成長の喜び

 先日、今年の1月に我が子が生まれた息子から面白いことを聞きました。我が子の成長を毎日見ていると、驚くことが多いといいます。保育に関係ない仕事をしている息子にしてみれば、初めて赤ちゃんを毎日眺めているので、そういう感想を持つのは当然です。あるとき、赤ちゃんが自分の手で足をつかむのを見て、すごいと思ったそうです。そんな息子が、赤ちゃんとは、どんなことをするのかということを知りたくて、育児雑誌を買ってみたそうです。すると、そこに「赤ちゃんは、4か月を過ぎるころから、手で自分の足をつかむようになる」と書かれてあるのを見て、がっかりしたそうです。我が子のしぐさが、別に天才とかは思わないのですが、このころは誰でもするということが書かれてあると、なぜかがっかりしたというのです。しかも、次には何々するとか、何か月になるとこんなことをするようになるというようなことが書かれてあり、なんだか、未来までわかってしまうようなつまらない感覚を覚えたそうです。そして、「もう、絶対、育児雑誌なんか買わない!」と怒っていました。

 なんだか、その気持ちはわかるような気がします。人の成長を見るのは、驚きがあり、とてもうれしいことであり、次への期待感が生まれます。特に我が子に対してはその気持ちは強いでしょう。しかし、育児雑誌などで、その成長過程を読むと、成長そのものの驚きや喜びよりも、そこに書かれてある平均値と我が子を比較して、我が子のほうが進んでいるという喜びになってしまいます。また、そこよりも遅れていると心配になり、我が子を伸ばそうと必死になってしまいます。

 私たちが保育の指針として根拠とする「保育所保育指針」には発達過程が書かれてあります。そこには、「おおむね生後何カ月には、こんなことができるようになる」ということが書かれてあります。保育者の専門性として、子どもたちの発達過程を理解しておくことと言われることがあります。しかし、それを覚えておくことにはどのような意味があるのでしょうか。子どもの成長は、目標ではなく、課題ではなく、喜びであるような保育を展開する必要があります。また、他の子との比較をするのではなく、その子の成長を喜ぶことが必要です。保育、育児の楽しさは、子どもたちの成長する過程を知識として知ることではなく、その過程を見ることができること、そして、それに関わることができる喜びです。

 このような子ども成長を保護者とも共有して喜ぶことができるようにするためにいろいろな方法があります。その一つが行事を通して保護者に伝えるということがあります。そこが、小学校における行事と大きな違いがあると思っています。小学校における行事では、普段の教育の成果を見せます。私が、教員の時に、2年生の担任を最後に、教員をやめることになった最後の授業で、保護者を招待をして「お別れ会」をしたことがありました。その会自体は、保護者が言いだしたのですが、内容は子どもたちと話し合って決めました。まず、出し物のプログラムは、時間割にしました。1時間目、算数。ここでは、子どもたちが交代で掛け算九九を暗唱しました。2時間目、国語では、1年間の国語の教科書の中で子どもたちが一番好きな単元が「片足ダチョウのエルフ」だったので、その紙芝居をみんなで作りました。そして、読み手は、交代で、国語の教科書のその部分を音読したのです。この行事を通して、私は、1年間の子どもの学びの成果を紹介したのです。

 しかし、乳幼児教育では、少し違うのではないでしょうか。それが、「教科」と「領域」の違いなのです。

父親保育3

 職場では、さまざまな問題が起きます。問題を解決しようとするときは、まず、リーダーが判断してその対応を考えます。また、リーダーと呼ばれる人たちで、話し合ってその解決策を考えます。しかし、多くの場合は、目の前で問題が生じたとき、その場に居合わせた人とか、その担当者が瞬時に判断して対応しなければならないようなことがあります。その時には、あわてないようにマニュアルを作成しておきます。園などでは、子どもが怪我をした時、地震が起きたときなどは、そこに居合わせた人が、その場で判断し、マニュアルに沿って行動します。

 しかし、人間というものは、また、自然というものは、そう型どおりにいくものではありません。また、マニュアルがあると言っても、その中で大切なことは、リーダーが決めたり、そこに書かれていない内容は、どうしてもリーダーが判断することになります。雨が降りそうな時に遠足を決行するか?途中で雨が降ってきたら、どうするのか?判断を迫れた時、迷うことが多くあります。そんなときに、営利目的の組織であればまだ判断基準がはっきりとしていますが、保育園などの非営利組織では、さまざまな思いが頭をよぎります。

 このようなときに、まず私は、当たり前のことですが、「子どものためにはどうすればいいのか?」「子どもは何を望んでいるのか?」ということに立ち返って考えることにしています。このときに迷うのが、子どもの代弁者であるはずの保護者の思いと、子どもの思いが矛盾する時の判断です。その時には、園の理念に立ち返ります。「園は子どもたちに何がしたいのか?」「園の使命は何なのか?」ということを考えます。

