乳児の自発性

 赤ちゃんは、いろいろな言葉でいろいろなことを教えてくれません。また、いろいろな言葉で反応を表現してくれません。いろいろな調査をするときに、その反応を言葉によって聞き取るとしたら、赤ちゃんでは反応を調査することはできません。ですから、赤ちゃんは何を思っているのか、何を考えているのかよく分かりません。笑った顔をしていることはわかりますが、何について笑っているのか、それは推測することしかできません。もしかしたら、笑っているのではなく、筋肉が自分の意思に関係なく動いて笑っているように見えるだけともいわれています。
そんなわけで、研究できるのは、自分で意思を表明できる4歳ころからですので、それは、同時にできるようになる年齢であるということになってしまうのです。ということで、とくに「心の理論」を使っているかどうかは、最近まで4歳以前の乳幼児についてはわかっていませんでした。しかし、最近の乳児研究から、言語教示や言語反応を用いず、乳児の自発的な行動反応を指標とするような課題を用いることにより、定型発達児は早ければ1歳代、遅くとも2歳ころまでには、心の理論を使っているのではないかと思われています。このあたりの状況を千住さんは紹介しています。このことは、乳幼児の社会的認知は、大人から質問に答える、といった課題場面ではなく、彼らが自発的に社会的な情報を処理するような文脈で、最もよく発揮される可能性を示していることになるそうです。
また、「相手が何をしているのか」という目的を理解する認知能力の発達についても、乳児はヒトなどの「他者」の動きを目的論の枠組みで予測し、理解していることが、注視時間法などを使った乳児実験から明らかになっているそうです。
そして、乳児が、他者の動きをあたかも自分の動きのように知覚することにより、自分の運動を理解・予測するメカニズムを使って他者の行動を理解することができるという「シミュレーション説」問いのがありますが、実際に、乳児は他者の動きを見たとき、それが自分にできる行動の場合は、自分にできない行動である場合よりも目的理解がよくできるという知見があるそうで、これは、シミュレーションしているということになるようです。ただ、それは、ミラーニューロンが乳児の脳内でどのような動きをしているかはまだわかっていないようです。
そのほかにも視線追従行動など、相手の心を読むために重要な手掛かりである機能は、赤ちゃんの早い時期からできることもわかっています。つまり、赤ちゃんは、何もできない無力な存在として生まれてくるのではなく、自発的に社会的な行動を取り、大人とコミュニケーションを図ったり、その中で様々なことを学習したりする、自発的な学習者、積極的な社会的パートナーである、ということのようです。
乳児においての「自発性」とはどのような行動をさすのかということは難しいようですが、とりあえず千住さんは、「教示に基づいた反応ではなく、環境に応じて自然と駆動される認知・行動の様式」と定義しています。定義するとなると難しい言葉になりますが、すなわち、やらされたり、指示されて行動を起こすことがない乳児においては、ある環境に置かれたときにとる行動は自然と行われるものであり、自発的なものであるのです。また、そういう意味においては、乳児における行動は、受動的ではなく、非常に能動的だということもいわれています。研究が進むにつれ、今までの赤ちゃんに持っていた認識はずいぶんと変わってきます。