを掘り起こし、新たな顧客への広がりを生むということを言いたいのでしょう。

しかし、小暮氏は、もうひとつの指標である「垂直のインパクト」も必要だと言います。それは、縦の関係でなく、垂直方向である時間的経過を考えることだというのです。それは、地球環境の保全という視点から製品の開発を行っているならば、その製品が生むインパクトは当然のことながら現在の顧客の世代で終わってしまっていいものではなく、できるだけ長い間、インパクトを持続させることが必要になってくると小暮氏は言います。今いる顧客の子の代、孫の代までも愛され、飲まれ続けるような製品づくりを考える、ということが垂直のインパクトにつながっていくことにほかならないと言います。

「持続可能な開発」が必要であるということなのでしょう。