産後

最近の病院での普通分娩で何も問題なければ、5日から7日入院をするのが一般的です。そして、退院後は、基本的には一人になります。しかも、一人になるだけでなく、病院では産婦としてケアされていたのが、子どもを産み、抱き上げた瞬間から母親になります。と言うことは、今までのケアされる立場から、今度は自分の子どもをケアする立場へと変わらなければなりません。まだまだ母親自身も身体的にも精神的にもケアが必要であるのにもかかわらずにです。かつて、日本では床上げと言われるまでの3週間程、産婦の母親が身の回りの世話や助言を与えていました。インドや中国でも数週間から40日程ケアされる習慣があるそうです。また、ヨーロッパの多くの国では父親が最低でも3ヶ月以上有給休暇が保障され、中でもイギリスは退院後2週間、毎日保健師の訪問があるそうです。日本でも自治体によっては、希望すれば、退院後保健所などからの訪問を受けることがありますが、1日だけです。オランダでは自宅分娩の場合、看護師が10日間滞在し家事をしてくれるサービスが公的に行われているそうです。

このようなサービスを受けることができるのは、母親は自分自身が十分なケアを受ければ受けるほど子どもへの愛情が増し、育児に自信が持てるようになると言われているからです。また、育児だけでなく、同時に家事もこなさなければならず、なかなか育児に専念できません。産後は特に、家事を気にせず我が子の世話に専念でき、心配事はすぐに相談できる環境が必要です。そのことが子どもの健やかな成長につながるのです。幼児虐待が増え、そのニュースを見聞きするたびに、ずいぶんひどい母親もいるものだと思いますし、自治体では、その早期発見、防止に必死になっていますが、もしかしたら、母親に対しての産後の十分なケアがされていないために、わが子に愛情を感じることが少なくなっていることもあるのかもしれません。

京都大学霊長類研究所長の松沢さんは、こう言っています。「一人で子どもを育てる人間っていうのは、本来いないはずです。高層マンションで、お母さんと子どもが向き合って暮らしていてお父さんが会社でずっと働いてという生活があったとしたら、それは、およそ人間の本性から離れた子育てなんですよね。」

人間は、霊長類ですから、本来は森の生き物だと言います。それが、チンパンジーは安全な森に留まりますが、人間は草原という過酷な環境に出て行きます。安全な森に留まることでチンパンジーは協力行動を広げていかなかったと考えられています。確かに、チンパンジーも父親集団で、子どもを守りはしますが、それは外敵から守るというぐらいの意味で、直接その子どもを育てる、食料の面倒を見るということはしません。しかし、人間は、過酷の環境で、お互いがお互いを助けて、みんなで複数の子どもたちを守り育てる。そういう暮らしを人間は築いていったのだと言います。まさに、保育所のようです。複数の他人が、複数の他人の子どもたちを保育する営みは、まさに、人間の本性なのです。

そして、この人間においての集団における子育てと母親だけに依存しない子育てのおかげで、離乳を1年未満に終え、次の子を産む準備に取り掛かれるのです。母親一人で子育てをするチンパンジーは、離乳は4歳なのです。しかし、チンパンジーは生きているあいだはずっと出産をします。それに対して、人間は出産期は短いために、集団での子育てをすることによって離乳を早め、それが人間を多産にしたといわれています。やはり、最近の少子化は、このことから見ても母親だけで子育てを押し付けていることに原因があるようです。

産後” への6件のコメント

  1. とても納得できることばかりの内容でした。出産後の母親を1人にしないことが子どもへの愛情をより高めることにつながるのではないかという見方は、その通りだろうと思います。公的なシステムとして出産後の母親をサポートする他国は、それはそれで様々な問題を抱えているんでしょうが、でも国として子どもの存在をどう捉えているかという思いは十分に伝わってきます。他国のあり方を見て自国を憂うということをあまりしたくはないのですが、大切にすべきことを当たり前に大切にできることは簡単ではないんでしょうが、方向だけはそちらを向いていてもらいたいと強く思ってしまいます。まあ他人に頼りすぎることなく、自分たちにできることをまずは最大限にやっていくことから始めなければいけないんでしょうが。

  2. オランダは、周産期ケアシステムでもかなり進んでいるようです。一橋大学の研究レポートからの引用です。

    ≪オランダの妊娠確認段階から、産前ケア、出産、産後ケアまでの流れは以下のようになる。まず、妊娠を確認する段階。女性は妊娠検査薬で確認するか、あるいはHuisart(オランダの家族の医者)に確認してもらうという二つの選択肢がある。その後の産前ケアから、出産、産後ケアまで、オランダ女性はどこで出産するか、どの供給者のケアを受けるか自分で選べる。異常がないケースはFirst Line に入り、妊婦が産前ケアの供給者として助産師かHuisart を選び、出産場所も自宅出産か病院出産両方とも選択できる。しかし、出産場所が選べるといっても、政府の自宅出産を促進する政策として、自宅出産の費用が公的保険(Sick Fund)で100%カバーされるのに対して、病院出産の場合は一部しかカバーされない。≫

