立ち直る

 人類が地球に誕生したころの環境は、とても危険だらけだったでしょう。その中で、人類は、特に素晴らしい体や、さまざまな環境に打ち勝つ他より優れた運動能力を持っていたわけではありません。一時期地球をわがもの顔に闊歩していた大型恐竜と言われた生物のほうがよほど生き延びるのに適していたと思われます。しかし、それら恐竜は絶滅したのにもかかわらず人類は生き延びてきただけではなく、あらゆる生物の中でも驚異的な発展を遂げています。どうしてでしょうか。今回の地震の惨状を見ていて、あらためてそんなことを考えました。
 私たちの先祖は、さまざまな脅威から逃れ、困難や苦境を乗り越えてきました。その脅威は、もちろん今回の地震のような自然災害や環境の変化もあったでしょう。また、他の生物から襲われたこともあったでしょう。また、自らの怪我、病気など、様々な困難を乗り越え、自分たちの遺伝子を後世に残してきました。その困難さは、身に降りかかるさまざまなものだけでなく、心に降りかかるさまざまな思いがあります。それは、時に大地震よりも心の中を大きく揺り動かし、心を崩壊させることもあります。
「Resilience」という言葉があります。「リジリエンシー(立ち直る力、回復力)」です。これは、「オウエンとムゼイ」(イザベラ・ハトコフ、クレイグ・ハトコフ、ポーラ・カフンブ著、:NHK出版〉という本があります。この本の中で、この「リジリエンシー」について、子どもたちの行動の観察から考えています。子どもたちは、「自宅、遊び場、あるいは教室など、どんな環境においても、楽しいこと、いやなことに対する反応のしかたが、それぞれ違っていることに気づきます。きょうだいとのちょっとした言い争いのような、ごく些細なことでも、なかなか克服できずに時間がかかる子がいる一方、大きなストレス刺激(ストレッサー)からあっさりと苦もなく立ち直ることができる子もいます。」ということから、生きていくうえで遭遇するストレッサーからほかの子よりすばやく、そして完全に、立ち直ることのできる、一部の子どもたちの能力「リジリエンシー(立ち直る力、回復力)」を研究したものです。その力は、通常、「大きな危険にさらされたときや、成長過程における重大な脅威にさらされたときの良好な適応」と定義されます。
研究により、内外のいくつかの要因が、立ち直りの過程を左右することがわかっています。知的で、決断力があり、自立し、くよくよしない性格で、内面にコントロールの基準を持っている子どもは、立ち直る力が強いことがわかってきました。また、自尊心が高いと、立ち直りに結びつきやすく、自尊心が低いと、日常的なストレスの増加や気分の落ち込みに結びつきやすくなります。また、立ち直りには、家族、教師やきょうだいといった社会のサポートがどの程度得られるかにも影響されるようです。支え合い、親密で、対立が少ない家庭環境にある子どもは、ストレッサーと暴力から守られていることがわかっています。その支えは、ストレスがかかっているときに自分の価値を信じること、決断力、自己コントロール力などを評価してやることです。
このストレッサーは、さまざまな点で子どもにとってプラスになります。“困難から立ち直る力を身につける”ことによって、ストレス、逆境、トラウマや惨事などの状況下の混乱のなかでも何とか平静を保ち、精神的・身体的に健全に機能できるのです。次世代を担う子どもたちのために、是非、今回の災害に対する復興へむけての人間の知恵と、人々の協力の力を見せたいものです。