夕顔

 朝顔市で多く見るしたては「行灯仕立て」と言い、鉢のまわりに何本か支柱をたて、そこに輪をつけて、蔓をからませていくやり方です。店の人から、あまり葉が茂っていないものの方が、花がきれいに咲くと教えてくれました。ですから、小さな葉、細い蔓のほうが大きな花をつけるようです。また、そこに植えてある花の種類は、4種のものが主流です。そして、色の濃い花と淡い花が多いものと選びます。その中で、茶色の朝顔を「団十郎」と呼びます。本来は、「団十郎」という特定の品種のことですが、歌舞伎の団十郎が好んだ色ということで茶色の系統を「団十郎」と呼んでいます。
 そんな日本独特の朝顔ですが、「朝顔」という巻が、「源氏物語」54帖のなかの第20帖にあります。この朝顔は、源氏が若い頃から熱をあげていた女君の一人です。しかし、源氏の求愛を拒み続け、結局は独身を貫き通して出家してしまいます。その朝顔という名前は、源氏からアサガオの花を添えた和歌を贈られたという逸話からきています。「見しおりの露忘られぬあさがほの 花のさかりは過ぎやしぬらむ」(昔みた忘れられない朝顔も 花のさかりは過ぎたのでしょうか。)朝顔は、意外と早くしぼんでしまい、そのあとの姿は美しく咲き誇っていた姿とのギャップが激しく、とてもみじめに映ってしまいます。
 今回の朝顔市でもう一つ目を引いたのが大輪の真っ白い花をつけている「夕顔」があります。園へのお土産に、この夕顔も買いました。
yuugao.JPG
 「夕顔」は、「源氏物語」では第4帖にあります。光源氏が17歳のころ、乳母の見舞いの折、粗末な家の垣根に,きれいな夕顔の花に目を留めます。その花を源氏が取りにやらせたところ、邸の住人の使いの人が「これに花を載せてお持ちなさい」と扇を渡してくれました。夕顔の花が載せられた扇は良い薫物の香りと共に,きれいな字で和歌が書かれていました。「心当てに それかとぞ見る 白露の 光添へたる 夕顔の花」(もしかしたらあなた様かと思いました。白露のような光を添えている夕顔の花のように美しい方なので)その歌に魅せられた源氏は、和歌で返事をします。「寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる花の夕顔」(近寄って確かめてください。夕暮れに見た美しい花を)
その後源氏は、彼女のところに通うようになります。しかし,相手の住まいは粗末な家であるために、お忍びで訪れますが、彼女は、自分の名を明かさず、源氏もその女性の正体を知らさぬまま、二人は逢瀬を繰り返しました。ある日,光源氏は夕顔を人が住んでいない荒れた邸に連れて行きます。そして、うとうとと眠りについた夜、源氏の枕元に女性の幽霊が立っていたのです。あわてて太刀を抜き打ち払おうとするとしばらくして幽霊は消えてしまいます。ところが、おびえた夕顔は息も絶え絶えで、光源氏の必死な呼びかけにも答えず身体は冷たくなっていき、そのまま亡くなってしまうのです。
「見し人のけぶりを雲と眺むれば 夕の空もむつましきかな」(かつて契りを結んだ人を火葬にした煙があの雲かと思って眺めていると、この夕方の空も慕わしいことです)出会ってから最後を迎えるまでの夕顔の君は、まさに暁を待たずに死んでいく夕顔を彷彿とさせます。蕾のまま死んでいく夕顔の姿を、「ただ冷えに冷え入りて、息は疾く絶えはてにけり。いはん方なし」と描写しています。

夕顔” への5件のコメント

  1. 今年が源氏物語が生まれて千年というので、ちょっとした「源氏物語ブーム」のようですね。アニメ世代の若者にも日本のベルばらといった感覚で受け入れられているのはいいことです。今は、携帯やメールで愛の告白も絵文字入りで出来ちゃいますが、オジサンたちの世代は、ラブレターの文章一つ一つに人生を賭けて燃ゆる思いをこめて綴ったものです。我が家の「朝顔」の君(愚妻のことです)と交際中、家内の名前を入れて一篇の詩を贈ったことがあります。今振り返れば汗顔至極ですが、家内はいまだにそれを大事に保存しているようです。なにかあるごとに、その詩の出だしを持ち出して攻撃してきます(笑)。これからそんな時は、ボンレスハムと化したそのお姿を見ながら「花のさかりは過ぎやしぬらぬ」とつぶやくことにします(笑)。

  2. 勉強の仕方が良くなかったのか、和歌に対しての苦手意識が強く、今回登場した和歌を見て「うっ」とうなってしまいました。今まではどうしても文法のこととかを考えてしまって嫌になっていたのですが、声に出して何度も読んでいると、不思議と雰囲気を掴んだような気になりました。新たな発見です。メールなどでは味わえない独特の感覚です。

  3. 先日、上京して久しぶりに八王子に行きました。
    その後、ただちに新宿にお伺いして、先生がご講演出張の園舎でひとり作業をしました。
    あれこれとお申し出いただいたことがらを順番に作業したつもりでしたが、芝刈り機の手入れを忘れて帰ってしまいました。
    「石見野や 高角山の木の間より 我が土下座する姿 中山先生みつらむか」
    次はちゃんとやります。本当です。

  4. 白い朝顔は初めて見ました。基本的に赤、青、むらさきなどの色しか見たことがありませんので、とても驚きました。ただ、夕顔という朝顔の名前自体は、以前から聞いていたので、存在は知っていましたが、実物は知りませんでした。まさか白い花を咲かすとは思ってもいませんでした。源氏物語の登場人物で夕顔が出てきますが、ブログを読んでより詳しく理解することが出来ました。
     昨日のブログで朝顔の種は薬として利用されていたり、「源氏物語」でも大きな存在です。朝顔は私が思っている以上に深い植物です。

  5. 夕顔の花は、朝顔や昼顔の花に比較すると大輪です。先日まじまじと見る機会を得ました。今夏は色とりどりの朝顔と夕凪に咲き誇る夕顔の花を愛でることができそうです。紫式部『源氏物語』「夕顔の巻」はなかなかに読み応えがあります。女性の正体も知らぬまま「逢瀬」を繰り返す源氏と夕顔。しかしやがて悲しい結末が。六条御息所の霊(?)が災いしたか夕顔は朝には「ただ冷えに冷え入りて、息は疾く絶えはてにけり。いはん方なし」というありさま。この「いはん方なし」が全てを物語っています。因果応報と諸行無常の諦観がそこはかとなく全編に漂う『源氏物語』。すばらしい日本の宝です。さて、出雲屋安兵衛様、どうかご心配なく。「忘れて帰って」もまた元の場所に戻っていますよ。またのご来園、心よりお待ちしております。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">