珈琲

秋の夜長、もうひとつコーヒーの話題で一服。
コーヒーは、よく珈琲と書かれます。これは、もちろん当て字です。もともと日本にはなかったものを、漢字に当てはめるのにはよほどの創造力と、そのものの理解がないとできませんね。その音をそのまま漢字の読みに当てはめるのは簡単ですが、そこに意味も表わすとなると難しくなります。英語の読みをそのまま英語に当てはめるのはよく遊びなどでやることがありますし、子どもに名前を付ける時に音から漢字に当てはめたものも最近は多く見られます。また、店の名前にもそのようなものが見られます。チャップリンの映画で有名な「ライムライト」を採って、「来夢来人」とつけてあるのを見かけることがあります。
江戸時代になると、コーヒーが飲まれることがあり、いろいろな文献に現れるようになり、いろいろな言葉に当てはめられます。江戸時代の俳人である大淀三千風は「日本行脚文集」(元禄2年)の中の「丸山艶文」というところでは、「皐蘆」(なんばんちゃ)と書いていますし、フランス人ヌール・ショメールの「家庭百科辞書」を長崎の山本某が訳した日本最古の珈琲文献「紅毛本草」(天明5年・1785年)には、古闘比伊(こつひい)、波无(バン)、保宇(ぼう)、比由无那阿(びゆんなあ)、比由无古於(びゆんこお)、比由爾宇(びゆにう)などの語が使われています。
もともとの日本語の「コーヒー」という音は、江戸時代にオランダからもたらされた際の、オランダ語の”koffie”の音(コーフィー)に由来しています。江戸時代文化年間の津山藩の蘭学者で藩医であった宇田川榕菴は、「蘭和対訳辞書」を作成するの当たって、このコーヒーに「骨喜」「哥兮」「架非」「珈琲」という4つの語をあてはめました。この中で、「珈琲」が一般的に使われるようになるのですが、「珈」という字は、音読みで「カ」、訓読みで「かみかざり」と読みます。「女性の髪にさす珠玉飾り」という意味です。「琲」は音読みで「ハイ」、訓読みで「つらぬく」と読み、それ貫くひものことをいいます。コーヒーの木に付いたコーヒー果実である赤い実(コーヒーチェリー)の様子を漢字で表していると言われています。中国語では「咖啡」と書かれますが、「王」が「口」になっていますが、日本では、王侯貴族の飲み物という高級感を出すために「王」にしましたが、中国では口で飲むものとして「口」になっているというのは、面白いですね。
これ以外にも、「可否」「哥非乙」「可非」「架非」「骨非」「加非」「唐茶」「豆茶」「煎豆湯」「滑比」「香湯」などの当て字が使われましたが、ちなみに、1888(明治21)年4月13日、東京下谷区上野西黒門町2番地に開業した日本で最初のコーヒー店の名前は、「可否茶館」でした。コーヒー1杯1銭5厘だったそうです。今の物価に直せば500~600円くらいで、それほど高くはなかったのですが、すぐには日本人の口に合わなかったのか、この店はあまりはやらず4年で閉鎖に追い込まれました。その後、1890年に浅草のダイヤモンドコーヒー店、1910年にはメイゾン鴻の巣や、不二家洋菓子店など次々とオープンしています。
 今は、一般に普及し、誰でも飲む飲み物ですが、私の青春時代の思い出の純粋にコーヒーだけを飲ませる姿勢であった「純喫茶」は、あっという間になくなってしまいました。

珈琲” への4件のコメント

  1. 珈琲という字が出来上がった過程はおもしろいですね。コーヒーと書くと一般的な飲み物で、珈琲と書くと大人の飲み物という印象を持っていたため、珈琲と書かれた喫茶店に行ったりするとそれだけで特別な気分をあじわうことができた、そんな頃もありました。黒豆出汁と書かれたものを見ることもありますが、そう表現できるのかもしれませんが、あまり美味しそうではありません。やはり珈琲がいいです。漢字というのは、字の持つ意味だけでなく、形から受け取ることのできるイメージもそれぞれで、おもしろいものだと思っています。

  2. 『純喫茶コレクション』なる喫茶店マニアのサイトを見つけました。「純喫茶」は、昭和の香りを残した文化遺産。お店にあふれるレトロな雑貨にひかれて全国各地の喫茶店を歩いている方のようです。地元の高松市の喫茶店もあってびっくり。今度行ってみなくては。印象的なのは、神田神保町近辺の純喫茶。古本を読むために入店するのか、コーヒーを楽しむために古本を探すのかという話、うんうんよくわかる。少し赤茶けた古本のページをめくりながら、コーヒーを飲む。店内ではクラシック音楽が流れて、至福のひと時ですね。喫茶店には青春時代の思い出がたくさんつまっています。

  3. 「珈琲」が「当て字」だろう、ということは予想できていましたが、その「当て字」の古さに、実は、驚いています。私はこの当て字を近年のこと、と思っていたのですが、なんと「江戸時代文化年間」!!!日本が中国蘭国以外への開国以前に「珈琲」が存在していた!「文化年間」は1804年から1817年。今から実に200年前です。日米和親条約のほぼ50年前。このこと一つを考えてみても「江戸時代」という時代を見直してみなければ、と思った次第です。最近は「喫茶店」に入ることもほぼありませんが、おいしい「珈琲」を求めて外出先で休憩するのもまた一興か。「上野西黒門町2番地に開業した日本で最初のコーヒー店」は今も存在しているのでしょうか?あったら行ってみたいなと思いました。

  4.  まだまだ一般常識が足りないです。当たり前のように「珈琲」という漢字を目にしていたので、当て字とは知りませんでした。また当て字でも、漢字の意味を知っていないと、当てはめることも難しいです。コーヒーの当て字を考え出した宇田川榕菴の想像力は素晴らしいです。当て字で思い出しましたが、子どもの名前も当て字でつける親もいますが、あの想像力は感心します。ただその子どもが大きく成長した時に、心配な気がしますが・・・。
     それにしても、前回と今回のブログで、コーヒーの歴史やルーツなど、一杯のコーヒーからこんなにも深い事を知るとは思ってもいませんでした。これからコーヒーを飲むときは、深い味がするような気がします。

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