研究者

「東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設」は、本来は、昨日のブログで紹介したダークマタ―を検索するためではなく、大量の純水を巨大タンクの中に蓄え、素粒子が反応することによって発生するチェレンコフ放射光をその周りを取り囲む光センサーで捕らえる実験をしているところです。この研究施設は1995年にスーパーカミオカンデ実験を推進するために設立されました。ここのスーパーカミオカンデは、大気中で発生するニュートリノ、太陽の中心部で生成されるニュートリノ、または粒子加速器を使って人工的に作られたニュートリノを検出するなど、基礎科学の分野で世界をリードしています。
 この実験では、宇宙線などのノイズがあると正確には測れないということで地下深いところにつくられた地下実験室です。まず、研究棟を訪ねました。その建物はさほど広くなく、研究所員も多くいる感じがなかったのですが、感心したのは、どの廊下にも、階段にもその壁面はホワイトボードで覆われ、そこには難しい数式やら図式やらが英語でびっしり書き込まれていました。それは、どこにいても新しい発想を描き込んだり、どこででも理論を議論するためと言われ、なるほどと思い、園でもその環境はいいかもと思いました。
その後、所長さんの案内で、そこから少し離れた実験場まで車で移動し、地下1000メートルのところまで潜って行きます。最初、それは、エレベーターか何かで潜るのかと思っていたら、車で行くというのでびっくりしました。それは、発想の転換です。というのは、なんと、坑口から水平に1.7km入ったところが、1000メートルの高さの山の真下に出るのです。ですから、その実験室の上には、1000メートルの土が盛られていることになります。
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そこは、元神岡鉱山の坑道の跡を利用したもので、ここでは宇宙線のバックグラウンドが地表に比べて10万分の1になり、宇宙線に起因するバックグラウンドが少ないきれいな環境になっているそうです。したがって、ニュートリノ反応のように稀にしか起こらない事象を捕まえるのに適しているのです。また、大深度の地下は地面振動が小さく、時空の歪を検出する重力波検出装置や地殻の歪を検出する地球物理学研究実験装置などにとっても非常に有効だということでした。
 この実験では、宇宙線のほかさまざまな放射能が測定の邪魔になります。まず、それは、周りの土とか岩から発するので、実験室の周りはすべてポリでコーティングされています。また、人間がもちこむということで入口は二重になっており、外で靴を脱いで、中で違う靴に履き替えます。
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ドームの天井の下にある観測装置である「カミオカンデ」は、直径15.6メートル、高さ16メートルの水槽に純水3,000トンを満たし、高速荷電粒子が水中で発するチェレンコフ光を捕らえて、水槽内で起きた様々な現象を観測します。水槽内壁には、この実験のために特に開発された、直径約50センチの光電子増倍管を約1,000個、1平方メートルに1個配置してあり、この光電子増倍管でチェレンコフ光を捕らえます。と言っても、その検出器の蓋をした上を歩くだけで、中を見ることはできませんが、足元には、まわりを約1,000個の光電子増倍管が配された大きな筒があると思うと、すごいものの上にいるという実感を持ちます。
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もともと、カミオカンデは、日本の物理学者である小柴 昌俊氏が、自らが設計を指導・監督した実験場で、陽子の崩壊事象を調べる実験に使われていました。ところが、1987年に、超新星爆発により大量発生したニュートリノを偶然にも感知し、史上はじめて自然に発生したニュートリノの観測に成功したことにより、2002年にノーベル物理学賞を受賞しました。このニュートリノを観測すれば光では観測不可能な星の中心部を直接研究することが可能になったり、天体ニュートリノの観測は天文学及び素粒子物理学にとってきわめて重要なことなのです。
もちろん、どうして重要なのかはよくわかりませんが、子どもたちの誰かは、どこかでこんなことに興味を持ち、研究者になるかもしれません。もしかしたら将来、大発見をする研究者の子ども時代は、常識で縛られている私たちから見ると奇妙な子かもしれません。しかし、そんな子どもを大切にしなければと思いました。