ミラーニューロンの発見11

 赤ちゃんは、生まれて初めて接する他人はもちろん母親です。しかし、ホモサピエンスとしての宿命として、社会を営むために脳を大きくする必要があり、そのために直立で立つことをし、そのために産道が小さく、楕円になり、非常に難産になります。しかも、出産には人の手が必要になります。ということは、私は、赤ちゃんにとって初めて出会う大人は、もしかしたら赤ちゃんを取り上げる人ではないかと思うのです。それが、かつてはお産婆さんと呼ばれる多くは、年配の女性でした。そして、お産婆さんが赤ちゃんを散りあげた後、産湯につけ、よく拭き取り、抱っこしてお母さんの胸に渡します。最近では、「カンガルーケア」というやり方をする産科もあります。「カンガルーケア」というのは、出産後すぐにお母さんの裸のお腹の上や胸の上に乗せて赤ちゃんとママの肌が直接触れ合うよう抱っこします。それによって、赤ちゃんの呼吸を整えたり、感染症を減少させるといわれています。

カンガルーケアの場合は、赤ちゃんにとって初めて接する他人はお母さんということになりますが、多くは、お産婆さんでした。そのお産婆さんも、出産が医療化されて、医師が取り出し、看護師さんがその後抱き上げ、お母さんに渡すことが多くなりました。少し前のブログで書きましたが、赤ちゃんは生後41分後で、ごく簡単な手振りや顔の表情を本能的に模倣することが分かったのは、1970年代のことです。新生児の脳にはこうした初歩的な模倣行動をやらせることのできる生まれつきのメカニズムが存在しているに違いないと思われているのです。それまでの、赤ちゃんは生後2年目から模倣を学習するようになるとの見方が支配的だったために、この実証は革命的なものでした。このことが、どうも、お産婆さんという多くは年配の女性に取り上げられ、抱かれることから、若い女性である看護師さんに抱かれることへの変化は、赤ちゃんに影響している気がしています。それは、妻の話によると、最近生まれた孫を見ても、友達の孫の話を聞いても、どうも最近の赤ちゃんは、若い女性を好むようだというのです。以前は、年配の女性に抱かれると落ち着いていたのが、最近は変わってきたみたいだということを聞きました。それを聞いて、私は、もしかしたら、この早い時期の模倣する能力と、病院出産が増えたこととが影響している気がします。

そうはいっても、やはり赤ちゃんに影響するのは、当然母親です。基本的に、退院してきた後は、ほとんど母親に抱かれるからです。ですから、他人の感情の状態を理解して共感するうえで、ミラーリングが強力なメカニズムであるとしたら、母子の間で多く行われているのです。こんなことがわかっています。赤ちゃんは、生後10週で、母親の示す幸せな表情や怒った表情の基本的な特徴を自然と模倣すると言われています。そして、生後9か月の幼児は、喜びと悲しみの表情をそっくりそのまま再現するのです。そしてもちろん、母親のほうも自分の赤ちゃんの表情を模倣します。このやり取りから、母親は赤ちゃんと感情の同調をしていき、幼児の内面の状態をミラーリングする能力を兼ね備えていきます。その時の、母親におけるミラーニューロンの役割はまだはっきりと解明されていませんが、この決定的な機能にとってミラーニューロンが重要であることは推測されています。

ここで、私の最近の課題は、では、この模倣は子ども同士、赤ちゃん同士ではいつごろから、どんなことを模倣し始めるのかということです。園では、生後6か月になると、相手の表情をじっと見つめ、同じような表情になることがあり、また、これは模倣かどうかわかりませんが、一人の子が泣くと、それにつられて泣き出すことがかなり小さいうちから行われ、しかも、それによってかかわりを学習しているような気がするのです。ここにも、ミラーニューロンが重要な役目をしているように感じます。