 父親保育において、園長代理は、そのような園長としての役割を経験します。よほどのことでなければ、私は特に口出しはしません。各クラスの担任役の父親から出された日案をチェックし、助言します。これは、逆のこともあります。園長代理の父親の全体コンセプトに対して他の父親が、自分の担当するクラスからの意見を言います。このやりとりはメールで行うのですが、私たちはとても参考になります。

 昨日のブログで書いた、父親保育が終わってからの懇親会への母親と子どもの参加希望に対して、園長代理はこう判断します。

 「デリケートなお問い合わせですね。こういった場合伊勢丹お客様相談室(質問した父親は伊勢丹勤務)ではどの様なお答えするのでしょうか(笑)「念のため確認」とのことですので、「連れてきたいという要望」ではないと受取って、あまり深読みせず企画の趣旨と意図をご説明して「例年(昨年からですが)子供&妻の参加は基本なしで企画しています」とお答えで良いかと思います。それ以上は、ご自身で判断して頂ければ良いのではないでしょうか。命には代え難い問題かも知れませんので、、。父親保育は土曜日を利用して、普段とは違った視点で子供達と大人が交流する機会として企画しています。子供達にとっては、ご両親と先生以外の大人と交流する機会になり。お父さん方にとっても、自分の子供と違う年齢の子供達と交流する貴重な機会になると思います。保育園にとっては、普段と違った視点の企画はお父さん方の道場破り!の様で何かの参考になるかも知れません。その一日の交流は、かつての「地域で子供を育てること」の部分的な再現でもあります。ここであえて、父親に限定しているのがこの企画のミソです。そんなせいが保育園内の「父親保育の一日」は、一部を除いて女性職員も立ち入れない禁断の一日!?になります。懇親会はその父親保育の一日の打上であり、父親同士と男性の先生方の交流の機会と考えています。ですので、参加者のご家族であっても子供&妻にはお声はかけていません。そうした意図で会場選びをしています。スタンディングのバールの大人のスタイルで、グラス片手に、お父さん方と男性の先生方が当日の疲れをねぎらい合い、更に交流を深める場になればと考えています。立食スタイルですので昨年の様なお座敷はありませんし、イスもありません。どれだけ男臭くなれるかは定かではありませんが、昨年より臭い夜になることは確実です。お子様とお母さんがいらっしゃるには、いささか男臭すぎて辛いかも知れません(笑)こんな企画になります。回答のご参考にして頂ければと思います。園長代理」

 もう、立派な園長ですね。

父親保育2

 父親保育での計画は、父親たちの発想と、広い視野からと、遊び心など男性ならではのもので感心することも多いのですが、我が子のいない年齢を担当すると、どんなことをすればいいのかに迷うことがあります。父親保育のいいところは、普段、あまり会話をしない父親同士で相談しあうところがあります。ある年、こんなメールのやり取りがありました。「2歳児担当皆様 自己紹介がおわらないうちに、日案(当日10時?11時の僕ら企画の遊び?保育?)のスケジュールの締め切りが過ぎてしまいました。「14日前で締め切りですよー決まりましたかー?」と本日園長代理に聞かれ、「えっそうなんですか?」と絶句してしまいました。すいません、出来ないリーダーで… で、どうしましょう?何か案ありますかね?去年は新聞紙をくさるほど用意してもらってびりびりのビッリビリに破って頭からかぶったり泳いだりして遊びました。今の2歳児さんが1歳児の時の話です。一年に一回でOKであれば、恒例行事にしてしまう手もありますね。たしか去年の2歳児さんは散歩に行ったような気がします。みなさんも、送り迎いの時などに先生を捕まえて、ヒントをもらっていただき、又、教えて下さい。」

 これに、園長代理のお父さんが答えています。「日案は、外に行かれるのでしたら雨天の場合を考えて室内活動と両方想定された方が良いですね。「2歳児」はどんな年齢なのか??でしたら、新宿せいがのサイトが参考になるかも知れません。「園の特徴」「保育の方法」ページが参考になるかも知れません。お時間つくって覗いてみて下さい。(HPアドレス提示)まずは相談をはじめることが大事ですので、運動会当日までにリーダーを中心にMLでよく相談されて、当日に2歳児クラスと担当の先生方が集合して最終決定でも大丈夫そうです。でもこれで安心しないで下さいね。では引き続き宜しくお願いします。」
 園長代理の保育に迷った時の助言では、もう一度「園の特徴」、「保育の方法」を確認するといいと言っています。これらは、園の「保育課程」に書かれてある内容です。保育課程の作成が義務付けられたとき、その実態がはっきりせず、何かのモデルを見てそれをそのまま真似て作っていたら、職員が、保育に迷った時に戻って確認するものにはなっていないのです。また、その保育課程を保護者が見て、園ではこのような保育をしているのだということがわかるものでなければなりません。父親たちは、普段から、園の保育課程を見ているようですし、そこから園の理念を理解しているようです。

