もやい

 様々な取り組みには共通点があります。特に、人を対象にするような取り組みにはほかの分野にも通じるような、ほかの分野に参考になるようなことがあります。
水俣病からのイメージを逆転発想し、地域環境を再生して成功した水俣では、とても面白い活動がいくつかあります。そのひとつに「村丸ごと生活博物館」があります。自分たちの暮らしを案内するのは、8名の生活学芸員、山菜とりや野菜作りなどにいそしむ15名の生活職人が、この町のあるもの探しの研修を受けます。自分の家、家まわり、集落のことなど自分たちの暮らしを調べていきます。地域にあるものを探して、確認していくのです。あるものを写真で撮り、「この草木は何と呼んでいるの?」「何に使うの?」というように外の人があるものに驚いて質問することによって、この集落の持っている暮らしの力を引き出していこうというものです。この試みは、元気な街づくりが目的で、外からいろいろな人が訪れるようになり、村人たちは住む誇りを持ち、自信も出てきたそうです。この取り組みが認められ、2005年に「第4回豊かなむらづくり全国表彰」農林水産大臣賞を受賞しています。
水俣再生は「もやい直し」といいます。「もやい」とは、「もやい結び」という紐の結び方を思い浮かべますが、もやいの意味は、もともと船をつなぐことや一緒に何かをするという意味があります。そこで、水俣では、人と人との関係、自然と人との関係が壊れてしまった地域の中で水俣病と正面から向き合い、対話し協働する取り組みを「もやい直し」と名づけました。そのために誰でも気軽に集まり、利用できる施設が水俣・芦北地方に3ヶ所建設されました。今回は、そのひとつの「もやい館」での講演でした。
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吉本さんの著書「地元学って何だろう」の中で、吉本さんはこのもやい直しの四つの原則を挙げています。「人それぞれの違いを認め合い」「人と人の距離を近づけ」「話し合い」「対立のエネルギーを、創造するエネルギーに転換する」です。この四つの原則は、私は組織の在り方でもいえることのような気がします。今、質の向上に競争原理を入れることといわれることがありますが、それは教育、福祉分野では逆に質の低下を招いていることは既に証明されています。それよりも「協同」「協力」であるといわれていますが、その協同、協力とはどういうことかというと、上にあげた四つの原則が当てはまると思います。
地元学は、三つの元気を作ることとしています。一つ目は人が元気になることです。そして、人が元気であるためには逆境と笑いが人を育てると言います。逆境は、それにあっても前向きにとらえて行動することで元気になるのです。未来に希望を描き、環境都市づくりに果敢に挑戦していった住民協働の心が、「もやい直し」になったのです。二つ目は地域の自然が元気なことが必要だといいます。海、山、川が元気であれば、生産と生活の場が豊かになり、漁業、林業、農業の基盤が整い、食べ物を得るだけでなく、遊びの場にもなるのです。三つ目は経済が元気になることだと言います。しかし、この経済は必ずしもお金が必要ということではありません。お金は人の縁を切り、季節をなくす側面があると言います。そうでなく、昔からあった「結」とか「もやい」といった助けあいのような共同と自給自足の経済であるのです。
いまこそ、日本は国の在り方、人の生き方、地域の再生を考えないといけない時期に来ているかもしれません。

もやい” への4件のコメント

  1. 平成の大合併で、七つの町が合併してできたのが私たちの住むM市です。山間地もあれば、平野部の純農村地帯、そして瀬戸内海を臨む漁村もありと個性豊かな街の連合体です。そのため、まだ旧町時代の縄張り意識が強く、市としてこれからどんな未来像を描いていけばいいのか明確ではありません。「人それぞれの違いを認め合い」「人と人の距離を近づけ」「話し合い」「対立のエネルギーを創造のエネルギーに」という吉本氏の地元学の考え方は、そっくり私たちの市のこれからの街づくりの指針になります。もう一度、足元を見直してみようと思います。きっと都会にはない素晴らしい宝物がこの地に眠っている、そんな気がします。

  2. 写真にとるなど具体的に取り組まなければあるもの探しも進まないですね。いつもその「行動」が足りない自分を反省させられます。もやい直しの四つの原則は他の分野でも当てはまります。当てはまるんですが、「認め合い」「近づけ」「話し合い」「転換する」と全て行動です。行動できるようにならなければ何も変えられないというのが、水俣の例をみてもよく分かります。考え方を理解できたとしても、それだけではダメなんですね。当たり前のことに触れて初めて「当たり前」に気づきます。

  3.  水俣と聞くと、やはり水俣病を思い出します。それがあったせいか、やはり水俣には何か特別な目で見ていました。しかし、住民の人たちは水俣病あえて向き合い、住民全員で対話し協働する取り組みしているのですね。ずっと過去にあった過ちからずっと逃げるのでなく、真正面から向き合う事がまずは改善する一歩なのですね。そして「地元学」が活かされ、結果、地域の再生につながるのだと思いました。

  4. 海の近くで育った私は「もやい」という言葉にとても親近感を覚えます。船が岸壁に繋がれている光景がすぐに思い浮かべられます。その船がもやること、つまり海と大地が繋がる、そしてその海と大地とによって育まれている私たちが繋がること、がこの「もやい」という表現の中に凝縮しています。そしてその「もやい」を「地元学」の名のもとに実践にうつして地域の再生を行っている。実に素晴らしいことです。敬服します。「結」という表現も身近です。私が生まれ育った県のテーマが「結のこころ」でした。「もやい」と「結」、ともに共通していますね。それは人と人、そして人と自然が結びついていく、しかも適度な距離感をもって。まさにインクルージョンとコーヒージョンの日本版です。

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