人間力

 人は自分が生きているあかしを求めようとします。自分が今ここに存在する意味を考えます。それは将来への希望であったり、生きる意欲をもたらします。今の日本の若者が生きる意欲を失い、将来への夢を失い始めています。
6年くらい前になりますが、「若者に夢と目標を抱かせ、意欲を高める : ~信頼と連携の社会システム」という報告書が「人間力戦略研究会」から出されました。この報告書の中で、「人間力に関する確立された定義は必ずしもないが、本報告では、社会を構成し運営するとともに、自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力と定義したい。」として「人間力」について定義しています。
またさかのぼること1996年、文部省の中央教育審議会(中教審)は「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」という諮問に対する第1次答申を出しました。その中で、「我々はこれからの子供たちに必要となるのは、いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力であり、また、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性であると考えた。たくましく生きるための健康や体力が不可欠であることは言うまでもない。我々は、こうした資質や能力を、変化の激しいこれからの社会を[生きる力]と称することとし、これらをバランスよくはぐくんでいくことが重要であると考えた」という「生きる力」を中心に据えての話です。しかし、その後、教育はどのような具体的な取り組みをしてきているのでしょうか。ますます、「生きる力」「人間力」は弱まってきている気がします。
今月号のCasaの特集は建築家安藤忠雄の「人間力」「建築力」です。 彼は人間力についてこう語っています。
「人間というものは、考えて苦しみ、考えて苦しみ、苦しみつつも前進しながら生きていく。そしてその間に、生きる喜びを味わいながら、社会の理不尽への“怒り”を乗り越えていかなくてはならない。その思いの深さ、情熱の激しさが人間の生の原動力になる。私はずっとそう思っているわけです。建築家というと芸術的な仕事のように思われがちですが、実はこれほど現実的でドロドロした仕事はありません。多くの人間と、何より多額のお金が動きますから……。いくらいいアイデアが頭にあっても、経済や法律といった、いろいろなしがらみがあってなかなか思う通りに進まない。
そのとき、動かない仕事を動かすのが、“人間力”なんです。周囲の人間を巻き込んで、なんとしてもこれを作り上げるのだという気迫、デザイン力を超えた個人の情熱の力です」
そして、日本の歴史を振り返ります。自然と共生するような西欧都市の骨格ができたのは19世紀後半ですが、そのころの日本は明治維新で西洋近代化の社会を引き入れることに一生懸命でそれどころではなかったのです。しかし、西洋化するスピードの速さは世界の奇跡だと言われていますが、それができたのは寺子屋を含めて江戸時代からの教育が生き届いていた点であると指摘しています。都市のビジョンがなくとも、民族の尺度が高かった故、形の上では世界都市を造りえた。それが東京だと言います。
 これからの時代をどんな人間力がつくっていくのでしょうね。そして、教育はどんな人間力を作っていくのでしょうか。

人間力” への4件のコメント

  1. 情熱を持つことが好きにつながり、更にその情熱は増していくんだと思っています。それが生の原動力となり、人間力になるというのはすごく納得できます。今回特に興味を持ったのが「社会の理不尽への“怒り”を乗り越えていかなくてはならない」の部分です。問題を解決したり人の心を動かしたりすることを目的としたとき、怒りが原動力になることは確かにあるけれど、その怒りをそのまま表現しているうちはダメなのではないかとと考えさせられる場面に出くわすことが多くなりました。上手く言葉にできませんが、自分の中で怒りを消化し、もっと軽い受け入れやすいものに形を変えて表現しなければ、問題解決にも人の心を動かすことにもつながらないのかもしれないと思っています。社会の理不尽への“怒り”をいかに乗り越えるか。課題は尽きないものですね。

  2. 『人間というものは、考えて苦しみ、苦しみつつも前進しながら生きていく。そして、生きる喜びを味わいながら、社会の理不尽への怒りを乗り越えていかなくてはならない。その思いの深さ、情熱の激しさが人間の生の原動力になる』ー心に深く突き刺さる安藤氏の箴言です。最近、利害を超えて自分の信ずる「真の保育」を提案する仕事を続けていくことに迷いを感じていましたが、もう一度挑戦する勇気が湧いてきました。夢をあきらめないで生きていこうと思います。

  3.  正直言いますと、私はこのブログを読んでいなかったら、具体的な夢も持てずに、ただ、淡々と生活していたような気がします。ただ、小さい頃はもちろんありました。しかし、このブログを読み始め、色々な事を知り、そして人の生き方を知り、夢というものが持ててきたと思います。ただ「人間力」があるか?と聞かれたら、自分自身まだまだ未熟なので100%あるとは言い切れません。いつか自信を持って「あります」と答えてみたいです。
     安藤忠雄さんの言葉は心に響きました。彼は建築家で私と全く違う職種ですが、全ての事に通用することだと感じました。「周囲の人を巻き込んで、大きな物を作り上げていく」なんだか今の自分に言われている気がします。

  4. 「動かない仕事を動かすのが、“人間力”なんです。周囲の人間を巻き込んで、なんとしてもこれを作り上げるのだ・・・」安藤忠雄氏のこの「人間力」定義は具体的な業績を残した人ならではの真に迫る発言だと思います。私はこの表現のなかの「なんとしても」にその真実性を実感します。「多くの人間と、何より多額のお金が動きますから……。」建築界という「ドロドロした仕事」に真正面から向き合い「動かない仕事を動かす」ことの大変さは想像してもその壮絶さが伝わってきます。これは建築界に関わる安藤さんの言ですが、私が携わる教育界でこそこれらの言葉は生きなければならない。そして教育界における「人間力」実践に幸い関わらせて頂いていると自分の微小な「人間力」が常に試されそして鍛錬されます。ありがたいことです。

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