今年のさんま

今年は、日本全国、本当に暑いですね。といっても、日本はせまいようでいて広いのですから、必ずしも暑いことで困っている人だけではないと思いますが、基本的には、いつもと違うために困ることは多いようです。ニュースで流れてくるのは、やはり自然を相手にしているような職業は、生活が大変なようです。今日のニュースでは。「道東沖のサンマの不漁が続いている」というニュースが流れていました。どうしてここにきてそのようなニュースが流れてきたかというと、今月の15日から、水揚げ量が多い100トン以上の大型の棒受け網漁船の操業が解禁され、漁が本格化したからです。そして、その船からの水揚げ量が報告されてくるからです。たとえば、根室市の花咲港では、大型船が初めて荷揚げした19日の水揚げ量は、小型船などを合わせても約144トンしかなく、昨年の初日と比べてわずか1割にとどまったようです。
 サンマと言えば、古典落語「目黒のさんま」を思い出します。夏目漱石が学習院で講演した「私の個人主義」にも、例として出てきます。
 「私が落語家から聞いた話の中にこんな諷刺的のがあります。――昔あるお大名が二人目黒辺へ鷹狩に行って、所々方々を駆け廻った末、大変空腹になったが、あいにく弁当の用意もなし、家来とも離れ離れになって口腹を充たす糧を受ける事ができず、仕方なしに二人はそこにある汚ない百姓家へ馳け込んで、何でも好いから食わせろと云ったそうです。するとその農家の爺さんと婆さんが気の毒がって、ありあわせの秋刀魚を炙って二人の大名に麦飯を勧めたと云います。二人はその秋刀魚を肴に非常に旨く飯を済まして、そこを立出たが、翌日になっても昨日の秋刀魚の香がぷんぷん鼻を衝くといった始末で、どうしてもその味を忘れる事ができないのです。それで二人のうちの一人が他を招待して、秋刀魚のご馳走をする事になりました。その旨を承って驚いたのは家来です。しかし主命ですから反抗する訳にも行きませんので、料理人に命じて秋刀魚の細い骨を毛抜で一本一本抜かして、それを味淋か何かに漬けたのを、ほどよく焼いて、主人と客とに勧めました。ところが食う方は腹も減っていず、また馬鹿丁寧な料理方で秋刀魚の味を失った妙な肴を箸で突っついてみたところで、ちっとも旨くないのです。そこで二人が顔を見合せて、どうも秋刀魚は目黒に限るねといったような変な言葉を発したと云うのが話の落になっているのですが、私から見ると、この学習院という立派な学校で、立派な先生に始終接している諸君が、わざわざ私のようなものの講演を、春から秋の末まで待ってもお聞きになろうというのは、ちょうど大牢の美味に飽いた結果、目黒の秋刀魚がちょっと味わってみたくなったのではないかと思われるのです。」
なんだか皮肉めいていますね。しかし、それはこういうことがあったからだと続いて説明しています。前後して大学を出て、当日講演を聞いていた大森教授が、かつて夏目に「どうも近頃の生徒は自分の講義をよく聴かないで困る、どうも真面目が足りないで不都合だ」といったことに対して、夏目は「君などの講義をありがたがって聴く生徒がどこの国にいるものか」と言ったのです。このことについて彼は謝罪しながら、そう言ったのは、他人本位という考え方であり、学生側に立つと、そのような攻撃する勇気がないと言っています。今、自分の話を聞こうとするのは、「お大名が目黒の秋刀魚を賞翫したようなもので、つまりは珍しいから、一口食ってみようという料簡じゃないかと推察されるのです。」と言い、「もしこの学校の教授にでもなっていたならば、単に新しい刺激のないというだけでも、このくらいの人数が集って私の講演をお聴きになる熱心なり好奇心なりは起るまいと考えるのですがどんなものでしょう。」と言っています。
謙遜しながら、他人本位で物事を見るのではなく、きちんと自分本位で物事を判断するべきであることを言っているのでしょう。

今年のさんま” への6件のコメント

  1.  将来、秋刀魚や鰯が高級魚になってしまはなければいいのですが。自然の恵みを採り過ぎないように気を付けたいものです。
     さて、最近知ったことですが、夏目漱石の脳が今でも保存されているというのです。場所は東大医学部。以前、アインシュタインの脳が保存されているという話を聞いたことがありますが、夏目漱石の脳も保存してあったのですね。何でも医学への貢献のため、漱石の奥様が生前の漱石の意志を尊重してそうしたようです。まさに「則天去私」ですね。

  2. お盆にいろんな人と話をする機会があったのですが、暑さに対する捉え方は様々でした。困っている人が圧倒的に多かったですが、そうでない人もいました。あちらを立てればこちらが立たず、こちらを立てればあちらが立たずという当たり前のことを実感しました。

  3.  7月は梅雨が長く続き早く晴れて欲しいと願っていたら、今度は猛暑日が続き、日本全国でも熱中症で倒れている人が多く出ているニュースを聞きます。自然にも大きな影響がでているそうですが、中でも秋刀魚がこのまま不漁になってしまうと値段が上がり、これからの時期に困りますね。
     物事を他人帆にで判断するのでなく、自分本位で判断するのは簡単そうに見えて、かなり難しい気がします。前回までのブログで自分本位は自己中心的でなく、自分の感じ方を大切にし、他人も尊重していくと学びましたが・・・まだまだ私の頭の中では漠然としています。少しずつでも理解ができたら良いと思います。

  4. 先日の「自己本位」の問題について、精神科医の泉谷閑示氏が興味深い分析をしています。『今の社会では幼い頃から「やらなければならないこと」を休みなく課せられていることが多く、なかなか、ゆっくりと「やりたいこと」に思いを巡らすことができない。進学や就職に際して、特にやりたいことがあるわけでもないままに、何となく流されて選択してしまう。そんな日々を重ねているうちに、ある時ふと「自分は一体何をしているんだ?」「これが自分の望んだ道なのか?」といった疑問が湧いて、ある日突然とうとう動けなくなってしまう。自分はこれまで「他人本位」だったのではないか。それこそが「空虚さ」や不安の根本原因だったのではないか。』漱石がロンドンで抱いたのと同じ空虚さに多くの現代人が苦しんでいます。「他人本位」から「自己本位」の生き方への転換という問題は、古くて新しい問題です。

  5. 実は秋刀魚の不漁は他人事ではなく、それでなくても疲弊を究めている私の地元経済に更に追い討ちをかける様相で、さほど秋刀魚を食さない私でもとても気がかりな事です。報道によると水温の関係で秋刀魚の魚場が日本の近海になく、それゆえ燃料を掛けて当該地に行っても鮮度保障の問題が次にやってくるという痛し痒しの状況が今回のブログで紹介されている「今年のさんま」不漁の現時点での経緯です。そしてこのまま行けば毎年東京目黒で行われている「目黒のさんままつり」に私の故郷からのさんま無料奉仕企画もなくなるかもしれません。今夏はエルニーニョ現象の結果だそうです。海水温の問題です。果たして「さんままつり」までに事態は快復するか?心配しながら見守るしか致し方がありません。

  6. 私は森教授のように他人本位の考えをよくしていることが多いように今回のブログを読みました。というのも、なかなか、自分に自信がなく、自己自身の評価よりも他人の評価をより求めているからでしょうか。自己本位な考えに結びつくほど、客観視できないことが多いです。この自己本位の考えが自分につながるのはとても先、いや、たどり着くことも難しいですが、それを得ようとする心がけは持ち続けていきたいですね。

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