    オランダは、自分が住み慣れた家で子育てをスタートさせることを国の方針にしているので、「自宅出産」や「自宅ケア」に力を入れているようです。妊婦の状態によっては病院出産も選択できますが、安心して出産するには自宅でというのが徹底しています。オランダは、妊婦も赤ちゃんも幸福度世界一?日本は、この分野でも世界に遅れを取っています。少子化対策といっても、まずは安心して子供を産めるシステムを作ることから、と思います。

  3.  母親が赤ちゃんを虐待するニュースをよく聞くようになりました。私自身が保育園で勤めている分、敏感に反応しますが、そういうニュースを聞くたびに心が痛みます・・・。どういう気持ちから自分の子どもを虐待してしまうのか不思議でなりません。ただ、保育園に預ける事もできず、家の中で赤ちゃんと二人きりの状態だと、やはり心身ともに疲れるでしょうね。出産という大きな試練を乗り越えたと思ったら、すぐに子育てが始まるのは・・・確かに辛いかもしれません。中国やインド、ヨーロッパではイギリスやオランダのように、母親を長期間サポートしてくれるサービスがあるのはいいですね。その方が母親も子どもに対する愛情も増し、虐待のような悲惨なことは少なくなると思います。ブログにも書いてあるように、子育ては母親だけの役目ではなく、集団で行うこと。それが人間の本性なんですね。

  4. インドや中国、そしてヨーロッパ諸国も出産をした後も社会的に様々なケアがされているのですね。そして、そのケアを受ける事で母親は子育てに専念でき子どもに愛情を注げる事ができとても素晴らしいと感じます。京都大学霊長類研究所所長の松沢さんの言葉や、そもそも人間が生きてきた歴史を見ても人間は様々な人の助けがある事で生きてきていますし、それが無かったとすると既に滅びていると思います。最後の「最近の少子化は?」というのはまさにその通りだと思います。今回のブログは、今置かれている問題などがとてもわかりやすく納得がいくことばかりでした。

  5. 我が子を出産した家内は1週間ほど病院にてその後は家内の実家で息子とともに数週間過ごしました。その間、仕事帰りの私は、まず家内の実家に立ち寄り家内と息子の元気な様子を確認し、一緒に過ごしやがて自分の家に戻りました。私の家と家内の実家は歩いて数分という近距離にありましたので、そうした日常を送れました。立ち寄るたびに、どこのだれがやってきて、出産のお祝いをしてくれたとか、息子を抱っこしてくれたとか、どこどこのだれだれはパパそっくりだと言っていたとか、いろいろさまざまな人々が入れ替わり立ち代わり息子に関わっていることがよくわかりました。出産して退院後母子だけでマンションの一室にいる、というのは現在の状況でしょう。これも我が国の社会状況のなせるところでしょうから一概に云々はできませんが、育児ノイローゼや虐待、ということを聞くたびに、いろいろさまざまな人々のかかわりがあればそんなことにはならないのに、と思います。諸外国のよき産後ケアシステムを私たちは知っているわけですからそれらを参考にしながら元々私たちの社会にあった産後ケアシステムの復権?を政策的に図っていく必要があると思うのですが、そのアドバイザーの学者先生たちが「赤ちゃんはお母さんと」と言って産後のケアを基本母子関係に閉じ込め、なおかつ「三歳までは家庭で(実際は親子だけの「ご自宅」で)」と言ってみたり「保育所の0、1歳は母子関係の代わりの担当者乳児関係で」と言うものですから産後ケアの社会性は何だかほど遠いところにあるような気がします。せめて私たちの保育園に来る0、1歳児には「社会」を保障してあげようと思います。

  6. 海外の出産後の様子と日本の出産後の様子とでは少し違っているんですね。今回のブログを読んでいると、いかに今の日本のお母さんは大変な環境のなか育児しているのかと思います。昔とは違い頼る人が地域にいるような環境もなくなり、近くに両親も居ず、旦那さんは仕事が忙しく、育児を一人で見なければいけない状況は追い詰められることも多いのではと思います。人間は便利な環境になった分だけに人間らしい営みがなくなってきているのかもしれません。それは母親にも子どもにも不幸なことですね。そういった社会状況のもと、保育園という子どもを取り囲む環境はどういった役割を担うべきなのかを考えさせられます。

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