愛着障害の原因

岡田尊司氏は、「愛着障害」という本の中で、ボウルビィによって提起された「愛着」という概念が、時代によって変わってきたことを指摘しています。それは、実の親のもとで育てられている子どもでも、当初考えられていたよりも高い比率で、愛着の問題が認められることがわかったことでした。愛着障害とは言わないまでも、実の親のもとで育てられた3分の1の子どもたちが、不安定型の愛着を示したのです。さらに成人でも、3分の1くらいの人が不安定型の愛着スタイルを持ち、対人関係において困難を感じやすかったり、不安やうつなどの精神的な問題を抱えやすくなるのです。

 この本の2章「愛着障害が生まれる要因と背景」になると、岡田氏は、少子化の影響を感じているようです。「日本がまだ貧しかったころに比べて、いま一人ひとりの子どもに分け与えられる愛情や資源は、桁違いに増えているはずだ。不幸な境遇に生まれても、それなりの支援が受けられる仕組みも整えられている。また医療、福祉、教育といった分野には、何十倍もの資金が投入されている。ところが現実をみると、愛着の抱えている子どもだけでなく、大人までが、この社会にあふれているという事実は、なにを意味しているのだろうか。」

 彼は、この章で有名な作家や政治家の生育を検証していますが、最後には、このような疑問を投げかけています。「愛着や愛着障害について主として論じられてきたのは、母親との間の問題であった。実際、母親の不在や機能不全は、愛着障害のもっとも大きなリスク要因となり、その後の愛着スタイルだけでなく、発達全般に影響を及ぼしやすい。」岡田氏は、このような環境の若者に多く接しているでしょうが、私だ接している若者や子どもたちの多くはいわゆる普通の家庭で育っている子たちです。その子どもたちの中に問題を感じるのは、岡田氏が次に言っている事例が多いのです。「母親との愛着が安定しているにもかかわらず、その後、不安定な愛着スタイルを示すようになる場合もある。その理由は単純だ。その子にとって親は一人ではないし、その子に関わり、見守る人間はもっとたくさんいるということである。」

 ここで、まず、愛着研究ではあまり研究されてこず、ほとんど論じることのなかった父親との愛着について述べています。これは、かつて紹介した「愛着からソーシャルネットワーク論」という本の中でも取り上げられていましたが、今までの乳幼児における研究は、母子関係が中心で、父子の関係、祖父母との関係、きょうだい間の関係などが研究されてこなかったということが書かれてあります。ここでも感じることですが、私たちが園で一番、目にし、観察する子ども同士の関わりはまったく論じられていません。最近分かったことですが、子ども同士の研究は、意味がないわけでも、興味がないわけでもなく、研究者にとっては非常に困難だということです。

 愛着についての父親の研究が始まると、愛着の構築は母親だけではないこと、夫婦間の関係も影響することなどがわかってきます。また、両親以外でも、祖父母や兄弟、身近で親しんでいた遊び友達や親せき、教師との関係も関わってくることがわかってきます。そして、中学、高校、大学、就職と周囲の環境によって変化し、最も大きな変化が、恋愛や結婚だと言います。

 愛着パターンを決めるのは、このような周囲の影響だけでなく、生まれ持った気質によっても一部影響されるのではないかということも指摘されているようです。どうも、母子の関係だけに責任を押し付けることでは、愛着障害の問題は解決しないようです。