 この父親保育の後、父親たちと、男性職員(もちろん、私も参加します)と慰労会を催します。普段は、子どもを置いて父親だけで飲みに行くのは私はあまり認めていません。保護者同士が知り合うのは、子どもを通しての関係ですので、その子どもを犠牲にして親だけで楽しむのはおかしいと思っているからです。よく、園に「父親の会」があるところがあり、それは別名「飲み会」というほど、飲むことで気を許し合うといいますが、私は、飲むことで仲良くなるというのは日本の悪習で、1日の活動をお疲れさまということで飲むべきで、しかも、その1日子どもとずっと過ごした場合に限るということにしていますので、この父親保育の日の夜だけ父親だけで慰労会をすることを許しているのです。

 この慰労会について「園長代理!打ち上げに妻と子供を連れてきて良いか?との問い合わせがあります。“妻は血の気が多いので…”などと脅迫込みです(笑)どうでしょう?」というメールが入りました。この答えは、この行事をよく理解していなければ答えることはできません。園長代理は、どうこたえるのでしょうか?

父親保育

 行事の前には、まず、きちんとその行事の趣旨を保護者に説明します。それは、園便りであったり、事前説明会であったりします。父親保育を行うにあたり、まず、参加者を募集するためにお便りを出します。たとえば、担当職員から出されたお便りです。

「“父親保育”に参加するお父さん大募集!のお知らせ 今年の○月○日(土)に“父親保育”を行ないます。父親保育とは、保育園の保育士の代わりに、お父さん方に一日保育士になっていただき、保育をしてもらおうというものです。保育園には、日ごろご家庭では見られない、子どもたちの世界があります。また、子どもたちはお父さんが大好きです。父親保育の日は、そんな子どもたちに“こんな遊びを教えてあげたい”“あんな保育をしてみたい”といったアイデアや思いを実現していただく場です。また、“保育園をもっと知りたい”“保育園は、いったいなにをしているところなんだろう?”というお父さんも大歓迎です。さらに父親保育は、保育園に関する情報公開の場でもあります。“保育園はどんな運営をしているのか?”“保育園の仕組みを知りたい”など、参加することによってご理解いただきたいと思います。参加していただいたお父さんは、園児みんなのお父さんとして“父親保育”を行ない、子どもたちは“お父さんの保育”を体験できる貴重な日となります。」

 この日の趣旨は、父親だけでなく、当日保育に参加する園児の保護者にも説明が大切です。それは、この父親保育を土曜日に行うのですが、普段の土曜日は登園する園児が非常に少ないため、趣旨を説明して、子どもたちの体験のためになるべく多くの園児に登園してもらうことが必要だからです。

 参加する父親がほぼそろったところで、その年度の園長代理のお父さんを決めます。園長代理は、その日1日の方針を決め、園児と参加する父親の人数を見て、各クラス担任と、勤務時間帯を決めていきます。このようなことは、基本的には今の父親たちは得意です。パソコンを使って、きちんと配置を決めていきます。私の園で初めて実施する時に、すでに実施しているもう一つの園の父親から、その決め方の助言が届きました。また、普段は帰りが遅く、なかなか話し合いができない父親たちですから、基本的にはすべてメールでのやり取りです。その試行錯誤しながらのやりとりを見ていると、園の方針がしっかりしていて、それが保護者にきちんと伝わっていると、最終的にはきちんとした保育計画になっていきます。また、日案では、その年の担任になって父親の個性が出ていて、とてもおもしろい保育になっていますので、保育士でも随分と参考になることがあります。

 ある時の0歳児クラスの日案では、設定時間内の「屋外遊び」の目標が「季節や自然を五感で楽しむ。」ということで、自然遊び1:樹の枝に乗って木肌の感触を楽しむ。(しっかり支える)自然遊び2:花や葉(ハーブ等)探しながら色や臭いを楽しむ。で、「室内遊び」の目標が「身体や身近なモノを使って五感で遊ぶ。」ということで、身体遊び1(ごろごろ遊び):床でごろごろ転がって遊ぶ。身体遊び2(抱っこ肩車遊び):抱っこや肩車をしていろんなものを探しに行く。身体遊び3(顔遊び):髪の毛、耳、鼻いろいろな部分を引っ張ったりして遊ぶ。体験遊び1(新聞遊び):新聞紙に穴を開けて指を出したり、覗いたりして遊ぶ。体験遊び(ビニール遊び):黒いゴミ袋に穴を開けて、出たり入ったりして遊ぶ。体験遊び(タオル遊び):大きめのタオルに子どもを入れて、ハンモックの様に揺らして遊ぶ。体験遊び(タオル遊び):大きめのタオルに子どもを乗せて引っ張り回す。体験遊び(トレペ遊び):ひたすら紙をどんどん出して遊ぶ。

