伝承

今日の毎日新聞の「地方版」に、こんなニュースがありました。「伊賀鉄道伊賀線の利用者に季節感を感じてもらおうと、“風鈴列車”の運行計画が進んでいる。風鈴には、参加者が詠んだ俳句を付ける。」というものです。昨日のブログのセミではありませんが、あちこちにぶら下げられた風鈴が鳴る列車に乗ると、外国人はどう感じるでしょうね。ずっと、うるさい車内に辟易してしまう人もいるかもしれません。
芭蕉は、うるさいセミの音から「しずかさ」を感じました。日本人は、「風鈴」のおとから「涼しさ」を感じます。ですから、風鈴は基本的には夏のものです。そういえば、先日もこんな新聞記事がありました。「夏本番を前に、東京の職人が江戸風鈴の製作に追われている。」というものです。この記事には、その風鈴が作られる過程も紹介されていました。「約1320度の炉で溶かしたガラスを共竿(ともざお)と呼ばれるガラス管を使って膨らませ、風鈴の形を作る。鳴り口の部分を石ヤスリでぎざぎざに削り、内側から絵付けし、糸を付けて完成。」
ここで紹介されている風鈴は、「江戸風鈴」と呼ばれるもので、ガラス製です。他にも、鉄器(金属製)のものは南部鉄器でできた南部風鈴や高岡風鈴があります。他にも、北条時代からはじまった小田原の伝統工芸のひとつである小田原鋳物から生まれた小田原風鈴も有名です。私は、東京の下町育ちですから、夏になると天秤棒に多数の風鈴をぶらさげた風鈴売りが町々を売りあるく姿は、夏を告げる風情の一つでした。これは、江戸時代から見られた姿で、あつい夏に涼をよぶ小道具として庶民の人気をあつめ、江戸中期にはシノブグサを輪状にたばねて軒先につるした釣忍の小道具にもつかわれました。
このように日本の生活感と、季節感と、感性にマッチした風鈴ですが、実は風鈴の語源は中国で仏堂や塔につるされていた風鐸だと言われています。風鐸は鐘のような形で、中央につりさげられた舌の先の錘が鐸の内側を打って音をだすもので、最初は「占風鐸」といって竹林に下げて風の向き、音の鳴り方で、物事の吉凶を占う道具でした。その後、その音は昔から魔除とされ、風鐸を家の四隅に鐘を取り付け、その音で邪気を払ったりしました。そして、この風鐸が仏堂や塔などの建造物の軒の四方につり下げられ、その音でその周りの住民に災いが起きないようにと鳴っていたのです。そして、それが仏教とともに日本に伝わり、平安、室町時代の上流階級の間では縁側に下げることが流行りました。このように風鐸をつるして外から疫病神が屋敷の中にはいるのを防いだと六学集という書物に書かれてあります。そのように日本でも風鐸は魔除けとして用いられたのですが、それに「風鈴」(ただし当時は「ふうれい」)と名づけたのは鎌倉時代の僧の法然だと言われています。「法然上人行状絵図」には銅製の風鈴が軒に下がっている光景が描かれているそうです。
このように起源が中国であった風鈴が日本の感性に合うように発展してきましたが、その形も地域によって違う発展をしていきます。ガラス風鈴である江戸風鈴も、もともとは、享保年間(1700頃)に長崎のガラス職人がガラスを見せ物として大阪、京都、江戸にて興行しながら伝わったと言われています。そのころガラスは原料を作る技術がなく、外国から輸入をするか、外国人のいる長崎でしか手に入らなかったからです。そして、江戸のガラス屋の問屋である上総屋留三郎が、長崎にガラスの研究にゆき、江戸でガラスの原料を作って卸を始め、ガラス製品がいろいろと作られるようになっていったようです。その一つが江戸風鈴なのでしょう。
子どもの伝承おもちゃ同様、伝承とは、その地域で生まれたというだけでなく、その地域で育ち、その地域の感性に合うように変化してきたものなのです。

伝承” への5件のコメント

  1. GTメンバーの江戸川区安養寺光徳保育園さんの新園舎がほぼ完成しました、このところ毎日役所の検査です。江戸川区篠崎の無形文化財でもある篠原風鈴さんに新園舎のネタ探しに行ってみました。風鈴の種類も様々で、音色はダイソーに売っているものとは全く違います。今の時期、つりしのぶと風鈴のセットが売っています。なかなか風情があります。

  2. 風鈴の音色には、以前このブログでもご紹介のあった「1/f揺らぎ」効果があることが知られています。また、風鈴の音には3000ヘルツ以上の高周波音が含まれていて、脳内ストレスを抑制したり、思考・運動能力を活性化させるホルモンの分泌を促す働きがあるそうです。つまり、風鈴の音を聴くと、気持ちが安らぐだけでなく、元気ややる気が出てくるというから侮れません。川のせせらぎや波の寄せる音と同じように、風鈴の音色を使ったヒーリング音楽もCDとして販売されています。寝苦しい夜の安眠に試してみてはいかがでしょうか、

  3. 風鈴のギザギザの切り口を初めて見たとき、処理をし忘れたと思ってしまいました。あれが綺麗な音の秘密なんですね。3つの風鈴を飾っていますが、それぞれが違う音色で、つい聞き入ってしまいます。吊りしのぶも飾ってみたくなりました。
    伝承については、自分自身の捉え方を見直さなければいけません。地域で育ち、地域の感性に合うように変化してきたものをと向き合うことを、特に意識してやっていこうと思います。

  4. 園の子どもたちが過ごす場所に風鈴が吊るされています。「南部風鈴」です。窓を開け風があると華麗な音色を聴かせてくれます。その音色を聞く子どもたちの何人かの中にはその子の原風景としてその風鈴の音色が残ることでしょう。風鈴の存在は、そして他のものもそうですが、子どもの心に一生残り続ける音を発してくれる、そんな気がします。「伝承」は遊び道具だけではなく「風鈴」や「簾」などもそれらが存在することによって「伝承」のきっかけをつくります。それゆえ環境として何が子どもたちの回りにあるか、とても重要なことになってくると思います。「ししおどし」の音も印象深いでしょうね。竹筒の動きへの関心から竹が石打つ音に関心が移行していくことでしょう。

  5.  風鈴は、そんなに珍しい物でもないですし、むしろ何処にでもある物なので、逆にそこまでじっくりと見たことがなかったので、石ヤスリでギザギザに削ってあるとは分かりませんでした。風鈴にように身近すぎて、細かい部分まで見えない物というのは多々あると思います。時には、そういう身近な物ほどじっくりと観察する必要もあると思いました。そんな風鈴も中国から伝来してきたというのは驚きました。時代劇で、屋台で売られていたり、家にもあるので、もともと日本の物だと思っていました。中国から来たものが日本の文化に変化し、そして日本のそれぞれの地域でも変化してきたものなのですね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です