食養

現在、世界ではそれぞれの国で食育の取り組みが行われていますが、日本で2005年に成立した、国家レベルで食の改善をテーマに掲げた法律「食育基本法」は、世界に先がけて作られています。その法律をつくった動機の一つに、現在、国民の医療費が国家予算の約3分の1にあたる30兆円となったからで、これを減少させるためには、人々の「健康に寄与する食」を供給するという食本来の役割が重要になってくるからです。日本には、古くから「体育・智育・才育は即ち食育なり」と食育を提唱し、「食育食養」を国民に普及することに努めた人がいました。彼は、栄養学がまだ学問として確立されていない時代に食物と心身の関係を理論にし、医食同源としての食養を提唱しました。それが、食養学という学問です。食養とは、食物プラス修養、すなわち「環境・食物・人間一体論」という意味であるので、それは「食養道」ともいえるものでした。
この食養を提唱したのが、嘉永4年(1851年)に福井県生まれた「石塚 左玄」という人です。日本陸軍薬剤監であった石塚左玄は、ミネラルという微量栄養素の重要性さを、明治時代に欧米に先駆けて世に訴えた先覚者だったのです。当時は、わが国の医学者・栄養学者たちは、欧米の医学界と栄養学会を崇拝していました。欧米では、ミネラルバランスよりも、3大栄養素である炭水化物・タンパク質・脂肪とカロリーが論議の的だったのです。ですから、石塚の提唱を日本の医学界と政府は、特に取り上げもしませんでした。その結果、それまで、病気の少なかったわが国は、さまざまな難病・奇病が発生し、多くの国民が病人か半病人となったほどでした。石塚は、「食は病をつくり病を治す」ということで、食養の基本のひとつは、ミネラルバランスにあるとしました。マグネシウム、カルシウム、鉄、亜鉛、マンガンなど、いろいろあるミネラルの中から、ナトリウムとカリウムの二つのミネラルを取り上げて、ナトリウム1対カリウム5という均衡が大切であると説いたのです。
もちろん、体は食が育てるものですが、智と才も食養に関係し、智と才は表裏の関係です。「智は本にして才は末なり」と智を軽視しないようにして、カリウムが多くナトリウムが少ない食事によって智と才の中庸を得て、特に日本字のような穀食動物の資質を発揮するとしました。幼い頃はカリウムの多い食事をとることで、智と体を養成し、思慮や忍耐力や根気を養うとしたのです。また道徳心や思慮を必要とする場合もカリウムの多い食事にするといいと言い、しだいに社会人となるに従って、ナトリウムの多い食事にしていくことで、才と力を養成するとしました。これらのバランスが大切であるとしたのです。
明治になり、欧米の食習慣が日本に入ってきて、また、食についての学問も欧米に影響された状況に「日本を亡ぼすものは外敵ではない。それは西洋を知らず、また日本そのものをもみずからよく知らず、日本びいきのくせに、内実は西洋文明にあこがれて、ことにその食生活を喜ぶ傾向にあるのは、西洋に身を売って生理的に西洋の植民地化をはかって亡びに至らしめる日本人自身がその元凶であることになる」と言うのです。
私は、これは、他の学問にも言えることのような気がしています。その地に伝わる文化、その地で発展してきた文明、特に、生活に密着する内容ほど、長い間にその地の風土が育ててきたものなのです。そして、その風土が、体をつくり、心をつくり、人を育ててきたのです。そのひとつが、育児なのです。私は、育児について、欧米の学問からだけを参考にするのではなく、もう一度日本で受け継がれてきたものを見直す必要があると思っています。

食養” への6件のコメント

  1. 食を通しても保育を考えることができる、こういう視点が大切なんですね。勉強になりました。
    食育基本法の第7条にこう書かれています。
    「食育は、我が国の伝統のある優れた食文化、地域の特性を生かした食生活、環境と調和のとれた食料の生産とその消費等に配意し、我が国の食料の需要及び供給の状況についての国民の理解を深めるとともに、食料の生産者と消費者との交流等を図ることにより、農山漁村の活性化と我が国の食料自給率の向上に資するよう、推進されなければならない。」
    この法律の中で一番いいと思っている条文なのですが、言葉をちょこちょこと変えていけば保育の話にもなりそうです。