 0歳児を担当した父親たちの計画はすごいですね。1日だけということもあるのですが、いろいろと計画します。しかし、きちんとケアをするところも抑えています。たとえば、朝登園してから「子どもを見守りながら、一緒に遊ぶ。」とありますし、お昼寝でも「こどもに合わせて昼寝サポート1歳児未満の子は15分おきに睡眠チェック表をつける」とあります。父親でも随分と保育を理解しているようです。

行事への参加

 行事に地域を巻き込んだり、ボランティアを巻き込むことで企画に幅ができ、また中身も豊富になり、子どもたちの体験が厚くなります。それは、保護者を巻き込むことでも違う意味で厚くなります。行事は、保護者に見せるもの、保護者に向けて発表するものというものが多く、保護者は観客になります。それを、保護者もスタッフの一員として参加してもらうという企画があります。しかし、かつての保護者のスタッフとしての参加は、人手が足りず、手伝ってもらうということが多かったように思います。たとえば、運動会でゴールテープを持ってもらうとか、大道具の出し入れを手伝ってもらうというようなものであったり、事前に花を造ったり、装飾を手伝ってもらったりというように、園の職員の頼むことをやってもらうということでした。

 しかし、それでは行事の幅が広がるということはあまりありません。企画から参加してもらうことも必要です。保護者の参加というと、悩むのは、準備段階で集まる時間帯です。幼稚園であればまだいいのですが、保育園となると遅くまで働いている保護者が多いからです。しかも、子どもにとっての行事であるのに、子どもを放っておいて参加してもらっては本末転倒です。それは、学校でのPTA活動での集まりも、子どもに家で留守番をしてもらって遅くまで活動するようなこともありますが、なんだかそれはおかしいような気がします。

 以前、私の園の夕涼み会で、保護者たちが自分たちも夜店を出したいと申し出たことがありました。その時、私は「園の夕涼み会は、親子で一緒に店をめぐりながら楽しんでもらうという企画なので、参加はありがたいのですが、私としては、店をやるよりはお子さんと一緒に回ってほしいと思っています。」と答えたのですが、保護者は「子どもたちに親も一生懸命働いている姿を見せたいので、お互いに我が子とは、親同士でローテーションを組んで一緒に回りますので、是非やらせて下さい。」と再度頼んできたので、やってもらうことにしました。しかし、反省会の時に、「いざ、店をやると、それに夢中になってしまい、子どもを邪魔扱いして結局放ってしまったことが何度かありました。やはり、ゆっくりと親子で過ごした方がよかったと反省しました。」と言われ、子どもを中心にものを考えたことにうれしくなりました。

 保護者の保育への参加についての問題は、そのねらいです。保護者には、我が子が在園しています。我が子とのふれあいを目的とするのか、人手として期待するのか、また、保護者の知恵を人材として活用するのかということです。前の二つについての保護者活用は多いのですが、最後の広い視野の中からの人材活用という点での保護者参加がないかと試行しています。特に、普段子どもと接することが少ない父親の人材活用が課題でした。そのきっかけとしての行事が「父親保育」です。この日(土曜日)は、園長をはじめとして、各クラスの担任などすべてを父親のみに任せるという日です。この行事の目的はいくつかあります。

 まず、1日父親に園を任せることで、園での1日の生活、職員の仕事を体験することで理解してもらうこと。それは、園長代理も園長体験をします。子どもの人数と、保育士配置基準、保育時間と労働時間、それらを加味してシフト表を作成するところからはじまります。朝番から遅番まですべて父親が担当するわけですから、1日の労働時間を考慮しながらローテンションを組まなければならない体験をします。次に、父親たちが日案を作成しますので、保育士では考え付かないような計画を立てることがあります。次に、普段なかなか接することが少ない、また、母子家庭が増えていることから、父親という存在の体験を共有するということがあります。ですから、担任には、自分の子のいないクラスを受け持ちます。親子のふれあい体験ではないからですし、参加できない父親の個がさびしい思いをしないようにということからです。

