授乳

 室町時代の「世鏡抄」には、「是則ち不老不死の薬也」と母乳の大切さが書かれてあります。この母乳について、授乳の考え方が少し前までは日本と西洋との違いが言われていました。アメリカ政府刊行物の育児案内書「インファント・ケア」の1914年に出された創刊号にはこう書かれてあったようです。
「赤ん坊は、生まれた時から、時計どおりに規則的に授乳すべきであり、授乳と授乳の間には、飲み水以外には何も与えられるべきではない。」
 「育児の国際比較」(恒吉僚子・S.ブーコック編集)NHKブックスに、このことについてかつて話題になったベネディクトの「菊と刀」(1946年出版)に書かれてある文章を紹介しています。赤ん坊が空腹であろうと、単に甘えているのであろうとも、欲しがる時にはいつでも乳を与えられる日本のしつけと、一定の授乳や睡眠のスケジュールを生まれてすぐに、決め、赤ん坊がいかに授乳時間の前や就寝時間に騒ごうとも、その要求は満たされないとするアメリカのしつけを対置させています。しかし、戦後、アメリカの文化が入ってきて、その育児が理想かのように思われていた時代の日本では、時間を決めて授乳をしていました。私が、少し前に聞いた話では、午前中の離乳食は、何時にあげましょうという育児書に合わせて、一生懸命に手作りで離乳食を作り、出来上がった離乳食をすべて赤ちゃんの前に並べ、スプーンに乗せ、育児書に書いてあるその時刻になると構えていて、時報と同時に口に入れる人がいるということでした。あまりに出来すぎた話ではありますが、実際にある母親からの相談を受けたはなしです。
 しかし、最近の育児書では各国による差はたいしてないようです。どの国も厳密に時間を決めて乳を与えるよりも、赤ん坊の空腹に合わせた自己要求型の授乳を目指しているのです。では、なぜ日本では早くからそのような考え方であったのでしょう。「育児の国際比較」の本に書かれてあります。それは、日本庶民の子育ての伝統は、元来、欧米と比べた場合、授乳などに関して、子どもの欲求に応じようとする寛容なものであると言われてきました。赤ん坊が大人の背中におんぶされ、添い寝をされ、泣いてはあやされ、乳を含ませられる日本の育児のイメージは、子どもに早くから一人部屋を与え、「抱き癖をつけない」、「甘やかさない」というような欧米的な育児のイメージと対照的だとされてきたからです。そのような中で、「規則的に授乳」の発想も、子どもとは別個の親自身の生活を確保し、早くから規則的な身体の統制を教えようとする「欧米的」な子育て観に沿うものであると考えられてきました。
 ですから、規則正しく授乳をするのは、子どものためだけではなく、母親の仕事を最小限に抑え、母親に休養と気晴らしの時間を確実に保障する意図もあったようです。しかし、こんな風潮の中でも一時期日本でも育児書のバイブルになったスポックの育児書では、赤ん坊が空腹を訴えたtロ機に食べさせるべきであることを訴えています。しかし、今は、そのスポックでさえ、赤ん坊の個性に配慮しつつも、親が特定のスケジュールに誘導すべきであるという考えは保守的であると言われるほど、寛容化しているようです。
 育児方法は、どれが正しいというだけでなく、大人の都合や、また、科学の解明、外国の影響、粉ミルクや哺乳瓶など技術や道具などの発明によっても左右されるようです。

授乳” への4件のコメント

  1. 授乳ということからでも多くのことがわかるんですね。25日がますます楽しみになってきました。いつの時代も子どもの姿はほとんど変わっていないんでしょうが、親が求められる対応方法はずいぶん変わってきたんですね。子育てはこうあるべきといった感じでマニュアルができてしまうと、それに苦しんでしまう親は常に何割かは出てくるんだろうと思います。そうではあるけれど、あえて授乳期間のマニュアルをつくるとすれば、やはり赤ちゃんが持っている力を信じ、迷ったら赤ちゃんに聞くという心構えではないかと私は思っています。それがその後の子どもの離乳食や食事をどう考えるかにつながっていくのではないでしょうか。

  2. ちょっと前まで、モンテッソーリ保育を少し勉強していたんですが、最近は欧米のオールタナティブな保育をそっくりそのまま輸入することに懐疑的になっています。保育のやり方といえども、その国の歴史や風俗や慣習と無関係で生まれたわけではないと思います。子どもの発達は万国共通でしょうが、日本には日本独自の保育(育児)があっていいと思う。日本の伝統的な授乳のやり方が、欧米と違っているのにやすやすと受け入れてしまったのは、大きな失敗だったようですね。スポックの育児書も、功罪相半ばするバイブルのようです。

  3. 「授乳」という行為ひとつをとってみても洋の東西また時代の変遷にともなってさまざまな相違があることが今回のブログから読み取れます。育児書に合わせて離乳食をあげるお話がありました。保育園では定期的に保護者による保育参観を開催していますがあるとき「育児書」を片手に参観している保護者をみて「育児書」パワーの凄まじさを実感したことがありました。子どもは、特に赤ちゃんは、泣いていろいろな欲求を表しますから、大人にはその泣き声が食事を欲しているのか、不快を表しているのか、などを判断してその欲求を適宜満たしていくという「寛容の精神」が求められます。「抱き癖をつけない」、「甘やかさない」と思ってでしょうか、「赤ちゃん」に厳しい大人を見かけることがあります。この上ない不快を感じてしまいます。

  4.  育児相談の中でも、ブログに書いてある、いかにも作り話のような相談もあるのには驚きました。実際にその育児方法がアメリカで行われていたのですね。ただ、こんな環境で育った子どもは、どのように育っていくか気になります。しかし、アメリカの話しを聞くと、やはり子どもがお腹が空いたら、ご飯をあげ、甘えたい時は十分に甘やかして、何しろ欲求に応じてあげたいと、思います。ただ時代や大人の都合、道具などで大人が楽になる育児に進むのは、いけないと思います。

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