初恋の味

私が若いころ、地域の園長たちと「乳幼児の世界展」というイベントを毎年駅ビルで開催していました。その中で、子育てへのヒントとしてCMコピーをもじって訴えたことがありました。そのときに食育をテーマにつくったコピーは、「離乳食は初恋の味」というものですが、もとのCMのコピーは、「カルピスは初恋の味」です。もうひとつは、「100円でポテトチップスは買えますが、ポテトチップスでは健康は買えません」というものでした。もとのCMコピーは、「100円でカルビーポテトチップスは買えますが、カルビーポテトチップスでは100円は買えません。あしからず。」というものですが、ずいぶん懐かしいコピーですね。
赤ちゃんは、離乳食で初めていろいろな味と出会うわけですので、とても大切であることを訴えようとしたのですが、実は、その前に赤ちゃんが飲む母乳にもいろいろな味があり、おいしい母乳とまずい母乳があるそうです。母乳の原料は血液です。ですから、母乳の味を左右するのは、血液の素となる「食べ物」なのです。では、どんな食べ物が母乳をおいしくするのでしょうか。それは、「昔ながらの和食」にあるようです。和食の主食は、ご飯ですが、これには水分が多く含まれているうえ、他の炭水化物に比べて消化もよく皮下脂肪になりにくい食品です。また、日本食の家庭料理の定番である豆腐や納豆やみそなどは大豆製品ですが、これにはたんぱく質のほか、ビタミンをはじめとするさまざまな栄養素が含まれています。
また、栄養素の中で母乳の量や質にもっとも影響するのは脂肪です。それもなるべく植物性のものか、動物性脂肪であれば魚を中心に、特に白身魚は授乳中のトラブルが少ないので母乳をおいしくします。他にも和食につきものの煮物などに多く使われる根菜類(大根やにんじん、ごぼう、れんこんなど)は母乳の出を良くするとされ、おひたしなどで出される葉物類や海藻類には母乳をサラサラにする効果もあります。和食は素晴らしいですね。
ここ数日注目している「世鏡抄」にも、母乳についての注意事項が書かれてあります。「朝には速く起き出でて乳房を朝日の光に当て、其れを君子に奉るべき也。是則ち不老不死の薬也。早晩も早晩も味好き美物を食すべし。悪しき物をくはば乳あしくて生長難し。」 朝は早く起きて、乳房を朝日に当てなさい。そして、若君に与えなさい。これを読むと、どうも母乳を与えるのは母親ではなく、乳母だったのかもしれません。そして、母乳は不老不死の薬となると言っています。母乳のよさがわかっていたのですね。そして、よい母乳を作るために、毎晩欠かさず美食なさい。食事が貧相だったり、悪いものを食べると乳質が劣化し、子どもの発育に支障があると言っています。そのあとに、食事について注意事項が書かれてあります。これは、よい母乳を出すための美食の説明でもあるのです。「魚鳥の中にも名鳥名魚を食はば、骨となり筋となり皮肉となり、鳥は骨となる。味噌は血と成り、米は筋となる。酒は皮肉の間の血となる。去れば過ぐるは皮と肉と各々になりて心も狂ほしく短命也。如何にも如何にも十三迄は多くのますべからず。」
今の説と若干違うところもありますが、なんといっても室町時代に書かれたものですから。