 そして、何よりも園の理念、園の保育を体験から理解してもらうということがあります。子どもを見守ることの大切さ、子どもの能力のすばらしさを実感してほしいのです。

遠足8

 今年の遠足は、「地域の歴史を知ろう!」でした。写真を見て、その場所を探して歩くという趣向です。地域の施設にはそれぞれ歴史があります。しかし、地域には目立った歴史と言うだけでなく、生活に密着した歴史があります。それは、道や坂に残っています。まず、私の園の近くは新目白通りが走っています。しかし、園の前の道にはそれほどの名前がありません。と思いきや、鎌倉時代に拓かれた、鎌倉街道のひとつだといわれているのです。しかし、江戸時代には、その中でもこの道を特別に呼んでいたほど非常に有名な道だったそうです。それこそ、その道を歩くことが遠足のルーツかもしれないのです。というのも、江戸時代は「薬師道」と呼ばれ、新井薬師に続いていた道だったようで、この道が山の手を横切るところには踏切があり、図説『駅の歴史』/交通博物館編 掲載の「日本鉄道会社 線路平面及縦断面図 1894年」に書かれてあるそうです。今はトンネルになっていますが、「新井薬師道架道橋」と呼ばれています。ここは、一つのポイントになっています。
 タモリさんは、「坂道学会」なるものを立ち上げたほど坂道が好きで有名ですが、坂道はその形状だけでなく、歴史も感じることができます。最近、町名は市町村合併によって歴史のある名前はなくなってしまいましたが、坂道には残っています。園の玄関前の坂道は、江戸時代には将軍家御鷹場として一般人の立入りを禁止した御禁止山(おとめやま)に続く道ですが、この一帯を明治時代末に相馬家が買い取って屋敷を建て、新井薬師道から相馬邸に向け新たに通された坂道であるため、「相馬坂」と呼ばれています。その隣の坂道は、『豊多摩郡誌』には「七囲り坂」と呼ばれていて、「曲折七ヶ所より成れる坂道にして」と書かれてあります。今は、「七曲坂」と呼ばれているように、曲折七ヶ所あるかと思われるほど左右に曲がりくねっています。この坂の上には今回のポイントがありました。そのほかにも、この辺には久七坂、西坂、霞坂、市郎兵衛坂、見晴坂、六天坂などがあります。
 歴史は、道、坂道だけでなく、園の近くに神田川が流れているので橋にも歴史が刻まれています。神田川と妙正寺川が落ち合うということから落合という地名がついたほど、このあたりは皮と生活が密着しています。江戸時代に浮世絵に残っているほど有名であった「落合蛍」を復活しようと地域の人たちが頑張って養殖し、6月にはほたる祭りが開催され、公園には蛍が飛び交います。その養殖小屋を見せてもらいました。そこも、ポイントの一つです。また、川が落ち合う場所には、大きな一枚岩があり、江戸時代には名所地でそこで酒を酌み交わしたりしたそうです。そんな昔の絵も職員は見つけてきました。
 このように地域を歩くことで「地域を知ろう」という遠足ですが、もうひとつ、体験コーナーで、その年度のテーマからその体験を知るという意図もあります。今年の体験では、「森」がテーマであるということから、「木をかこう」(ブルーノ・ムナーリ著)の本を参考に木をつくります。その本には、「木」の幹が、「まず2本の枝にわかれ、その枝が、また、2本にわかれというルールで木は書ける」という規則を軸に色々な木の特徴が書かれています。そこで、針金4本をねじり、その下の方を分けで値をつくり、上の方を分けて枝をつくり、木をつくります。そして、それを写真立てにして、出発時に家族で撮った写真を取り付けゴールで渡してあげます。
 午後は、親子をいくつかのグループに分け、大きな模造紙に木肌を擦り出しをします。それを園に持ち帰り、上下をいくつかに破り、根と枝をつくりました。こそ作業から、木の規則を知っていきます。その大きな木は、お昼寝の部屋に飾ってあります。
 行事は、普段の保育ではできない体験を子どもたちに与えてくれます。

遠足7

 遠足の話題が続いて申し訳ありませんが、各保育園、幼稚園では行事への取り組みが課題になっています。行事を通して保護者に普段の保育の成果を見てもらうことが多いために、どうしても保護者が感動する行事をしようとしてしまうことが多いからです。そのために、職員だけでなく、子どもにもかなりの負担をかけてしまうことが多く、また、一つの行事が終われば、付議の行事の準備に入り、1年の保育がただ行事に追われるようになってしまっている園も見られます。保護者は、すばらしい保育の成果を見て感動する前に、そこに行くためにどれだけ子どもたちに肉体的にも精神的にも負担をかけているかを考えてもらいたいと思う園もあります。逆に、子どもに負担をかけないようにするために、すべての行事を止めてしまっている園もあります。果たして、行事は保育にとってはいらないものなのでしょうか・