  2. 食育食養というと子どものためだけではなく、その模範たるべき大人にこそ必要と思います。私自身も毎年の人間ドックの後の通知書に「要精密検査」の文字を見る度に、普段の食生活を反省させられます。今でこそ、予防医療とか言われて、食と病気の関係はうるさいほど言われますが、明治の時代に東洋医学の医食同源を説いた石塚左玄の考え方はいかにも先進的です。その理論の一つが、陰陽調和論といって、陰(カリウム)と陽(ナトリウム)のバランスが崩れると病気になるという思想です。ナトリウムの多いものは塩のほか肉・卵・魚など、カリウムの多いものは野菜・果物と植物性食品。やっぱり塩分控えめで、野菜をたくさん採るのが健康にいいというわけです。このほか、一物全体論と言って、食品丸ごと食べるのが体にいいと玄米食を推奨したそうです。

  3. ミネラルバランスを欠いているのでしょうか、足の指先がつったり、こむらかえりを起こして苦しんだりすることがあります。食は基本的に重要だとは誰しも思うことですが、「食は病をつくり病を治す」という石塚 左玄の言は等閑視されている傾向が現代にはあります。病の大半はおそらく食生活に起因するのでしょう。お酒もタバコも「食」で括られ、しかも暴飲暴食あるいは偏食固定食で体内バランスを崩し病気になります。欧米の食習慣に蹂躙されてしまっている私などは「日本人自身がその元凶」と言う部類に入り大いに反省しなければなりません。「私は、育児について、欧米の学問からだけを参考にするのではなく、もう一度日本で受け継がれてきたものを見直す必要があると思っています。」これはその通りだと思います。本当にこのことに目覚めてほしいと切に思うのです。

  4.  2005年に日本で「食育基本法」が法律で掲げられていたとは知りませんでした。ただ既に法律として食育が勧められているのならば、もっと全面的に出してよいと思いました。医療費が国家予算の3分の1も使っているのは、私のような一般の人から見ると、使いすぎのように思います。実際に病気にかかるのはしょうがないかもしれませんが、まずは病気にならない体を作る必要がある気がします。石塚左玄という人物が唱えた「食育食養」。食事はミネラルバランスが大切と提唱したのを、欧米の医療や栄養学を当時は信じていたせいで、それまで病気が少なかった日本が様々な難病や奇病が発生した。藤森先生が言われるように学問と似ていますね。その国にあった文化、風土は長い間を経て、その場所の人々によって作られ、受け継がれてきました。確かに他の場所を見て参考にするのも大切な事かもしれませんが、まずは自分の文化を見直す事から始める必要があると思います。

  5. 「食養学」という言葉は始めて聞きました。しかし、話が進むにつれ、保育の話に聞こえてきたのは私だけでしょうか。藤森先生の講演を聞いていても、子どもたちの発達を助長する関わりは食事のシーンに多いように思います。人が調理するという行為、それを囲んで食べる行為、まさに「環境・食物・人間一体論」なのかなと思いました。西洋の食文化を知るのも勉強ですし、参考にするのは大切なのかもしれないですが、自国のことをおろそかにするのは違いますね。その国にはその国の伝統や文化があります。その必要性をもう一度考えることは必要ですね。

  6. 『食養とは、食物プラス修養、すなわち「環境・食物・人間一体論」』「食養学」初めて聞いたのですがとても興味のある言葉ですね。日本には四季があり、そして食べ物にはそれぞれ旬というものがあります。旬とはある食材が他の時期よりも新鮮で美味しく食べられる時期のことです。つまりその時期に適しているということです。その適しているものを食べることで人体には適した効果もあります。暑い時期にはその時の旬のものを食べることで体を冷やす効果があったりととてもおもしろいですね。一度なぜそういった食材が都合よく旬になっているのかを考えたことがありましたがよくわかりませんでした。ですがそれこそが「環境・食物・人間一体論」につながってくるのだなと思いました。

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