百日楽しむ紅

 まだまだ猛暑が続きます。いつまで続くのかとうんざりしますが、朝夕の風はずいぶんと涼しくなりました。蝉の鳴き声も、何となく変わってきている気がします。日本では、季節の変わり目を、五感を使っていろいろなことから感じることができます。先日の地方紙に「百日楽しめる紅色」ということでこんな記事が掲載されていました。「富山市婦中町上轡田の県中央植物園で、サルスベリが咲き誇っている。サルスベリは、ミソハギ科の落葉高木。花が長期間咲くことから“百日紅(ひゃくじつこう)”とも言われる。かれんなピンクの花が、来園者の目を楽しませている。」とあります。

 この記事にあるように、夏の初めから未だにその鮮やかな花が咲き誇っています。淡い
ピンクとか、白い花もありますが、先日、私は鮮やかな赤い花を見て、その鮮やかさに思わず写真を撮ってしまいました。それにしても、この花は、その名の「百日紅」という通り、約100日間、紅色の花を咲かせるというように、約3か月間、夏から秋まで楽しませてくれます。しかし長い間ずっと花が咲いていると言っても、枯れないで咲き続けているはずはもちろんありません。 実際には、一度咲いた枝先から再度芽が出てきて花をつけるため、咲き続けているように見えるのです。

 中国から日本へ伝来したのは、はっきりしませんが、江戸時代であるとか、江戸時代以前であるとか、1708年に「大和本草」に記載があるのでそれ以前だとも言われています。時代がよくわからないということは、そのようにして、だれが持ってきたのかもわからないようです。日本では、昔から盆花としてよく使われ、ショウリョウバナ(精霊花)とも呼ばれているミソハギという花があります。この花の日本名のミソハギとは、ハギに似て禊(みそぎ)に使ったことから「禊萩」という名前が付いたのですが、百日紅は、この花と同じ禊萩科です。

 また、「百日紅」と書いて「さるすべり」と読むことがあります。この花は、次から次へと花を咲かせ、百日にもわたってどこかに花を咲かせているので、原産地の中国では「百日紅」と呼び、日本では、その幹がつるつるしているので、木登りの上手な猿でさえ登れないということで「さるすべり」と呼んだのです。同じ木を見て、花が長く咲くところを中国では見て、日本では幹がつるつるしているところを見て「さるすべり」と名付けたのですが、なんだか日本のほうが遊び心を感じますね。

 また、百日紅と書いて「さるすべり」と読むのは、漢字と読み方がまるで対応していません。漢字という字は、もともと意味を表わしている「表意文字」です。そして、その漢字の読み方は、中国での読み方を基にした、「音読み」と言われる読み方です。日本では、もう一つ、その漢字を和語で読むことをしました。これが「訓読み」です。その時に、漢字の意味を汲んで日本語で読もうとするのですから、難しい漢字も多く、さまざまな読み方を当てました。また、一つの漢字に対して、いくつもの訓読みが生まれることになっていくのです。この百日紅を「さるすべり」と読むように、二文字以上になって読み方が確定する訓読みを「熟字訓」といいます。この熟字訓の例は、「田舎」「土産」「海老」などたくさんあります。

 しかし、このように二字以上で一つの読み方は、以外にも英語からきていると言われています。アルファベットを用いる言語ではthやeaのように二字以上で一つの音(音素)を示すことが多く、戦後のアメリカ占領期の日本の学校では、アメリカで行われている指導法をそのまま日本に適用しようとして、たとえば「いわし」を一字一字読むのではなく、全体として「いわし」と読めというような指導が行われていたようです。

 どちらにしても、子どものころは悩ましい漢字ですが、意味があって、そのものを瞬時で理解するのには、漢字は素晴らしいと思います。