 そんなこともあり、最近出した書籍「食育」に続いて、夏頃には「乳児保育」についての本、それに引き続き、来年初めには「行事」についての本を出そうと思っています。そのために、少し、行事について再考しようと思い、また、園での取り組みを紹介しながら、行事にはどのような意味があるのか、行事を日常的な保育にどうつなげていけばいいのか、子どもにも職員にも負担がなく、行事を楽しむことができるのには、どのようなものがありえるのかなどを私の園の実践から考えてみようと思っています。そこで、行事について、いろいろとブログに書き込んでいるのです。

 そう思って整理をしていると、いろいろなことが見えてきます。地域をめぐる遠足によって、園が地域とのつながりをより深く持つようになりました。そのつながりが普段の保育に厚みを持ってきます。5回目の遠足では、各ポイントにボランティアさんを中心に受け持ってもらいました。それは、その年の年間テーマが「森」であることもあり、職員の知識だけでなく、それぞれの専門家を活用することで、より面白く子どもたちに体験してもらえます。

 たとえば、「野鳥の森にはどんな鳥が住んでいるのかな?全部で8つあるよ。」というポイントには、鳥類保護連盟の方にいてもらい、鳥のポスターをみながら、該当するとりを親子で考えてもらい、解説してもらいます。そして、「この羽はなんの鳥の羽根かな?」というといには、本物のすずめの羽根をみせてくれました。そのほかにも本物のいろんな鳥の羽根をみせてくれ、また、興味のある親子には本物の巣やカモの片腕など、とりのおもしろい話をしてくれました。また、違うポイントでは、植物に詳しい地域の人が、「日向と日陰、どんな植物があるかな?当ててみよう」ということで、アロエとドクダミのどっちがどっちか当ててもらうポイントでは、「自然の森では、植物はそれぞれ生態に適した場所にはえている。そのようにして、日陰と日向に分かれ互いを守りながら共生している。それが、自然に成り立っている…人社会でもそうなったらいいね。」みたいな話をしてくれました。また、園の裏にある「ホタル舎前」では、地域に蛍を復活させた方に、「ホタルのあかちゃんに会いにいこう?ホタルのあかちゃんってどんな形?」ということで、本物を虫めがねで見せてもらいました。

 そのほかにも、「森の中にあるミクロな世界をのぞいてみよう?コケってどんな形かな?」では、虫めがねでコケをみたりその周辺のものをみてみたり、「ミクロな世界を顕微鏡でのぞいてみよう?すきなものをみてみよう?」とか、「箱の中に入っているものを触って当てよう。」では、ミラクルボックスの中に入っているものを触って、何が入ってるかを当てたりしました。

 体験ポイントでは、地域の郵便局の協力で、「葉っぱの葉書でお手紙をだそう」ということで、タラヨウの葉っぱに子どもが手紙をかいて、保護者は台紙に宛名・住所を書き、ふくろに入れてポストに投函したら、郵便局の人からポストの消しゴムのプレゼントと葉っぱのシールをもらうというコーナーがありました。

 地域の人の協力で、どんどん企画は膨らんでいきます。また、子どもたちの体験も豊富になります。

遠足6

 私の園での遠足は、親子で地域をめぐるウォーラリー形式ですが、用意されたチェックポイントで問題を解いたり、製作をしたり、水分補給をしたりして、スタンプを押してもらったり、シールをもらったりします。そのスタンプ帳にも、年度によっての工夫があります。それは、スタンプを集めて廻る楽しみもこの遠足の楽しみの一つだからです。そこは、子どもたちの出番です。たとえば、3年目は、通行手形を持って、ポイントで裏にハンコを押してもらいます。表の字や裏のハンコは、職員が消しゴムで作ったものです。4年目は、宝の地図になっています。宝の場所のヒントを見ながらポイントを探して歩きます。

