指導

 保育には、いろいろな書類が必要とされます。その作成が、行政からの監査対象になります。しかし、書類というのは、何でしょうか。それは、言葉は残らないために、文章などに書き表すことで、後で自分で確認することができ、他の誰でも見ることができ、後まで残すことができます。では、何かをしようとするときに、いつどんな書類が必要になるのでしょうか。ことをはじめる前につくる書類、また、ことが終わってからつくる書類と大きく分けることができます。保育の場合、保育所保育指針には、一つの書類として、指導計画を立てる必要があることが書かれてあります。「保育課程に基づき、子どもの生活や発達を見通した長期的な指導計画と、それに関連しながら、より具体的な子どもの日々の生活に即した短期的な指導計画を作成して、保育が適切に展開されるようにすること。」これが、よくいう年案、月案、日案と呼ばれるものとして表されます。
しかし、よく考えると、おかしいことに気がつきます。この計画は、保育の目標が達成されるための計画ですが、保育の目標は、(ア)?(カ)まで書かれてありますが、その語尾は、「培うこと」が4か所、そのほかは、「図ること」「養うこと」「指導」という言葉と締めくくられており、どれも「指導すること」の内容が示されていません。では、保育の方法として指導するのでしょうか。これも保育所保育指針によると、ア?カの中で、「受け止めること」「環境を整えること」「保育すること」「援助すること」「大切にすること」「適切に援助すること」とあり、方法でも指導する方法は書かれてありません。
では、どうして指導計画を立てるようなことを要求するのでしょうか。それは、PDCAサイクル(PDCA cycle / plan-do-check-act cycle)と言われる典型的なマネジメントサイクルから影響を受けているような気がします。計画(plan)、実行(do)、評価(check)、改善(act)のプロセスを順に実施し、最後のactから次回のplanに結び付けるという、らせん状のプロセスを繰り返すことによって、品質の維持・向上および継続的な業務改善活動を推進するマネジメント手法がPDCAサイクルです。
この方法は、第二次世界大戦後、1950年代、品質管理の父といわれるW・エドワーズ・デミング博士が、生産プロセス(業務プロセス)の中で改良や改善を必要とする部分を特定・変更できるようプロセスを測定・分析し、それを継続的に行うために改善プロセスが連続的なフィードバックループとなるように提案したものです。この考え方は、製造プロセス品質の向上や業務改善などに広く用いられ、ISO 9000やISO 14000などのマネジメントシステムに取り入れられています。
この考え方は、保育の世界でも取り入れられ、保育の質の向上に使われています。しかし、保育という仕事は、子どもの発達を保障するものであり、同じ品質を生みだすために、 生産プロセスをきちんと決めることではないのです。また、計画するうえには、「子どもの生活する姿や発想を大切にして」というように、まず、子どもの活動している姿をよく見ることからはじまります。そして、たてられた計画は、その内容を指導することではなく、「子どもが主体的に活動できるようにすること」が求められます。
PDCAという考え方は、戦後間もなく、安定した製品を作るために考えられ、確かにそれが産業を発展させました。しかし、皆同じような人間をつくってきたような気がします。このような手法を見直し、また、指導する計画が主な書類であるような考え方は見直してほしい気がします。