招霊

 日本古来からの樹木には、神話にまつわるエピソードがあります。以前、熊本県人吉に行ったときに、青井阿蘇神社を訪れました。この神社は、平安時代に阿蘇神社の三神を祭神とし、創建されました。鎌倉時代から明治維新までの約700年に渡ってこの地を治めた相良家歴代当主の保護により、たびたび改修が行われてきました。平成20年にこの神社の本殿、廊、幣殿、拝殿、楼門の5棟が官報告示により国宝に正式に指定されました。熊本県に現存するものとしては初めての国宝となり、全国でも神社の国宝指定は47年振りの快挙だと話題になりました。
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この神社の鳥居をくぐると、オガタマの木があり、手前の案内板に「招霊木と一円玉」と書かれてあります。「「招霊木」と書いて「おがたまのき」と読みます。天に向かってまっすぐに枝を伸ばすことから神霊を招く木、すなわち神の依り代(よりしろ)とされてきました。玉串など現在では榊をもちいますが古来は招霊木が使用されていたのです。そして貨幣の基本である一円玉にデザインされているのが招霊木です。」
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確かに、表面には「日本国」と「一円」そして「若木」が、裏面には「1」と製造年がデザインされています。ただ、この若木のデザインのモデル樹種は特になく、特定のモデルがないからこそ却ってどの木にも通じる、という考え方もあります。しかし、この立て札のように「オガタマノキ」の若木だと言われています。そして、和名は、「招霊(おきたま)」で、「拝み霊(おがみたま)」からの転訛といわれ、葉が常緑で光沢が綺麗なため、枝葉を神前に供えて神霊を招くために用いられました。このため、神社等敬虔な場所に数多く植えられています。また、和歌、俳句の季語にも用いられています。他にも、「小賀玉木」や「御賀玉木」「小賀玉榊」「小賀玉木蓮」「御賀玉樹」「小香玉」「拝魂」などの表現があり、呼称の多いのも特徴です。別名は、トキワコブシ、ダイシコウとも呼ばれ、学名の「ミケリア」は、19世紀のスイスの植物学者「Micheli 」の名前にちなんでいるそうです。
この「オガタマノキ」は、モクレン科オガタマノキ属の常緑高木で、日本に自生するモクレン科では唯一の常緑樹です。樹高15mくらいで、3?4月頃にほのかに香る可憐な白い花を咲かせ、9?10月頃には鮮やかな赤色の実を覆う表皮に包まれた葡萄の房状のような果実を付けます。この果実は、日本神話において、天照大神の天岩戸隠れにおいて天岩戸の前で舞った天鈿女命が手にしていたとする説があります。よく、夜神楽で天鈿女命や舞人が神楽を舞う際に、手に持っている「神楽鈴」は、鈴が葡萄の房のように付いており、この果実が原型のようです。また、榊の自生しない地域を中心に神前に供える玉串として古くから代用されたり、神木とされて神社の神域などに植栽されている例が多くの地に見られます。
イギリスの昆虫学者L.H.リーチが1885年、鹿児島で採集し、天皇に献上したときの学名が「mikado」だったことに由来するというミカドアゲハの幼虫が、オガタマノキを食べることが最近判明しました。高知ではこのミカドアゲハが特別天然記念物に指定されています。
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この「オガタマノキ」が、森林記念年記念切手の中の8番目の樹木です。