 では、ポイントをどこにしようかということで、3年目、園の近くにある商店会の役員さんのところに相談しに行きました。そして、その場所でさまざまな企画を提案してくれました。たとえば、魚屋さんの前での問題は「ヒラメとカレイはどこで見分けるのでしょうか?」であると伝えると、魚屋さんは朝、ヒラメとカレイを仕入れてくれて、実際に子どもたちが見ることができるようにしてくれました。畳屋さんにいくと、若い職人さんが、店の中に誘ってくれて、畳の切れ端の周りに和紙を貼って、コースターを一緒に作ってくれます。駐在所に行くと、駐在さんが、制服姿で待っていてくれて、子どもたちに声をかけてくれます。消防団の小屋では、わざわざシャッターを開けてくれて、消防自動車と記念撮影をしてくれます。そのほかにも、教会では由緒あるステンドグラスを説明してくれます。そして、ケーキ屋さんでは、おやつとして無添加のクッキーをプレゼントしました。これらは、最初の写真の裏面を見ると、それぞれどの場所かわかると思いますが、職員はよく消しゴムで作ったと思います。しかも、つくったのは一人の職員ではなく、複数で手分けして掘ったので、随分と器用な人が多くいるものだと感心しました。
 この年度の遠足で、地域の協力のありがたさと、地域は子どもたちと触れたがっているのだということ、園の企画を一緒に楽しんでくれること、保護者を含めて、地域の人たちと知り合うことができること、また、それ以後子どもたちは地域の人へ、朝登園途中で挨拶をするようになったことなどから積極的に地域を活用することにしたのです。
 それは、次の年度に引き継がれます。この年は手形ではなく、宝の地図です。その地図に書かれてあるヒントを見ながらポイントを探します。すると、その場所には宝箱があり、そこを開けると宝が入っています。保護者は、最初の場所で苦労していました。ヒントは「馬の絵+ものさし」です。実は集合場所の「駅」です。落合駅の宝箱をどこに置くかということを駅長さんに相談したところ、駅員室の中でいいということで、改札口をはいり、駅員室に入ります。そこでは、駅員さんが、画面を見せてくれます。その画面には、今電車がどこを走っているか、駅の掲示板には今どんな文字が出ているかなどが映っています。それを、丁寧に説明してくれます。そして、宝箱の中には、車両の形をしたライトがつくキーホルダーを寄付してくれました。この年のポイントではさまざまな宝を用意しました。開店前の銭湯では、まだお湯の張っていない浴槽内の宝箱に幼児入浴無料券や、花の種、自動販売機の後ろにはペットボトルの形をした消しゴムといった具合です。
 また、体験ポイントでは、地域の地場産業である染物工場で、ハンカチを藍染する体験をさせてくれました。
 この2年間で、地域にはいろいろな店やさまざまな職業があることを子どもたちは知ったようです。そして、4年目からは、今度は地域のさまざまな人材を知ることになります。

遠足5

 私の園の遠足は、「地域を知ろう」ということであり、「地域の人々と触れ合おう」という目的があります。そのテーマによって、最初の年には「園の周りの地域を知ろう」で、園の周りの地域めぐりを、問題を解きながら親子で回ります。問題は、子ども向けではないのですが、保護者が、地域を知ることで、子どもたちと一緒に散歩するときの会話を提供しようという趣旨です。そして、私は出発のときの挨拶で「子どもたちが大きくなったときに、“私はこのような町で育ちました”と誇って言えるようにと思ってこのような企画を立てました」と保護者に説明します。

この遠足は0歳児から全園児で行うのですが、コースを、0歳児は近くを回り、年長児は遠くまで歩くと計画するのですが、以前、終わってからのアンケートをとると、「物足りなかった」とか、「遠くまで歩かされたので疲れた」とか、「階段があってバギーでは困った」というような苦情が、年齢に関係なくあったために、コースは選択にしました。事前にコースを選んでもらいます。ポイント必修五つで10時出発が「らくらくコース」、ポイントが必修の五つと残りのポイントの中であと三つ廻り、坂ありで9時40分出発が「普通コース」、すべてのポイントを廻り、階段ありで9時20分出発が「ハードコース」です。そして、ゴールにはどのコースも11時半までに到着することというルールをつくります。

最初の年は園の周りをチェックポイントにしたのですが、意外と保護者は自分たちの住んでいる地域を知らないことにびっくりしました。たとえば、園の隣にある「おとめ山公園」では、いたるところに問題がありますが、一番大切な「おとめ山とは何という由来でついた名前でしょうか?」という問いについて、その由来についての看板もありますし、問題は三択にもかかわらず知らない人が多いのには驚きましたし、その由来を聞いて感心する保護者も多かったのには、やはり問題のように、また、クイズのようにゲーム感覚で解いていくことの意味を感じました。答えは、「徳川の狩り場だったために、一般の人の出入りを禁止していたため、御留め山からおとめ山になった」というようにとても歴史があります。ですから、ほかのチェックポイントでは、こんな問題も出ました。「おとめ山賛歌の歌詞「?と遊ぶ」は何が遊ぶのでしょうか?」とか、「この公園内にある弁天池には色々な生き物がいます。3つ答えてください。」などが問題になります。また、そもそもの「この地域は“落合”という地名がついていますが、何が落ち合う場所なのでしょうか?」ということも意外と知らないようです。

このようにチェックポイントでは、問題を解くだけでなく、製作するポイントもあります。この年の製作は、ウォークラリー中に枝を見つけてもらい、その枝を使って製作ポイントで写真の額を作ってもらい、スタート時に親子写真を撮りすぐにプリントしてゴール時にその額に写真を貼ってあげるというものでした。あと、途中のポイントには、水分補給ポイントも用意されており、そこでは、紙パックの飲み物を配ります。

このような地域を使っての遠足は、その準備段階から職員は地域を取材で廻りますし、地域の人と触れ合います。しかし、まだ、この年はこの地域に来たばかりですので、積極的には触れ合わず、ボランティアの参加もありませんでした。地域の人を巻き込んでの遠足は3年目に実現します。それは、この年と次の年の企画があってのことでした。

遠足4

 私の園で、先日遠足を行ったのですが、私はあまりその歴史を理解していたわけではありませんが、本来の遠足に近いものでした、私の園での遠足は「親子遠足」ですが、そのテーマにはこう書かれてあります。「親子で地域の人と触れ合いながらウォークラリーをし、地域を知る。」です。

そんな遠足の理念を、職員では、こんな形で表しています。「親子遠足 こんな感じにしたいなあ… 地域の人とつくる… 社会福祉協議会の方にご協力いただき、地域のボランティアさんに得意なものを発揮してもらいながら、私たちの園のことを知ってもらい、<地域の中にある保育園><いろんな人と子どもたちが安心して関われる環境>をつくっていけたらいいな…><卒園したあと、子どもたちを見守ってくれる地域の目がふえたらいいな…>ということで、落合(地元の地名)に根差した方を中心にボランティアにはいってもらうことに。今までは、<地域へ出ていく>から<地域がこれる>をテーマに、地域の人とのつながりのスタートになれるよう、得意なものを存分に発揮してもらったり、親子と関わってもらう… 職員にとっても、ボランティアさんと積極的に関わってもらい、これからの保育に活かせるようなことをしっている方もたくさんいる。EX)まきさん(地域ボランティア)が、山下農園(園の畑)を見に来てくれたり、くらもちさん(地域ボランティア)が木工ゾーンへきてくれる…なんて話も。」

そして、昨年、今年のテーマ「森」に沿って考えます。昨年の遠足に対する職員の思いは、「森をテーマに… 森へ探検にいくように、親子でポイントをまわるというよりは、おとめ山を探検していく中で、いろんなものに目がいったり、“なんでだろう”“さわってみよう”がたくさん散りばめられているテーマパークみたいになったらいいなあ。」でした。そして今年は、「落合の歴史を知ろう…何万年もの歴史の中、この100年で劇的な変化があったこの世界。江戸時代の落合は一帯に水田が広がり、狐やホタルが生息しており、風流な方々が訪れる風光明媚な観光地でした。おとめ山やこの地域の坂、通りの由来を知ってもらって、その時代の落合の雰囲気を感じてもらう。みんなでタイムトリップしてみよう。森をテーマに…『森で遊ぼう』がテーマ。木をよく見てみよう!製作やレクリエーションをすることによって木ってどんな作りになっているのだろうと考えるきっかけに。木をよく見ることによって木の成り立ちを学ぼう。」です。

ここには、よくあるような「遠足の趣旨」とか「遠足の目的」などという硬い形式はありません。ましてや、訓練とか、鍛錬の要素はありません。「路上到ル所ニ便宜ヲ求メテ諸学科ヲ実地ニ研究セシメントスル」が目的とされ、「「到ル所ノ地方ノ人民ニ接スルニハ温良静粛直実ヲ旨トシ」というように行く先々の人たちと出会い、「師範生徒ハ其従順ナル事其ノ友愛ナル事其威儀アル事実ニ斯ノ如クナリヤト云テ諸子ヲ愛敬スルノ感情ヲ発起セシメン事ヲ希望ス」とあるように、地域の人たちと接するときの態度を学んでいくのです。

この思いが、遠足係から出される「遠足の原案」では、もう少し具体的になります。今年の例で見てみますと、遠足のテーマは、「親子で地域の人と触れ合いながらウォークラリーをし、地域を知る。今年もボランティアさんが一緒に園の行事に携わってくれます。また今年の親子遠足のもう一つのテーマは『地域の歴史を知ろう』です。地域のコミュニティ『おちあいあれこれ』の会の方やボランティアさんから情報をいただきCPのクイズにしました。」であり、年間テーマとの関係は、「『森で遊ぼう』に関連したCPを用意しました。全員通るCP(野鳥・おとめ山)→自然に詳しいボランティアさんと遊ぼう。製作→木の写真立て?木の成り立ちを知ろう? 午後レク→木を良く見て作ってみよう。そして午睡部屋に森を作ろう」

この具体的テーマは、毎年少しずつ変わっています。